海外企業からロイヤリティ、配当、利子などの支払いを受けた際、現地で源泉税が差し引かれて入金されることがあります。
このような場合、
「海外で税金を払っているのだから、日本の法人税申告で外国税額控除を使えば問題ない」
と考えていないでしょうか。
実は、この考え方には注意が必要です。
海外で実際に税金を徴収されていたとしても、その全額が日本の外国税額控除の対象になるとは限りません。
特に確認したいのが、
「日本と相手国との租税条約では、何%まで課税することが認められているのか」
という点です。
租税条約に定める限度税率を超えて外国で課された税額は、日本の法人税における外国税額控除の対象から除外される場合があります。国税庁も、租税条約上の限度税率を超える外国法人税について、外国税額控除の対象となる「控除対象外国法人税額」には含まれないとしています。
海外取引が増えている企業ほど、入金後の処理だけでなく、契約・請求・送金前の段階から租税条約を確認することが重要です。
海外で源泉徴収された税金=すべて外国税額控除、ではありません
外国税額控除は、海外と日本の双方で課税されることによる国際的な二重課税を調整するための制度です。
たとえば、日本法人が海外企業にソフトウェアや商標などの使用を認め、ロイヤリティを受け取るケースを考えてみます。
相手国の国内法では20%の源泉税が課される一方、日本とその国との租税条約では、使用料に対する源泉地国での課税を10%までに制限しているとします。
この場合、本来、租税条約の適用を受けられるのであれば、
20%ではなく10%まで
というのが条約上の課税関係になります。
ところが、必要な手続きを行わなかったことなどにより20%が源泉徴収されてしまった場合、20%全額がそのまま日本の外国税額控除の対象になるとは限りません。
国税庁の質疑事例でも、租税条約の限度税率を超える部分は外国税額控除の対象外とされています。
【具体例】1,000万円のロイヤリティから200万円を源泉徴収された場合
具体的な数字で考えてみましょう。
日本法人が海外企業から年間1,000万円のロイヤリティを受け取る契約を締結していたとします。
相手国の国内法による源泉税率は20%。
一方、日本との租税条約では、仮にロイヤリティに対する限度税率が10%だったとします。
海外企業が国内法どおり20%を源泉徴収すると、
ロイヤリティ 1,000万円
源泉徴収税額 200万円
実際の入金額 800万円
となります。
経理担当者としては、
「海外で200万円も税金を払ったのだから、日本で200万円を外国税額控除すればよい」
と考えたくなるところです。
しかし、租税条約上、相手国で課税できる税額が100万円までであれば、超過して徴収された100万円については外国税額控除の対象外となる可能性があります。
ここが国際税務で非常に重要なポイントです。
「外国税額控除の対象外=全部損失」でもありません
もう一つ、誤解しやすい点があります。
租税条約の限度税率を超えて徴収された部分について、
「外国税額控除ができないのであれば、法人税上も一切経費にならない」
というわけではありません。
国税庁の質疑事例では、租税条約の限度税率を超える部分については外国税額控除の対象とはならない一方、一定の前提のもとでその事業年度の損金に算入されるとされています。後日その外国税が還付された場合には、その還付額を益金に算入する取扱いです。
したがって、
「外国税額控除できない=税務上まったく救済されない」
とは限りません。
ただし、税額控除と損金算入では法人税への影響が大きく異なります。
また、何より本来10%で済んだはずの税金を20%支払っているのであれば、会社のキャッシュフロー上、余計な資金流出が発生していることに変わりありません。
外国税額控除には「控除限度額」もあります
さらに注意したいのが、外国税額控除には控除限度額があることです。
租税条約上適正な外国税であれば、必ずその全額を日本の法人税から差し引けるというわけでもありません。
日本の法人税額や国外所得の金額などを基礎として計算した控除限度額の範囲内で外国税額控除を行う仕組みになっています。
つまり、海外で源泉徴収された税金については、
「外国で何円引かれたか」
だけを見るのでは不十分です。
①その外国税はそもそも外国税額控除の対象なのか
②租税条約の限度税率を超えていないか
③日本側の外国税額控除の限度額はいくらなのか
まで確認する必要があります。
ロイヤリティ・配当・利子は特に租税条約を確認
海外取引で特に注意したいのが、
・ロイヤリティ、ライセンス料
・著作権使用料
・商標使用料
・特許使用料
・利子
・配当
などです。
これらについては、租税条約によって源泉地国で課税できる税率の上限が定められていることがあります。
一方、「コンサルティング料」「ITサービス料」「業務委託料」などについては、単純にロイヤリティと同じ扱いになるとは限りません。
契約内容、役務を行った場所、恒久的施設(PE)の有無、相手国の国内法、租税条約の規定などによって課税関係が変わる可能性があります。
