海外メーカーから製造機械、検査装置、IT設備などを輸入する際、機械本体だけでなく、海外から技術者を日本へ派遣してもらうことがあります。
例えば、次のような作業です。
- 機械設備の据付け・組立て
- セットアップや初期設定
- 試運転や動作確認
- 日本人社員への操作説明
- 導入後の技術指導や保守サポート
ここで注意したいのが、機械代金と技術者の派遣費用では、源泉所得税の取扱いが異なる可能性があることです。
契約内容を十分に確認せず、請求額の全額を海外メーカーへ送金してしまうと、税務調査で多額の源泉徴収漏れを指摘されることがあります。
機械の輸入代金は、原則として源泉徴収の対象外
海外メーカーから機械を購入し、その代金を支払うだけであれば、海外メーカーに日本国内の恒久的施設(PE)などがない限り、通常、その売買代金について日本で源泉徴収する必要はありません。
ただし、ここでいう「源泉徴収の対象外」とは、輸入消費税や関税までかからないという意味ではありません。
機械の輸入代金に対する源泉所得税と、輸入時に発生する消費税・関税は、別の税務問題です。
日本国内で行われる技術サービスには、20.42%の源泉徴収が必要になることがある
問題になりやすいのは、海外メーカーや外国法人の技術者が来日し、日本国内で専門的な技術サービスを提供する場合です。
外国法人が日本国内で、科学技術や経営管理などに関する専門的知識・技能を活用したサービスを事業として提供し、その対価を日本企業が支払う場合には、「人的役務の提供事業の対価」として、原則20.42%の源泉徴収が必要になる可能性があります。
例えば、技術者の派遣費用として海外メーカーに500万円を支払う場合、源泉徴収税額は次のようになります。
500万円×20.42%=102万1,000円
源泉徴収が必要であるにもかかわらず500万円全額を海外メーカーへ送金していた場合、日本企業側が海外メーカーから税額を回収できず、結果として源泉所得税を負担することもあります。
さらに、不納付加算税や延滞税が発生する可能性もあるため、海外送金を行う前の確認が重要です。
なお、税務上の判定は技術者の国籍だけで決まるものではありません。
重要なのは、誰に対して、どのような契約に基づき、どこで行われた役務の対価を支払うのかという点です。
据付け・組立て・試運転なら、源泉徴収が不要になる場合がある
海外から技術者が来日すれば、すべての派遣費用について20.42%の源泉徴収が必要になるわけではありません。
所得税法施行令および国税庁の通達では、機械設備の販売業者が、その機械設備の販売に伴って販売先へ技術者を派遣し、据付け、組立て、試運転などを行う場合には、一定の範囲で「人的役務の提供事業」から除外される取扱いが示されています。
つまり、機械販売と一体となった付随的な作業であることが明確であれば、技術者の派遣費用について源泉徴収が不要となる可能性があります。
ただし、単に請求書に「Installation Fee」と記載されていればよいわけではありません。
契約内容や作業の実態から、機械販売に伴う付随的な作業と説明できることが必要です。
「機械販売の付随作業」と認められにくいケース
次のようなケースでは、据付け・試運転ではなく、独立した技術サービスやコンサルティングとして判断されるリスクが高まります。
1.機械の売買契約と技術サービス契約が完全に分かれている
機械の購入後、別途「Technical Consulting Agreement」や「Support Agreement」を締結している場合、機械販売とは独立した人的役務の提供と判断される可能性があります。
契約書が分かれているだけで直ちに源泉徴収が必要になるとは限りませんが、両契約の関連性を説明できる資料が必要です。
2.機械の導入から長期間経過した後に技術者が来日する
機械の据付けや試運転が完了した後、数か月または数年経過してから、追加教育や運用改善のために技術者を呼ぶ場合は、機械販売の付随作業とは認められにくくなります。
3.請求書の記載が不明確である
請求書に「Consulting Fee」「Technical Service Fee」「Support Fee」としか記載されていない場合、どの機械に関する、どのような作業なのかを確認できません。
税務調査では、契約書、請求書、作業報告書、技術者の滞在日程、メールのやり取りなどを通じて、取引の実態を確認されることがあります。
4.機械の販売会社とは別の会社がサービスを提供している
