◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆ [外国人に対する説明責任 ]

RETIOメルマガ第164号より引用

◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

                  

[外国人に対する説明責任 ]

永住権を有さず、日本語が理解できない不動産の買主が、売主に対して、主位的に、売買契

約の約定(融資特約)に基づく手付金の返還又は売買契約の錯誤無効に基づく不当利得返還

を、予備的に、売買契約に関する債務不履行による損害賠償を求め、提訴した事案において、

融資特約は有効であり、買主の意思表示に錯誤もない等として、買主の請求が棄却された事例

(東京地裁 平成30年11月27日判決 棄却 ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

 

平成26年6月、日本に永住権を有しない外国人の買主X(原告)は、不動産購入のため、不

動産流通業者A(訴外)の担当Fと会い、以後Xが日本語を理解できないため、Fは通訳兼連

絡窓口として、Xの不動産取引に関与した。

同月21日、Xは、売主Y(被告)の新築マンション3住戸を購入する意思表示をY1にし、

ベトナムでの売買契約締結を希望した。

同月23日、Fは、Y1から依頼で、Xに、契約締結前に手付金相当額を振り込む必要があ

り、同金銭は、契約締結時に手付金として支払われ、締結前は預かり金とされる旨説明した。

同月25日、Xは、Y1に売買代金合計額の10%(1280万円)の手付金相当額を支払った。

その後、ベトナムでの契約締結は不可能となったため、Fは、Xに、契約締結前のため、X

に手付金を返還できる旨説明したが、Xは契約締結を希望し、日本での契約手続を了承した。

同年7月7日、契約締結に先立ち、Y1は、重要事項説明書、購入資金に関する確認書、手付

金等の保証証書、契約書を日本語で説明して読み上げ、Fが、Xにその内容を中国語で通訳し

た。Xは、重要事項の説明を受けた後、重要事項説明書を受領した旨の記載の下に、署名押印

をし、書面で本件建物の購入申込みをした。

また、Xは、買主自身が手配する提携外融資が実行できず、契約解除となる場合、融資利用

の特例は適用されないこと等が記載された書面に、内容を確認した旨、署名押印をした。

さらに、Xは、売買契約書に署名押印をしたが、Xの署名押印欄の真上には、手付金が契約

締結日の支払とされること、契約書19条の融資利用の特例として、提携融資の申込額が否認さ

れた時は、買主は契約を解除でき、支払済み金員を買主に返還することが記載されていた。

平成28年11月、Xの予定した融資が否認され、F紹介の銀行でも融資を受けられなかった。

平成 29年3月、Xは、Y1に契約書19条による解除と1280万円の返還を求める書面を送付し

た。翌日、売買代金残金支払期日は経過した。

同年 4月、Y1らの残代金支払い催告に対しXが応じないため、Y1らは、Xに1280万円を

違約金として受領することを通知した。

Xは、主位的に、売買契約の約定(融資特約)に基づく手付金返還又は売買契約の錯誤無効

に基づく不当利得返還を、予備的に、売買契約に関する債務不履行による損害賠償を求め、提

訴した。

 

 

2 判決の要旨

 

裁判所は、次のように判示して、Xの請求を全て棄却した。

 

(契約書19条の解釈・適用の可否)

契約書19条は、買主が決済日までに売買代金を支払えなければ契約違反となり、違約金を支

払う義務を負うという原則を、特例として、買主が申し込んだ提携融資が実行されない場合

に、その義務を免れさせる条項であるが、このように一定の条件を有する者に利益をもたらす

特例が、当該条件を有さない者に適用されないことが、信義則に反して買主を害しているとい

えず、消費者契約法や憲法14条に違反すると評価すべき事情も認められない。

また、日本国籍又は永住権を有する者でも、提携融資を利用しない場合、契約書19条の適用

はないことから、永住権を有しない外国人の場合のみ契約書19条の「提携融資」を「一般の金

融機関ローン融資」と読み替えなければならない合理的理由はなく、Xの主張は理由がない。

 

(錯誤無効の成否)

契約締結に際し、Y1が日本語で説明し、Fが、その内容をXに中国語で通訳した書面に

は、提携外融資は、融資利用の特例は適用されないこと等の記載があり、Xはそれらを確認し

た旨署名押印をしたこと等の事実によれば、Y1は、Fを介して、本件契約には融資利用の特

例の適用がないことを説明したと認められ、一方、ローンが通らなければ手付金は戻るとの説

明があったとの事実も認められず、Xの意思表示に錯誤があったとする事情を認められない。

 

(Y1の債務不履行の有無)

Xは、Y1加盟の協会の契約書式には、金融機関を限定しないローン特約が定められている

ことから、Y1は、Xに対し金融機関を限定しない融資利用の特約を付すべき義務があると主

張する。しかし、同契約書式のローン特約記載により、Y1が金融機関を限定しないローン特

約を付す義務を負うものとはいえず、また、契約書19条は、売主が融資手続の状況が把握しや

すい提携融資に対象を限定し、安定した売買手続の実現を図る趣旨に基づくもので、不合理で

ないことから、Xの主張は採用できない。

また、宅建業法35条の趣旨に照らし、Y1には、中国語の重要事項説明書を交付すべき義務

があり、また、他国での契約締結の機会を失わせたとのXの主張も採用できない。

 

 

3 まとめ

 

本件は、買主が、ローン特約の適用のない非提携融資を申し込み否認されたため、永住権の

ないことや、日本語が理解できないことを理由として、売主に白紙解除を請求した事例です。

外国人との売買契約を締結するにあたっては、トラブルを防止する観点から、一般的には、

相手方が日本語を理解できる場合や日本語を理解できる通訳か代理人をつけられる場合に契約

をするとともに、書面はすべて日本語表記で行い、契約上の専属的合意裁判所は日本の裁判所

とすること等が重要でしょう。なお、国土交通省は「不動産事業者のための国際対応実務マニ

ュアル」を作成しているので参考にしてください。

 

 

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