「海外の取引先に100万円を請求したのに、実際の入金は85万円だった」
海外企業との取引を始めると、このようなケースが珍しくありません。
技術提供、ライセンス、ロイヤリティ、ソフトウェア、デザイン、ノウハウなどの対価を海外企業から受け取る場合、相手国の税法に基づいて現地の源泉所得税が差し引かれることがあります。
ここで経営者や経理担当者が注意したいのが、
「海外で税金を引かれても、日本で外国税額控除を使えば全部取り戻せる」
とは限らないことです。
むしろ、租税条約の適用手続きを事前に行っていなかったために、本来より多く源泉徴収されてしまうと、その超過部分について日本の外国税額控除を受けられない可能性があります。
海外取引では、「入金されてから考える」のではなく、契約・請求・送金の前に税務処理を確認しておくことが非常に重要です。
海外で引かれた税金=すべて外国税額控除できる、ではありません
外国税額控除は、同じ所得について外国と日本の双方で課税される国際的な二重課税を調整するための制度です。
日本法人が海外で法人税に相当する税金を負担した場合、一定の要件のもと、日本の法人税から外国税額控除を行うことができます。
しかし、ここには重要な例外があります。
日本とその国との間に租税条約があり、条約によって「相手国が課税できる税率」が制限されている場合、その条約上の限度税率を超えて課された税金については、原則として外国税額控除の対象となりません。
国税庁も、租税条約上の限度税率を超えて源泉徴収された外国法人税について、その超過部分は外国税額控除の対象となる「控除対象外国法人税額」に含まれないと明示しています。なお、法人の場合、その超過部分は一定の場合に損金算入される取扱いとなります。
つまり、
「外国で税金を払ったのだから、日本で同額を税額控除できるだろう」
という考え方は危険なのです。
例えば「15%引かれたが、租税条約では10%まで」というケース
分かりやすく、次のようなケースを考えてみましょう。
日本企業が海外企業にライセンスを提供し、ロイヤリティとして100万円を受け取る契約だったとします。
相手国の国内法によって15%の源泉税が差し引かれ、
請求額 100万円
現地源泉税 15万円
実際の入金額 85万円
となったとします。
ところが、日本とその国との租税条約を確認すると、そのロイヤリティについて相手国が課税できる限度税率が10%だったとします。
この場合、条約上認められる税額は10万円です。
したがって、
10万円相当部分:外国税額控除の対象となり得る
一方、
条約税率を超える5万円相当部分:原則として外国税額控除の対象外
となります。
しかも、10万円についても無条件に全額控除できるわけではなく、日本の外国税額控除には控除限度額などの計算があります。
超過して徴収された5万円を回収するためには、原則として相手国側で還付手続きを検討することになります。
金額によっては、現地専門家への報酬や翻訳、書類作成、手続きに要する時間を考えると、回収コストの方が高くなることもあります。
だからこそ、海外取引では**「引かれてから取り戻す」より「最初から余計に引かれないようにする」ことが重要**なのです。
特に注意したいのが、米国から受け取るロイヤリティ
さらに注意したいのが、米国企業からロイヤリティ等を受け取るケースです。
日米租税条約では、一定の要件を満たすロイヤリティについて、原則として受益者の居住地国のみで課税する仕組みとなっています。日本法人が条約上の要件を満たす場合、米国での源泉地課税が免除されるケースがあります。
一方、米国では外国人・外国法人に対する一定の米国源泉所得について、租税条約などによる軽減・免除がなければ30%の源泉徴収が適用されることがあります。
そこで重要になるのが、法人の場合のForm W-8BEN-Eなどの書類です。
W-8BEN-Eは、外国法人であることや、該当する場合には租税条約による税率軽減・免税の適用を受けるため、米国側の支払者等へ提出する書類です。
IRSも、原則として支払いを受ける前にW-8BEN-Eを支払者へ提出することを案内しています。
例えば、条約上は米国で免税となるロイヤリティであるにもかかわらず、必要な書類が提出されておらず30%を源泉徴収された場合、その30%がそのまま日本の外国税額控除で取り戻せるとは限りません。
金額が大きければ、資金繰りにも大きな影響を与えます。
100万円なら30万円ですが、年間1,000万円なら300万円です。
海外売上が増えてから初めてこの問題に気付く企業もあるため、注意が必要です。
W-8BEN-Eは「一度出せば永久に有効」ではありません
もう一つ実務上よくあるのが、
「昔W-8BEN-Eを提出したから大丈夫だろう」