海外から源泉税を引かれているという事実だけを見て会計処理を決めないことが重要です。
海外からの入金前に確認したい4つのポイント
海外取引を行う企業では、次の4点を入金前に確認しておくことをおすすめします。
1.まず「何の対価なのか」を確認する
ロイヤリティなのか、サービス対価なのか、利子なのか、配当なのか。
国際税務では、契約書に書かれている名称だけではなく、実際の取引内容が重要になります。
契約内容によって適用される租税条約の条文や源泉税率が変わる可能性があります。
2.日本と相手国との租税条約を確認する
次に、日本と相手国との間に租税条約があるかを確認します。
租税条約がある場合には、
・源泉地国で課税できる所得なのか
・限度税率は何%なのか
・免税となる可能性があるのか
・適用を受けるためにどのような手続きが必要なのか
を確認します。
3.必要に応じて居住者証明書を取得する
相手国で租税条約に基づく軽減・免税を受ける際、日本法人が日本の税務上の居住者であることを証明するため、**居住者証明書(Certificate of Residence)**の提出を求められることがあります。
日本の居住者が租税条約に基づく減免等を受けるために必要となる場合、所轄税務署で居住者証明書の交付を請求できます。
ただし、必要書類や手続方法は相手国によって異なります。
「海外取引だから、とりあえず居住者証明書を出せばよい」というものではなく、相手国側の制度まで確認する必要があります。
4.実際に適用された源泉税率を確認する
海外から入金があったら、
「請求額はいくらだったか」
「源泉税はいくら引かれたか」
「何%の税率が適用されているか」
を確認します。
銀行への入金額だけを見て仕訳するのではなく、
・支払通知書
・Withholding Tax Certificate
・Tax Receipt
・契約書
・Invoice
・租税条約関係書類
などを保存しておくことが重要です。
「毎年同じ処理をしているから大丈夫」が最も危険
実務では、
「海外の取引先が昔から20%引いているから、そのまま処理している」
というケースも少なくありません。
しかし、
過去から同じ処理をしていることと、その処理が税務上正しいことは別問題です。
海外取引では、相手国の経理担当者が日本との租税条約まで正確に確認しているとは限りません。
また、取引開始時には正しい処理だったとしても、契約内容や取引形態が変わっていることもあります。
海外売上が増えてきた企業ほど、一度、
「外国で引かれている税率は本当に正しいのか」
を確認しておく価値があります。
外国税額控除は「申告するとき」より「契約・送金前」が重要です
外国税額控除というと、決算時の法人税申告の問題と思われがちです。
しかし、実務ではそれより前の段階が重要です。
契約書を締結する。
Invoiceを発行する。
租税条約の適用手続きを行う。
海外企業が源泉徴収する。
日本法人に送金される。
そして最後に法人税申告を行います。
つまり、法人税申告の段階になって初めて、
「20%も引かれていました」
と気付いても、すでに会社の資金は海外へ流出しています。
国際税務では「引かれた税金をどう申告するか」だけでなく、「そもそも余計な税金を引かれないようにする」という視点が重要です。
海外取引・外国税額控除で、このようなお悩みはありませんか?
・海外企業から売上代金を受け取る際、毎回源泉税を引かれている
・現在適用されている外国の源泉税率が正しいのか分からない
・ロイヤリティとサービスフィーの税務上の違いが分からない
・租税条約を適用できるのか確認したい
・居住者証明書を提出するよう海外の取引先から求められた
・外国税額控除の計算や法人税申告に不安がある
・海外取引が増え、現在の税理士では国際税務の対応が難しくなってきた
このような場合には、決算直前ではなく、できれば契約締結や海外送金の前に確認することをおすすめします。
国際税務・海外取引の税務相談なら辻税理士事務所へ
辻税理士事務所では、海外取引のある日本企業を対象に、
・租税条約の確認
・海外取引における源泉税の検討
・ロイヤリティ、サービスフィー等の税務判定
・外国税額控除の検討
・居住者証明書に関する対応
・海外取引に関する法人税申告
・国際税務に関するセカンドオピニオン
などのご相談に対応しています。
海外取引では、国内取引とは異なり、日本の税法だけを確認していても正しい処理にならないことがあります。
「海外で税金を引かれているが、この税率で本当に正しいのか」
「今まで外国税額控除してきた処理に問題がないか確認したい」
「これから海外企業との取引を始めるので、契約前に税務上の注意点を確認したい」
という企業様は、お気軽にご相談ください。
国際税務、海外取引税務に対応する税理士が、取引内容と相手国を確認したうえで、個別の状況に応じて対応いたします。
海外取引の税務は、問題が発生した後に修正するより、取引開始前に確認する方がはるかに対応しやすくなります。
お問い合わせはこちら

Leave a Reply