最近の判例から    ・・・ 売買契約の違約解除

RETIOメルマガ第156号より引用

◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

                  

[ 売買契約の違約解除]

宅建業者である買主には売主が抵当権抹消できるかどうか確認する義務がある、などとし

たマンションの売主の主張を採用せず、買主宅建業者の売買契約の解除及び売主に対する

違約金請求を認めた事例(東京地裁 平成29年7月18日判決 認容 ウエストロー・ジャパ

ン)

 

1 事案の概要

 

宅建業者Xは、平成28年2月24日、Yとの間でYが所有する投資用マンション一室を

1200万円で買受ける売買契約を締結し、XがYに手付金10万円を契約日に支払った。また、

Yは、同年5月31日に、残金1190万円を受領次第、所有権移転登記の申請手続をするもの

とされた。

本件売買契約書では、以下の内容が定められている。

⑴抵当権の抹消等(7条)

売主は、本件建物の所有権移転の時期までに、その責任と負担において、本件建物上に存

する抵当権等の担保権等、買主の完全な所有権の行使を阻害する一切の負担を消除する。

⑵契約違反による解除・違約金(13条)

売主又は買主が本件契約上の債務を履行しない時は、相手方は、催告の上、本件契約を解

除することができる。売主の違約により買主が本件契約を解除した場合、売主は、買主に対

し、違約金として売買代金の20%相当額を支払うとともに、受領済みの金員を返還する。

 

Yは、本件売買契約後、ローンの抵当権者である銀行に、本物件売却代金をローン残債務

に返済することを条件に抵当権解除を申し入れたが、残債務と返済額の差が大き過ぎると

して同意を得られなかった。

5月24日、Yは、Xに対し、本物件の抵当権者である銀行が抵当権の抹消に応じないため、

錯誤により本件契約は無効であるとした通知書を送付した。

これに対して、Xは、5月31日までに所有権移転登記手続をしない場合は、契約を解除

し、Yは、Xに対し、違約金240万円及び受領済みの手付金10万円を支払うべき旨を通知し

たが、5月31日、Yは、Xに通知することなく本物件をXとの売買価格より高値で第三者に

売却した。

Xは、本件契約を解除したとして、Yに対して、本件違約金条項に基づく違約金240万円

と支払済の手付金10万円の計250万円の支払を求めて提訴した。

 

 

2 判決の要旨

 

裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を全額認容した。

 

(本件違約条項の効力の有無)

⑴ Yは、XがYに宅建士の記名捺印のある37条書面を交付しなかったことから、本件違

約条項の効力はないと主張するが、

ア)Xは、37条書面の交付を予定していたが、Yが契約の履行を拒絶したため、その交

付をしなかったこと

イ)本件契約書には宅建業法37条の定める内容(本件違約条項を含む。)が記載されて

おり、Yは本件違約条項を確認していること

等が認められるから、本件契約書に宅建士の記名押印がないことを理由に、本件違約条項

の効力が否定されることはない。

 

⑵ Yは、XがYに重要事項説明書を交付しなかったことを根拠として、XがYに対して違約金

についての説明をしておらず、本件違約条項の効力はない旨主張する。しかし、宅建業

法35条は、売主が宅建業者である場合に買主に対して重要事項説明書の交付義務を負う

旨定めるのみである。また、XがYに対して本件違約条項について不実を告知したともい

えず、同法47条違反の主張も理由がない。

 

⑶ Yは、Xは宅建業者であるから、Yとの契約前に抵当権の存在と内容を調査し、抵当権者

である銀行に抵当権を抹消できるかどうかを確認し、抹消の条件を伝えた上で本件契約

をすべきであったのに、この義務を怠ったから、本件違約条項は効力がないとも主張す

る。しかし、XはYに対し、抵当権が設定されていることを説明しているし、Xが宅建業

者であるからといって相手方の取引先の金融機関に対して問合せを行う義務を当然に負

うとはい えない。

 

(停止条件又は解除条件の合意の有無)

Yは、XとYの間には、本件契約について、銀行が抵当権抹消を承諾することを停止条件

とする合意、又は、銀行が抵当権抹消を承諾しないことを解除条件とする合意があった旨主

張する。しかし、Y自身、抵当権者が抹消に応じないことは想定していなかったと供述して

おり、銀行が抵当権の抹消に応じなかった場合についての条件をXとの間で合意していた

ことは考え難い上、本件契約書には、売主が本件建物の所有権移転時期までに負担を消除す

ることが明記されており、Yが、自分の資金と親の支援で住宅ローン債務を完済し、本件建

物の抵当権を抹消する旨述べていたことからすると、その主張は採用できない。

 

(結論)

よって、Xによる契約の解除並びに違約条項は有効であり、Yは、違約金240万円及び受

領済みの手付金10万円の支払義務を負う。

 

 

3 まとめ

 

Xが契約無効の主張の根拠とする、宅建士の記名押印のある37条書面未交付については、

それが事実であるとしても宅建業法に基づく行政上の処分是非の問題にとどまり、それ自

体で民事上の契約無効や損害賠償責任の問題になるものではありません。

また、買主業者の売主に対する重要事項説明・重要事項説明書交付義務がないことは、

宅建業法35条1項がその説明対象を「その者が取得し、又は借りようとしている宅地または

建物」としており、条文上も明らかです。

抵当権抹消可否に関しては、売主が売買契約の前に銀行に確認すべきものではあります

が、もし抹消ができなければ売買契約の履行が不可能となることから、不動産売買に不慣れ

な個人に対しては、トラブルの未然防止という観点で、宅建業者としては売買契約前に銀行

へ確認することをアドバイスしておくべきでしょう。

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