【中小企業も対象】海外子会社との取引価格を説明できますか?移転価格税制の「推定課税」とローカルファイル対策

海外子会社へ商品を輸出している、現地法人から原材料を仕入れている、海外のグループ会社に技術支援や経営管理サービスを提供している――。

このような海外子会社・関連会社との取引がある企業にとって、避けて通れないのが「移転価格税制」です。

移転価格税制について、次のように考えていないでしょうか。

「当社は中小企業だから関係ない」

「海外子会社との取引は年間数千万円程度なので、ローカルファイルは必要ない」

「親子会社間で合意した価格だから問題ない」

しかし、取引金額が一定基準を下回り、ローカルファイルの「同時文書化義務」が免除されていても、移転価格税制そのものが免除されるわけではありません。

税務調査で取引価格の根拠を説明できなければ、税務当局による「推定課税」や、国外関連者への寄附金としての課税が問題となる可能性があります。

今回は、海外子会社を持つ中小企業が知っておきたい、移転価格税制の同時文書化義務と推定課税への実務的な対策を解説します。

■ 移転価格税制とは

移転価格税制とは、日本企業と海外の関連会社との取引価格が、独立した第三者間で成立する価格、いわゆる「独立企業間価格」と異なる場合に、独立企業間価格で取引したものとして日本法人の所得を計算する制度です。

対象となり得る取引は、商品の売買だけではありません。

・日本親会社から海外子会社への製品・部品の販売
・海外子会社からの原材料や商品の仕入れ
・技術指導料、経営指導料、業務委託料
・商標権、特許権、ノウハウなどの使用料
・海外子会社への貸付金や債務保証
・人員派遣や立替経費の精算

海外子会社との取引価格を自由に設定できる状態では、日本で計上されるべき利益を海外へ移すことも可能になります。

そのため税務調査では、「なぜその価格にしたのか」「第三者との取引と比べて合理的か」が確認されます。

■ 「50億円未満なら何もしなくてよい」は誤解

国外関連者との取引については、原則として、独立企業間価格を算定するために必要な書類である「ローカルファイル」を、確定申告期限までに作成または取得し、保存する同時文書化制度が設けられています。

ただし、一の国外関連者との前事業年度の取引合計額が50億円未満で、かつ、無形資産取引の合計額が3億円未満である場合、その国外関連者との取引については同時文書化義務が免除されます。

ここで注意したいのは、免除されるのは、あくまで「確定申告期限までにローカルファイルを作成・保存する義務」だという点です。

移転価格税制の適用そのものが免除されるわけでも、税務調査で価格設定の説明が不要になるわけでもありません。

したがって、年間数千万円程度の国外関連取引であっても、税務調査では次のような質問を受ける可能性があります。

「海外子会社への販売価格は、どのように決めましたか」

「その利益率を採用した根拠はありますか」

「第三者に販売するときの価格と違うのはなぜですか」

「海外子会社と日本親会社は、それぞれどのような機能とリスクを負担していますか」

このとき、口頭で「グループ内で話し合って決めました」と説明するだけでは、価格設定の合理性を十分に示せないことがあります。

■ 同時文書化義務がなくても「60日以内」の提出を求められることがある

税務調査において、税務当局は同時文書化義務が免除されている国外関連取引についても、独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類の提示・提出を求めることができます。

国税庁の事務運営指針では、同時文書化免除取引に関する重要な書類について、60日を超えない範囲で提出期日を指定するとされています。

つまり、税務調査が始まってから、取引の経緯、価格決定方法、契約内容、各社の役割、比較対象となる取引などを短期間で整理しなければならない可能性があります。

複数年にわたって価格設定の記録を残していなければ、当時の担当者が退職していたり、海外子会社側の資料を入手できなかったりすることもあります。

「同時文書化義務がないから、何も残していない」という状態は、税務調査への対応上、大きなリスクになり得ます。

■ 書類を提出できない場合に問題となる「推定課税」

税務当局から求められた移転価格文書を指定期日までに提出できず、その資料から独立企業間価格を算定できない場合、一定の要件の下で推定課税の規定が適用される可能性があります。

推定課税とは、税務当局が入手した情報や同業者の取引などを基礎として独立企業間価格を算定し、その価格によって日本法人の所得を再計算する仕組みです。

企業側が価格設定の根拠を十分に提示できなければ、税務当局が選定した比較対象取引や利益率を基礎に課税額が算定される可能性があります。

なお、税務当局には、比較対象取引の選定条件、取引内容、差異の調整方法などを法人へ説明することが求められています。

ただし、比較対象企業に関する情報には守秘義務があるため、企業名や個別情報のすべてが開示されるとは限りません。その結果、納税者側が比較可能性を詳細に検証し、反論することが難しくなる場合があります。

■ 利益率の差が追徴課税につながるイメージ

例えば、日本親会社が海外子会社に商品を販売し、日本側の営業利益率が2%だったとします。

税務調査で取引内容や各社の機能を検討した結果、比較可能な独立企業の利益率などから、日本法人が得るべき利益率が10%と判断された場合、単純計算では8%相当の所得差額が問題となります。

