最近の判例から

RETIOメルマガ第145号より引用

◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆                    [地中埋設物の説明義務] 買主が主張する地中の転石の存在は、売主業者はその存在可能性について説明していたと して、買主の賠償請求を棄却した事例(東京地判 平29・10・20 ウエストロー・ジャパン)  老人ホーム建設用地として造成地を取得した買主が、地中に多数の転石があったとして、 売主に対して工事費増額分とこれらの処分費等の支払いを求めた事案において、売主から の重要事項説明書の記載からもこれらの存在の可能性は明らかであるとして、請求が棄却 された事例(東京地裁 平成29年10月20日判決 棄却 ウエストロー・ジャパン) 1 事案の概要  平成23年10月、買主X(原告・医療法人)は、売主Y(被告・不動産業者)との間で、 その所有にかかる土地(本件土地)につき、代金を3億1500万円とする売買契約を締結し、 平成24年3月、XはYより本件土地の引き渡しを受けた。  同年11月、Xは本件土地上に老人ホームを建設すべく建設業者Aと工事請負契約を締結 した。Aがこの工事に着手したところ、本件土地の地中に多数の転石(本件転石)が存在す ることが確認された。  Xは、 (1)Yは自ら本件土地の造成工事を施工し、本件土地の地中に多数の巨大な転石が存在し ていたことを認識しており、そのままの状態では建築工事に支障を来す、又は転石の 撤去に多額の費用を要することを容易に予想できたのに、Xに本件土地の利用に関し て障害となる上記事情を説明しなかったことは信義則上の説明義務に違反する。 (2)本件転石は直径約0.5メートルないし1メートルのものを中心に直径約2メートル のものまであった上、その量も合計1000トン以上と膨大なものであったため、通常 の杭施工が困難であったから、本件土地は通常有すべき品質を欠く。また、地質、建 築工事等について知識のないXは、Yの本件土地に岩はない旨の説明を信じていたか ら、本件転石の存在につき無過失である。したがって、本件転石は「隠れた瑕疵」に 当たる。 と主張して、Yに対し、Xが工事費増額分及び転石処分費用等に要した費用等5131万円 余の賠償を請求する本件訴訟を提起した。  これに対してYは、 (1)Yは本件土地の造成工事の発注者であるにすぎず、本件転石の存在を確定的に認識し ていたわけではない。また、Yは、重要事項説明書をXに交付した際、Xに対し、地 中埋設物の可能性について説明を行っていたから、Yに信義則上の説明義務違反はな い。 (2)本件転石の大きさは短辺0.3メートルに満たない程度のものが中心であり、この程度 の大きさの転石はそもそも「瑕疵」には当たらない。また、Xは本件売買契約に先立 つ重要事項説明の際にYから地中埋設物の可能性について説明を受けていた以上、少 なくともXには過失があるから、「隠れた」瑕疵ともいえない。 と反論した。 2 判決の要旨  裁判所は次のように判示して、Xの請求を棄却し、訴訟費用は全額Xの負担とした。 (1)Yによる説明義務違反の有無について  認定事実によれば、Yが、本件売買契約の締結の1週間前に行った重要事項説明の際に、 Xに交付した重要事項説明書の特記事項欄には杭工法や地質についての記載があり、口頭に よりこれを読み上げることにより、本件土地の地盤に岩が存在するために特定の工法が必 要となったり、本件土地の地中埋設物としての岩の存在により土の入れ替えを含む特別な 処理が必要となる場合があることを説明していたことは明らかである。  そして、この重要事項説明の際はもとより、本件売買契約の締結に至るまでの間に、Xか ら、杭工法や地質に関する質問がなされたり、追加資料の提出を求めることはなかったから、 本件土地の地盤、地質等について重要事項説明書に記載されたところと異なる説明をあえ てYがしたとも認められない。  以上のような事情を総合すれば、Yに信義則上の説明義務違反があったとはいえない。  なお、YがXに本件土地についての杭工法、地盤、地質等について、重要事項説明書の記 載以上の具体的な説明を行うことがなかったとしても、土木や建築工事の専門家でないXに その詳細を説明する必要性や実益があったとはいえない(Xから本件建物の新築工事を請け 負う工事担当業者において、上記重要事項説明書の記載を契機として、Yに問い合わせたり、 自ら調査したりすれば足りる。)から、上記判断は何ら左右されない。 (2)隠れた瑕疵の該当性について  上記(1)で判示したところによれば、Xは、Yから本件売買契約の締結に先立つ重要事 項説明を受けた際に、本件土地の地中埋設物としての岩の存在可能性についても説明を受 けたことにより、本件転石の存在を容易に予見することができたことは明らかであるから、 Xが本件転石の存在につき善意であったとしても、Xには過失があったというべきである。 そうすると、仮に本件転石が「瑕疵」に当たる余地があるとしても(本件請負契約における 工期の延長や代金額の増額の原因が、本件転石ではなく、本件土地の支持基盤の急傾斜を十 分検討していなかったAにあった可能性を証拠上、否定し得ないため、本件転石が「瑕疵」 に当たると断ずるのは相当ではない。)、これを「隠れた」瑕疵ということはできない。 3 まとめ  本件は土地の売買において、地盤や地中埋設物の説明義務違反の有無および本件転石は 売主が担保責任を負う隠れた瑕疵に該当するかが争われた事案です。  本件では売主業者が重要事項説明において本件転石の存在により特別の処理等が必要に なる可能性があることを説明していたと認定されたため、売主業者に説明義務違反はなく、 したがって本件転石は「隠れた瑕疵」にも該当しないと判断されました。  土地の売買にあたっては、地盤調査や土壌調査について本来は物件引渡し前に売主の負 担で実施するのが望ましいですが、実務においては手間やコストの問題から物件引渡し後 に買主の負担で実施する場合も見受けられるようです。  媒介業者としては、売主に対して十分ヒアリングを行い、場合によっては専門機関による 調査結果等を活用の上、買主に対して必要かつ適切な説明を行うことがトラブル回避のた めには肝要と思われます。

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