海外のデザイナーやエンジニア、翻訳者へ仕事を依頼することは、今では中小企業やスタートアップでも珍しくありません。
Webサイトの制作、ロゴやイラストの作成、アプリ・システム開発、動画制作、翻訳などを、海外在住のフリーランスへ直接発注したり、クラウドソーシングサービスを通じて依頼したりする企業も増えています。
そこでよく聞くのが、
「相手は海外に住んでいて、仕事も海外でしているのだから、日本の源泉徴収は関係ないですよね?」
という質問です。
確かに、海外で行われる単純な役務提供であれば、日本の国内源泉所得に該当せず、源泉徴収が不要となるケースがあります。
しかし、海外への支払いが**著作権などの「使用料」や「権利の譲渡対価」**と評価される場合には、話が変わります。
日本国内で事業を行う会社が、その国内業務に関連して非居住者等へ著作権の使用料や譲渡対価を支払う場合、国内法上は国内源泉所得となり、原則20.42%の源泉徴収の対象となります。
海外外注では、「どこで作業したのか」だけではなく、「何に対してお金を払っているのか」まで確認する必要があるのです。
海外で作業していれば源泉徴収不要、とは限らない
例えば、日本企業が海外在住のエンジニアに単純なデータ入力や保守作業を依頼し、その作業自体に対して報酬を支払っているのであれば、国外で行われた役務提供として整理できる場合があります。
一方で、次のような成果物を海外へ発注する場合は注意が必要です。
- Webサイトのデザイン
- ロゴ・イラスト
- 写真・動画
- プログラム・アプリ
- オリジナルの文章
- 翻訳文
- マニュアルや教材
これらの成果物には、著作権が関係する可能性があります。
契約上、
「成果物を自由に複製・改変できる」
「著作権を発注者へ譲渡する」
「日本国内で継続的に利用する権利を与える」
といった内容が含まれていれば、支払額の全部または一部が、単なる作業代ではなく著作権の使用料・譲渡対価に該当しないかを検討する必要があります。
国税庁も、国内で事業を行う者から支払われる著作権の使用料または譲渡対価で、その国内業務に係るものを国内源泉所得として挙げています。
重要なのは「著作物を作った=必ず20.42%」ではないこと
ここは特に誤解されやすいポイントです。
海外のデザイナーやエンジニアに成果物を作ってもらったからといって、すべての外注費が自動的に著作権使用料となるわけではありません。
実際には、
- 何を依頼したのか
- 契約書や利用規約に何と書かれているか
- 著作権は誰に帰属するのか
- どのような利用権を取得するのか
- 権利の譲渡と制作作業を区分できるのか
- 成果物を日本国内の事業でどのように利用するのか
などを総合的に確認して判断します。
つまり、請求書に単に
「Web Design Fee」
「Development Fee」
「Translation Fee」
と書かれているだけでは判断できないことがあります。
これが海外外注の国際税務を難しくしている理由です。
翻訳料でも源泉徴収が必要になった国税庁の事例
特に分かりやすいのが「翻訳」です。
国税庁では、日本企業が韓国在住の大学教授に日本語論文の韓国語訳を依頼し、その翻訳文を「買取り」とする契約について、源泉徴収が必要と判断した事例を公表しています。
このケースでは、翻訳文が二次的著作物となり、その権利の譲渡対価として使用料に該当するとされています。
つまり、
「海外で翻訳してもらっただけだから、国外役務で源泉徴収不要」
とは限らないのです。
Webデザインやプログラム開発についても同様に、成果物そのものだけでなく、そこに付随する著作権をどのように扱っているかを確認することが重要です。
源泉徴収を忘れると、会社が20.42%を負担することも
例えば、著作権の使用料に該当する海外フリーランスへの支払いが100万円あり、本来20.42%の源泉徴収が必要だったとします。
本来であれば、
支払額 1,000,000円
源泉所得税等 204,200円
海外への送金額 795,800円
という処理になります。
ところが源泉徴収をせず、100万円をそのまま海外へ送金してしまうケースがあります。
その後、相手から源泉税相当額を回収できればよいのですが、海外のフリーランスから数か月後、数年後に税金を返してもらうことは簡単ではありません。
会社が源泉税を自ら負担し、相手から回収しない場合には、さらに注意が必要です。
100万円を「税引後の手取額」として扱うことになれば、
1,000,000円 ÷(1-20.42%)=約1,256,597円
まで支払総額をグロスアップすることになり、
源泉税は約25万6,000円となります。
さらに状況によっては、不納付加算税や延滞税が生じる可能性もあります。
たった一つの源泉徴収の判定ミスが、海外外注費の利益を大きく圧迫することがあるのです。
租税条約を使えば20.42%が軽減・免除される可能性がある
「それでは海外クリエイターに支払うたびに20.42%を引かなければならないのか」
というと、必ずしもそうではありません。