・海外子会社向け売上:1億円
・日本法人の実際の利益率:2%
・税務当局が主張する利益率:10%
・利益率の差:8%
・所得調整額のイメージ:800万円

実際の移転価格算定では、採用する算定方法、売上高や費用の範囲、比較対象企業、各社の機能・資産・リスク、利益指標などを詳細に検討します。

そのため、必ず上記の単純計算になるわけではありませんが、取引金額が大きいほど、わずかな利益率の差でも所得調整額が大きくなることは理解しておく必要があります。

法人税等に加えて、加算税や延滞税が生じる可能性もあります。また、日本と海外の双方で同じ所得に課税される「国際的二重課税」が発生し、相互協議などの対応が必要になることもあります。

■ 「海外子会社の立ち上げ支援だから低価格」だけでは不十分

海外子会社の設立直後は、現地での販売を拡大するため、日本親会社が商品を安く供給したり、技術支援や人員派遣の費用を請求しなかったりするケースがあります。

経営上の事情としては理解できても、それだけで税務上の低価格取引や無償取引が認められるとは限りません。

特に、次のような取引は注意が必要です。

・海外子会社の赤字を補うため、販売価格を引き下げている
・日本から提供した技術指導料を請求していない
・日本親会社が負担した広告費や人件費を精算していない
・過去から同じ価格を使い続け、見直しを行っていない
・契約書と実際の業務内容が一致していない
・取引価格の決定過程を示す社内資料がない

取引実態によっては、移転価格税制だけでなく、国外関連者に対する寄附金として全額損金不算入となる可能性もあります。

「子会社支援のため」という説明だけで終わらせず、支援の必要性、期間、条件、親会社が受ける経済的利益などを具体的に整理しておくことが重要です。

■ 中小企業が準備しておきたい移転価格資料

同時文書化義務が免除される中小企業であっても、取引規模やリスクに応じた移転価格資料を準備しておくことをおすすめします。

大企業と同じ分量のローカルファイルを必ず作成しなければならないわけではありませんが、最低限、次の項目は整理しておきたいところです。

・日本親会社と海外子会社の資本関係
・両社の事業内容と取引の流れ
・国外関連取引の種類と金額
・契約書、請求書、社内稟議書
・取引価格の決定方法
・原価と利益率の計算根拠
・第三者との類似取引の有無
・両社が担う機能、使用する資産、負担するリスク
・海外子会社が赤字または低利益となっている理由
・価格を定期的に見直す社内ルール

簡単な価格設定方針書と、その根拠となる契約書、原価資料、第三者取引のデータなどを一体として保存しておけば、税務調査での初動が大きく変わります。

重要なのは、資料のページ数ではありません。

第三者間でも同じ条件で取引する合理性があることを、客観的な証拠に基づいて説明できるかどうかです。

■ 価格設定は毎年見直す

海外子会社との取引価格は、一度決めれば終わりではありません。

為替相場、原材料価格、人件費、現地市場、販売数量、子会社の事業段階などが変化すれば、適正と考えられる利益配分も変わる可能性があります。

少なくとも決算前には、次の点を確認しましょう。

・日本親会社と海外子会社の利益率が想定どおりか
・赤字または高利益が続いている会社はないか
・契約内容と実際の業務が一致しているか
・無償または低額で提供しているサービスはないか
・為替変動や原価上昇を価格に反映しているか
・価格設定の根拠を説明する資料が更新されているか

利益率が想定から大きく外れている場合は、単純に期末に金額を付け替えるのではなく、その原因と契約内容を確認したうえで、税務上妥当な対応を検討する必要があります。

■ 税務調査で「資料はありません」と即答する前に

税務調査で海外子会社との取引資料を求められた場合、準備が不十分だからといって、調査官に「資料はありません」「価格は適当に決めました」と即答することは避けるべきです。

まずは、どの取引について、どのような資料を、いつまでに求められているのかを正確に確認します。

そのうえで、契約書、請求書、原価資料、メール、稟議書、海外子会社の決算書などを収集し、取引価格の合理性を整理します。

ただし、税務調査が始まってから作成した説明資料には限界があります。過去の事実と異なる説明を後から作ることはできません。

だからこそ、取引開始時と毎期の決算時に、価格設定の経緯と根拠を記録しておくことが最も有効な対策になります。

■ 海外子会社との取引価格に不安がある企業様へ

移転価格税制は、大企業だけの問題ではありません。

中小企業であっても、海外子会社との取引価格を説明できなければ、移転価格税制や国外関連者への寄附金課税が問題となる可能性があります。

特に、次のような企業は早めの確認をおすすめします。

・海外子会社との輸出入取引がある
・海外子会社の赤字が続いている
・親会社と子会社の利益率に大きな差がある
・技術指導料や経営指導料を請求していない
・取引価格を数年間見直していない
・価格設定の根拠を示す資料がない
・税務調査で海外取引について質問を受けている

当事務所では、国際税務・海外取引に詳しい代表税理士が、企業ごとの取引実態を直接確認します。

海外子会社との契約内容や価格設定の点検、移転価格リスクの整理、簡易的な移転価格文書の作成支援、税務調査への対応まで、企業規模とリスクに応じてサポートいたします。

「正式なローカルファイルが必要なのか分からない」

「現在の価格設定に問題がないか確認したい」

「税務調査の連絡が来たので、海外取引を事前に整理したい」

このような段階でもご相談いただけます。

追徴課税が発生してから対応するよりも、取引価格の根拠を平時から整えておく方が、時間と費用の両面で負担を抑えやすくなります。

海外子会社との取引や移転価格税制に不安がある経営者・経理担当者様は、お問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。

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