というケースです。
IRSによれば、W-8BEN-Eは一般的に、署名した日からその後3暦年目の12月31日まで有効とされています。ただし、記載内容に影響する事情変更があれば、それ以前でも見直しが必要になります。
例えば2026年中に署名した場合、一般的には2029年12月31日までが一つの目安になります。
したがって、海外取引が継続している企業では、
「どの取引先に、いつ、どの書類を提出したか」
を管理しておくことが重要です。
なお、租税条約によっては特典制限条項(LOB:Limitation on Benefits)などの要件が設けられているため、「日本法人だから自動的に条約の軽減税率を使える」とは限りません。
会社の株主構成、事業実態、所得の種類などによって確認が必要になる場合があります。
海外からの入金で損をしないために、最低限確認したい5項目
海外企業との契約が決まったら、入金を待つ前に次の点を確認しておくことをおすすめします。
1.その収入は何の所得なのか
ロイヤリティなのか、サービスフィーなのか、事業所得なのか。
同じ「IT関連の売上」であっても、契約内容や権利関係によって税務上の分類が異なる可能性があります。
2.相手国の国内法では何%源泉徴収されるのか
まず相手国の国内法上の源泉税率を確認します。
3.日本との租税条約によって税率が下がらないか
国内法で20%や30%とされていても、租税条約によって10%、5%、場合によっては0%になるケースがあります。
4.減免を受けるために事前提出する書類はないか
国によって、
・居住者証明書(Certificate of Residence)
・W-8BEN-E
・現地の租税条約適用申請書
・受益者に関する証明書類
などが必要になることがあります。
送金後では手続きが複雑になる可能性があるため、支払前に確認することが基本です。
5.契約書の源泉税条項を確認する
海外取引では契約書に、
「源泉税を誰が負担するのか」
を明確にしておくことも重要です。
契約によっては、現地源泉税が発生しても日本企業の手取り額が減らないよう、支払者側が税負担を調整する**Gross-up Clause(グロスアップ条項)**を検討することもあります。
税務処理だけではなく、契約時点からキャッシュフローを考えることが重要です。
「海外売上が増えてから税理士に相談」では遅いことがあります
国際税務で難しいのは、決算申告だけを正しく行えば済むとは限らない点です。
海外取引では、
契約締結
↓
請求書発行
↓
租税条約の確認
↓
必要書類の提出
↓
海外から送金
↓
源泉徴収税額の確認
↓
日本での外国税額控除
という一連の流れを考える必要があります。
特に海外取引が増えている中小企業では、経理担当者が相手企業から突然、
「Certificate of Residenceを提出してください」
「W-8BEN-Eを送ってください」
「Tax Treaty Articleを記載してください」
と言われ、そこで初めて租税条約を調べ始めるケースも少なくありません。
しかし、国際税務は入金前に確認できるかどうかで、手取り額が変わる可能性があります。
海外からの入金額が請求額より少なかったら、一度確認してみてください
次のようなケースがあれば、海外取引の税務処理を一度確認してみる価値があります。
・海外企業からの入金額が請求額より少ない
・海外で10%、20%、30%などの税金を引かれている
・外国税額控除を毎年行っているが、租税条約を確認したことがない
・米国企業からW-8BEN-Eの提出を求められた
・居住者証明書の取得方法が分からない
・海外企業との契約書に源泉税の記載がない
・ロイヤリティなのかサービスフィーなのか判断できない
・過去に海外で余分な税金を引かれている可能性がある
当事務所では、海外取引・外国税額控除・租税条約・海外源泉税などの国際税務について、代表税理士が直接対応しています。
海外企業との契約内容や入金状況を確認したうえで、
・租税条約の適用関係
・外国税額控除の取扱い
・海外源泉税の確認
・居住者証明書等の取得手続き
・W-8BEN-Eなどの税務書類
・契約上の源泉税負担についての税務上の確認
・必要に応じた海外専門家との連携
などを整理します。
「海外から入金された後に税金を取り戻す」のではなく、「余計な税金を最初から引かれない仕組みをつくる」。
海外取引が増えてきた企業ほど、この事前準備が重要になります。
海外取引の税務、外国税額控除、租税条約の適用について不安がある経営者・経理担当者の方は、お気軽にご相談ください。
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