ローン特約による契約解除と媒介報酬

-ローン特約による契約解除と媒介報酬- (RETIOメルマガ第136号より転記)

融資不承認により売買契約が解除され、買主が媒介業者に支払済媒介報酬の返還を求めた

が、棄却された事例

 

土地の売買契約を締結するにあたり、媒介業者と媒介契約を結んだ買主が、融資の承認が

得られなかったため、ローン特約に基づき売買契約を解除したと主張して、媒介業者に対し

て、支払済みの媒介報酬の返還を求めた事案において、融資不承認は買主の不実・虚偽の申

告によるものであるとして、媒介業者に報酬の返還義務はないとされた事例(東京地裁 平

成28年7月19日判決 棄却 ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

買主Ⅹ(原告)は、平成27年1月25日、売主A(不動産業者)との間で、都内所在の土

地を代金額5980万円で購入する旨の売買契約を締結し(本件売買契約)、同日手付金50万

円を、翌26日に中間金50万円を支払った。また、Xは、Y(被告)との間で、一般媒介契

約を締結し(本件媒介契約)、同月30日、仲介手数料として200万円余を支払った。

本件売買契約には、17条において、大要下記の定めが設けられている。

(2)項 本件売買契約は、Xが甲または乙住宅ローンからの借入れができることを条件と

して締結するものであり、平成27年2月16日までに、融資の全部若しくは一部につい

て承認が得られないとき、又は否認されたときは、Xは、本件売買契約を解除することが

できる。

(3)項 (2)項によって本件売買契約が解除された場合、Aは受領済みの金員を返還し、

同時に、本件売買契約を媒介した宅建業者も受領済みの報酬をそれぞれ売主・買主に無利

息で返還しなければならない。ただし、Xが融資申込みの際不実・虚偽の申告をしたこと

により融資が否認又は減額になり、本件売買契約の履行が不可能となった場合は、(2)項

及び(3)項本文の規定は適用しない。

また、本件媒介契約には、10条2項において、「融資の不成立が確定し、これを理由とし

てXが本件売買契約を解除した場合は、YはXに、受領した仲介手数料の全額を無利息で返

還しなければならない。」との定めが設けられている。

Xは、甲住宅ローンの申込書に、前年(平成26年)の年収を1200万円(すべて給与所

得)、前々年(平成25年)の年収を900万円である旨記載したが、収入の証明書類として提

出した、特別区民税・都民税課税証明書には、平成25年中の合計所得金額は179万円余で

あり、全て営業等所得である旨記載されていた。

X、Y及びAは、平成27年2月12日、甲住宅ローンから、融資の審査が通らないとの連

絡があったため、ローン利用特例の期日を同月20日まで延長する旨の合意をした。

Xは、甲住宅ローンの申込み後に、住民税の修正申告を行い、同月19日付けの納税証明

書には、平成25年中の合計所得金額は869万円余、本税は32万円余、延滞税は8500円(い

ずれも納付済み)と記載されている。

同月20日、Xは、乙住宅ローンの担当者から審査が通らない見込みであると告げられた

ため、同ローンに対する融資の申込みを断念し、同月27日には、Aとの間で、本件売買契

約が適法に解除され、手付金及び中間金の合計100万円が返還されたことを確認する旨の

覚書を作成した。

Xは、Yに対し、不当利得返還請求権に基づき、支払済みの仲介手数料の返還等を求めて

提訴した。

 

2 判決の要旨

裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を棄却した。

(1)Xは、甲住宅ローンに対する融資の申込みをするに当たり、前年の年収は1200万円、

前々年の年収は900万円であると申告したにもかかわらず、提出した証明書類である特別

区民税・都民税課税証明書に記載された平成25年中の所得は179万円余とされていたので

あるから、申告した収入とこれに対応する証明書類の記載との間に食い違いがあったとい

うことができる。もっとも、申込みと同時に証明書類を提出している以上、申込みどおりの

収入を得ていたことを証明できなかったというだけであり、直ちに虚偽の事実を申告した

ということにはならない。

(2)他方、甲住宅ローンがXの融資申込みを不承認としていることに鑑みれば、Xの甲住

宅ローンへの融資申込みが否認された理由が、収入が証明できなかったことや、形式的な不

備があったことにあるものとは考え難い。

そうすると、外形的にみれば、Xは、甲住宅ローンに融資の申込みをするに当たり、虚偽

の内容が記載されている課税証明書を提出するとともに、延滞税の支払が生じる状況にあ

ることを報告していなかったことになるから、そのような場合は、不実・虚偽の申告により

融資が否認された場合に当たると解すべきであり、本件売買契約17条⑶項ただし書の適用

により、Xにおいて本件売買契約を解除することはできないと解するのが相当である。

(3)Xは、乙住宅ローンに対する融資の申込みをしていないが、甲住宅ローンに対する融

資の申込みに当たり虚偽の申告をしたために融資を受けられなかったという状況下で、新

たな融資の申込みを断念したのであるから、そのような場合を融資の申込みが否認された

場合と同視することはできず、本件売買契約17条(2)項に基づく解除の要件を満たしてい

ないというべきである。

なお、平成27年2月27日付けの覚書の存在は、本件媒介契約10条2項の適用関係に影

響を及ぼすものではない。

(4)以上によれば、Xは、本件売買契約17条(3)項ただし書に基づいて同契約を解除す

ることはできないから、本件媒介契約10条2項の適用はなく、Yに対し、支払済みの仲介

手数料の返還を請求することはできない。

 

3 まとめ

本件では、売主・買主間での契約解除は合意されたものの、ローン特約による解除はでき

ないとされ、媒介業者に対する報酬の返還請求は棄却されました。

判決文によれば、媒介業者の照会に対し、ローン会社は、確定申告の修正申告がされた場

合には、理由によっては、融資が承認されるのは難しいと考えられる、延滞税がある者が融

資を承認されるケースは少ないと回答したとされています。融資金利が低率で推移し、一般

にローンの融資額も高額になっているようですが、ローンの取扱いをめぐっては、実務上も

留意すべき回答内容ではないでしょうか。

なお、ローン特約による解除について争われた事例については、当機構HP「判例検索シ

ステム」も参照してみてください。

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