機械を販売した海外メーカーではなく、グループ会社や第三者の技術会社が据付けや技術指導を行う場合には、機械販売に付随するサービスではなく、独立した人的役務の提供と判断される可能性があります。
5.操作指導やコンサルティングの割合が大きい
据付けや試運転に必要な最低限の操作説明であれば、機械販売の付随作業として説明できることがあります。
一方、長期間にわたる社員研修、生産工程の改善指導、システム設計、経営上のアドバイスなどが含まれている場合には、その部分を独立したサービスとして区分する必要がないか検討しなければなりません。
契約書と請求書で確認しておきたいポイント
海外メーカーから機械を輸入し、技術者の来日も予定されている場合には、少なくとも次の点を確認しておきましょう。
- 据付け・試運転が機械の売買契約に含まれているか
- 対象となる機械の名称や型番が明記されているか
- 技術者が行う作業の内容と期間が明確になっているか
- 機械代金と技術サービス費用が適切に区分されているか
- 技術指導や保守サービスが独立した契約になっていないか
- 渡航費、宿泊費、日当などの負担者が明確になっているか
- 源泉所得税が発生した場合の負担関係が契約で定められているか
特に注意したいのが、源泉所得税の負担に関する条項です。
海外メーカーとの契約で「日本の税金はすべて日本企業が負担する」と定められている場合、源泉徴収税額を上乗せして計算する「グロスアップ」が必要になることがあります。
租税条約により、日本での源泉徴収が免除されることもある
国内法上は人的役務の提供事業に該当する場合でも、日本と海外メーカーの所在国との間に租税条約があるときは、条約の規定によって日本での課税が免除または軽減される可能性があります。
ただし、租税条約の内容は国ごとに異なります。
海外メーカーの所在地、日本での活動期間、恒久的施設の有無、契約内容などを確認したうえで、適用できる条約を個別に判断する必要があります。
また、租税条約による源泉徴収の免除や軽減を受けるためには、原則として支払日の前日までに、支払者を経由して「租税条約に関する届出書」を所轄税務署へ提出します。
租税条約があるという理由だけで、届出を行わずに源泉徴収を省略することは避けなければなりません。
税務調査では海外送金の内容が確認される
税務調査では、海外送金明細や外貨建ての買掛金を確認し、海外法人への支払いに源泉徴収漏れがないかを調べることがあります。
特に確認されやすいのは、次のような勘定科目です。
- 機械装置
- 支払手数料
- 外注費
- コンサルティング費用
- 技術指導料
- 保守料
- 研修費
- 海外出張費
会計上は機械装置の取得価額に含めて処理していても、税務上の源泉徴収判定が不要になるとは限りません。
会計処理の科目ではなく、実際に提供されたサービスの内容によって判断される点に注意が必要です。
海外送金の前に、国際税務の確認を
海外から機械や設備を輸入する取引では、契約書、請求書、作業内容、支払時期、租税条約を一体として確認する必要があります。
特に、海外メーカーの技術者が日本で据付け、試運転、操作指導などを行う場合は、送金後ではなく、契約締結前または支払前に源泉徴収の要否を確認することが重要です。
当事務所では、海外取引や外国法人への支払いに関して、代表税理士が契約内容と取引実態を確認し、次のようなご相談に対応しています。
- 海外メーカーへの支払いに源泉徴収が必要か確認したい
- 据付け・試運転費用が機械販売の付随作業に該当するか判断したい
- 租税条約による免税の適用を検討したい
- 英文契約書やインボイスの税務上の問題を確認したい
- 過去の海外送金に源泉徴収漏れがないか調査したい
- 税務調査を受ける前に海外取引を整理したい
海外取引の源泉徴収は、契約書のわずかな違いやサービスの実態によって結論が変わることがあります。
海外から機械を輸入する予定がある企業や、すでに海外メーカーへ技術者派遣費用を支払っている企業は、税務調査で指摘を受ける前に、国際税務に詳しい税理士へご相談ください。
※本記事は一般的な税務上の取扱いを説明したものであり、個別の契約や取引に対する税務判断を示すものではありません。実際の源泉徴収の要否は、契約内容、役務の提供場所、相手国との租税条約などにより異なります。

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