日本と相手方の居住国との間に租税条約がある場合、著作権使用料等について、日本での源泉税率が軽減されたり免除されたりすることがあります。
ただし、ここでも重要なのが手続きのタイミングです。
使用料について租税条約による軽減・免除を支払時から受ける場合、原則として「租税条約に関する届出書」を、最初の使用料の支払を受ける日の前日までに支払者を通じて税務署へ提出します。
したがって、
契約 → 海外送金 → あとから税務処理を考える
という順番では遅いことがあります。
正しくは、
契約内容確認 → 居住国確認 → 国内源泉所得の判定 → 租税条約確認 → 必要な届出 → 海外送金
という順序で進めるのが安全です。
なお、届出書を事前に提出できなかった場合でも、租税条約の適用そのものが永久に受けられなくなるわけではありません。
国内法の税率で源泉徴収した後、一定の手続きを行うことで、租税条約による軽減・免除との差額について還付請求ができる制度があります。
ただし、海外の相手方との書類のやり取りや還付手続きが必要になるため、最初から正しく処理しておく方が実務上は圧倒的にスムーズです。
Fiverr・Upworkなどの海外サービスを使っていても要確認
海外のクラウドソーシングサービスを利用している場合も、
「プラットフォーム経由だから源泉徴収は関係ない」
とは一概に言えません。
確認すべきなのは、
- 契約上の相手方は誰か
- 実際の報酬受取人は誰か
- 相手は個人か法人か
- どの国の居住者か
- プラットフォーム利用料と制作費がどう区分されているか
- 成果物の著作権について利用規約がどう定めているか
です。
特にクラウドソーシングでは、発注ボタンを押した時点でプラットフォーム所定の利用規約に同意しているケースが多く、経理担当者が著作権条項を一度も確認していないことも珍しくありません。
海外送金の税務では、請求書だけではなく契約書・利用規約まで確認することが重要です。
海外フリーランスへ送金する前に確認したい6項目
海外へWeb制作費、システム開発費、デザイン料、翻訳料などを支払う場合には、少なくとも次の6項目を確認しておくことをおすすめします。
① 相手方の居住国を確認する
国籍ではなく、税務上どこの国の居住者なのかを確認します。
② 支払内容を「役務」と「権利」に分けて考える
単なる制作作業なのか、著作権・ノウハウ等の利用や譲渡が含まれているのかを確認します。
③ 契約書・利用規約の著作権条項を確認する
「Copyright」「Intellectual Property」「Ownership」「License」「Assignment」などの条項は特に重要です。
④ 日本の国内源泉所得に該当するか確認する
海外で作業したという事実だけで判断してはいけません。
⑤ 租税条約を確認する
国によって課税関係や適用条件が異なります。
⑥ 必要な届出を送金前に済ませる
租税条約による軽減・免除を利用する場合には、届出書のほか、条約によって特典条項に関する付表や居住者証明書等が必要になる場合があります。
「海外へ払っているだけ」だった取引が、税務調査で問題になる
海外外注の源泉徴収で怖いのは、1件あたりの金額よりも取引が毎月積み重なっていくことです。
例えば毎月100万円を海外のクリエイターや開発者へ支払い、それを数年間継続していた場合、税務調査で過去の処理をまとめて確認されれば影響額は大きくなります。
しかも税務調査では、
「海外送金がありますね。これは何の支払いですか?」
というところから確認が始まります。
そこで契約書を提出した結果、
「この著作権譲渡条項はどういう意味ですか?」
と指摘されて、初めて源泉徴収の問題に気付くケースも考えられます。
海外取引では、送金してから対応するよりも、最初の契約・最初の支払いの段階で税務上の整理をしておくことが最も重要です。
海外外注・海外送金の源泉徴収でお困りの企業様へ
当事務所では、海外企業・外国人との取引がある日本企業を対象に、国際税務のサポートを行っています。
例えば、
- 海外デザイナーへのWeb制作費
- 海外エンジニアへのシステム開発費
- 海外翻訳者への翻訳料
- 海外企業へのライセンス料・ロイヤリティ
- 海外クラウドソーシングを利用した外注費
- 非居住者・外国法人への各種支払い
について、
「日本で源泉徴収が必要なのか」
「20.42%を引く必要があるのか」
「租税条約で免税・軽減できるのか」
「すでに支払ってしまった取引をどう処理すればよいのか」
といったご相談に対応しています。
契約書、請求書、利用規約、取引内容などを確認した上で、国内源泉所得の判定から租税条約の適用、源泉徴収・届出手続きまで、国際税務の観点から実務的に整理します。
海外送金は、実際に支払ってしまってからでは対応が複雑になることがあります。
海外のフリーランスや外国法人への支払いについて少しでも判断に迷う取引がある場合は、送金前の段階で一度ご相談ください。
代表税理士が直接、取引内容を確認して対応いたします。
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