◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆[土壌汚染 ]

RETIOメルマガ第157号より引用

◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

                  

[土壌汚染 ]

売主に対する瑕疵担保特約に基づく自然由来の汚染土壌除去費用の請求が認められた事例

(東京地判 平28・11・25 ウエストロー・ジャパン)

 

マンション建築目的の買主が、環境基準を超える汚染土壌の除去費用を売主に請求した

ところ、汚染は自然由来であり除去等の必要はない等と売主がこれを争った事案において、

売買契約の瑕疵担保条項は自然由来の砒素を除外する趣旨は認められない等として買主の

請求を全部認容した事例

 

 

1 事案の概要

 

平成24年9月、ビル及びアパートの賃貸・売買等を営む法人Y1(被告)と同社代表取締

役であるY2(被告)は、Y1所有の土地について、建設、不動産事業等を営む法人X(原告)

と売買代金3億6038万円余で売買契約を締結した。

売買契約書には、(1)中高層共同住宅建設のため、X側の土壌汚染調査実施をY1らが承諾

すること、(2)土壌汚染調査の結果、環境省の環境基準及び自治体の指導基準を上回る土壌

汚染があった場合、Y1らが本件土地の引渡日までに土壌改良又は除去により同基準値以下

としてその引渡しを行い、その費用が5000万円を超える場合には当事者間で協議し、協議

が整わない場合は、本件売買契約が解除できること、(3)隠れた瑕疵があったとき又は第三

者から故障の申出があったときは、Y1らが全責任を負ってこれを引き受け処理する旨等が

記載されていた。

XとY1らは、同年12月に変更契約を締結し、瑕疵担保責任について、Y1らが責任を負う

期間を引渡しの時から2年間に限り、隠れた瑕疵のうち、土壌汚染についてY1らの負担上

限額を5000万円とする旨を定めた。

XとY1らは平成25年2月に売買代金を3億8131万円余に変更する旨合意し、Ⅹは売買

代金を支払い、Y1らは本件土地を引き渡すとともに、Xは所有権移転登記手続をした。

Xは、平成25年7月にマンション分譲事業を営む法人のZ(補助参加人)に本件土地を売

買し、Zへの所有権移転登記手続がされた。

Xは、平成25年8月にZから本件土地の土壌汚染調査の結果、砒素が発見された旨の連

絡を受け、Y1らとその対策を協議したが、Y1らは土壌汚染対策の必要はないと主張した。

Xは、Zから、土壌汚染対策費用2971万円余の支払いを求められたため、平成26年3月

にY1らに対し同額の支払いを請求したが、Y1らは請求に応じられない旨回答したため、X

は、Y1らに対し、賠償金2971万円余とこれに対する瑕疵担保責任の履行を請求した日の後

から支払済までの商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払いを求め提訴した。

 

 

2 判決の要旨

 

裁判所は、次のように判示して、Xの請求を全部認容した。

 

(自然由来の有害物質の取扱い)

Xは、不動産取引について相応の知識を有していたY1らに対し、本件土地から自然由来

の砒素が出る可能性があるため調査が必要であり、砒素が出た場合には、条例に抵触し、残

土の処理費用がかさむことを説明し、それを前提に、その対策費用や本件売買契約における

瑕疵担保条項を協議したと認められる。また、本件土地が所在する市では、土壌汚染対策法

を指導基準としているところ、平成22年4月1日施行の土壌汚染対策法の一部を改正する

法律による改正後の同法においては、汚染土壌の搬出及び運搬並びに処理に関する規制が

創設され、その規制の対象について、自然由来の有害物質かどうかによる区別をしていない。

このため、X及びY1らは、本件瑕疵担保条項において、自然由来の砒素を除外する趣旨で

あったとは認められず、Y1らの主張は認められない。

 

(土壌汚染対策費の妥当性)

(1)Zは、土壌汚染対策のために改良工事会社から見積り提示を受けた後、更に再見積り依

頼をし、その結果、当初より減額された、その内容通りに施工されたと認められる。改良工

事も深度調査を踏まえ、範囲が限定されていたことからすると、改良工事は汚染除去に必要

な範囲のものであり、その費用額も相当な範囲のものと認められる。

(2)砒素の溶出量はわずかな基準不適合という程度であり、原位置封じ込め等の別の対策

を講じることができたとY1らは主張するが、マンションの基礎工事では、掘削土を場外に

出す根切り工事が必要であり、Y1らが主張する対策は現実性がなく、Y1らの主張は採用で

きない。

 

(債務の連帯性)

Y1らは、本件土地全体の売買に関して、売主として合意し、その所有物件ごとに売主を

区別したり、売買代金を区分していないことが認められ、Y1らは共同の売主として本件売

買契約を締結したものといえ、Y1は不動産の賃貸・管理業を営む商人であるから、本件売

買契約はY1のために商行為となる行為である。従って、Y1らは、Y1のために商行為となる

本件売買契約を共同で締結し、当該契約に基づき損害賠償債務を負うのであるから、商法

511条により、その債務を各自連帯して負担することになる。

 

(Xの土壌汚染調査義務等)

(1)XとY1らは、Y1らの意向を踏まえた上で、本件売買契約を締結し、Xが土壌汚染調査

を事前に実施しない代わりに本件瑕疵担保条項を設けたのであり、Xが事前に土壌汚染調査

をする義務に違反したとはいえない。

(2)XがZに転売したことを、XがY1らから責められるいわれはなく、ZによるXに対する

瑕疵担保責任の追及に理由があり、XがY1らに同様の請求をすることも信義則違反の問題

が生じる余地はなく、Y1らの主張は理由がない。

 

 

3 まとめ

 

分譲マンションの建築を目的とする買主において、土地に環境基準を超える汚染がある

場合、その除去等には汚染由来にかかわらず処理費用がかかることから、本件のように土壌

汚染の由来にかかわらず、売主の担保責任とする特約を設けることが多く、本件判決の結論

は妥当なものと考えられます。

本件と同様に、売主の土壌汚染に係る瑕疵担保責任が認められた事例としては、例えば、

売主がマンション建築目的の買主の土壌汚染対策費用の請求を拒んで敗訴し、法定利息も

支払うこととなった事例(東京地判 平27・6・18 RETIO102-114)、瑕疵担保条項により自

然由来の砒素について買主の契約解除を認めた事例(名古屋高判 平29・8・31 判例タイム

ズ1447-108)があります。

 

 

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