RETIOメルマガ第154号より引用
◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆
[地中障害物]
土地を購入して4年経過後に目的とする自宅建物を建築しようとしたところ、建築の障
害となる地中障害物等が発見されたため、買主がその除去及び地盤改良費用等の支払いを
売主及び媒介業者に求めた事案において、地中障害物の存在を把握していた売主の賠償責
任を認め、売主より敷地内残存物がないと説明を受けていた媒介業者の調査義務は否定し
た事例 (東京地裁 平成30年3月29日判決 認容 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成19年3月、売主Y1(被告・宅建業者)は、本件土地及び旧建物を購入し、同年10
月に旧建物の取壊しを行い更地にした。
平成20年6月、本件土地について、自宅建物建築を目的とする買主X(原告)は、媒介
業者Y2(被告)の媒介により、Y1と売買契約を締結し、同年7月に引き渡しを受け
た。
なお、売主作成の物件状況等説明書において、「敷地内残存物、旧建物廃材、建築廃
材、浄化槽、井戸」に丸は付されていなかった。
(売買契約書の概要)
・売買代金:7億円
・売主の瑕疵担保責任:引渡し完了日から2年以内に限り売主は責任を負う。
・本件特約:本件土地上に建築物を建築する際、地耐力強化のための地盤改良工事等が必
要となる場合があっても,この費用等については、買主の責任と負担で処理することを
売主は呈示し、買主はこれを容認する。
平成24年10月頃、Xは鉄筋コンクリート造りの自宅用建物建築のため、建設会社に地盤
の調査を依頼したところ、本件土地に旧建物の土間スラブやコンクリートガラ、H鋼、井
戸等の本件地中障害物が確認され、当初予定の表層改良工事では地耐力不足が考えられた
ことから、柱状改良工事を行うこととした。
平成27年にXは、Y1及びY2に対して、本件地中障害物が存することの説明を行わな
かった等の不法行為・債務不履行責任を理由に、Xが支出した地中障害物の除去及び地盤
改良工事費用2121万円、同変更工事検討費用83万1600円、工期延長に伴う家賃51万 4300
円、弁護士費用等225万円の計2480万円余を求める本件訴訟を提起した。
Y1は、本件地中障害物について認識していなかった、認識していなかったことについ
て過失はないなどと主張した。
Y2は、Y1より敷地内残存物がない旨の物件状況等説明書を受領しているから、地中
障害物の有無等についての調査義務は履行済であるなどと主張した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、X のY1に対する請求を認容し、Y2に対する請求を棄
却した。
( 不法行為の存否について)
(1) Y1は、本件土地取得時に解体業者Aに旧建物の解体を依頼し、その際に旧建物に地
下室が存在し、大量のコンクリートガラ等が発生したが、Aはそのすべてを搬出および処
理することなく、本件土地中に残存させ、土中に埋め戻したため、Xは本件売買契約時に
予期していなかった地盤改良工事を行わざるを得なくなったということができる。
本件土地中に存在していた障害物の量および範囲等に照らすと、取引通念上通常有すべ
き性状を欠いており、本件土地には瑕疵があるものと評価することができる。
また、Y1は、Xに対し、売主として、物件状況等報告書の作成等を通じて、売買の対
象となる土地の状況について正確な情報を告知・説明する義務を負っていた。
Y1は、旧建物が存在する状態で土地を購入し、Aに依頼して旧建物を取り壊したので
あるから、旧建物には地下室が存在し、旧建物の解体に伴う地中障害物が残存しているこ
とを把握し得たにもかかわらず、Aの遂行状況を確認することなく、物件状況等報告書を
作成したものと推認することができるから、Y1は上記義務の履行を怠ったというべきで
ある。
本件売買契約には本件特約が付されているが、同特約は定型的に設けられたものである
こと、そもそも上記地中障害物が残存することになったのはY1が旧建物の取壊しをAに
依頼したことが契機となっていること、取壊し完了時にY1の担当者が立ち会っているこ
と、Y1は直接解体工事の内容と実施について確認していないこと、本件売買契約を締結
する際にXが地盤改良工事に要する費用等を考慮し、Y1と本件売買契約を締結するに当
たってこれを前提に売買代金額を決したことはうかがえないことなどを考慮すると、本件
特約の射程範囲は、Y1の行為を契機として地中に多量の障害物が存在した本件のような
場合にまで及ぶものと解するのは相当ではない。
したがって、Y1は、Xに対し、不法行為に基づき2480万円の損害賠償義務を負う。
(2) 本件売買契約締結時点において、更地化されていた本件土地について、宅建業者であ
るY1が物件状況等報告書において敷地内残存物はない旨を説明していることから、本件
において、これに加えてY2が独自にその真偽等について調査すべき義務が発生するとは
言い難い。したがって、XのY2に対する請求は理由がない。
3 まとめ
本判決は、売主業者が買主に建物建築の障害となる地中障害物が存在することの説明を
行わなかったこと等により、不法行為に基づく損害賠償が認められたものです。
いずれにしても、建物(基礎・基礎杭)を解体撤去し、買主に土地を引き渡す売買契約に
おいては、建物基礎杭や地中障害物等の撤去範囲について、契約締結前に売主、買主間で予
め協議し、それぞれの責任と負担について、両者の理解と認識を一致させた上で、取引を進
めることが重要です。
その他、地中障害物の存在が買主の通常の建物建築を妨げる瑕疵に当たるとされた事例
として、残置された基礎杭の事例(東京地判 平25・11・21 RETIO102-112)、隠れていた井
戸の事例(東京地判 平21・2・6 RETIO77-130)があり、また、障害物の存在が説明され
ており隠れた瑕疵にあたらないとされた事例として、残置された基礎杭の事例(東京地判
平22・8・30 RETIO82-166)があります。