海外子会社を設立したものの、現地ではコワーキングスペースやシェアオフィスを利用し、社員は基本的に在宅勤務――。
IT企業、コンサルティング会社、オンラインサービス企業などでは、こうした運営形態は珍しくなくなりました。
しかし、日本親会社が海外子会社を保有している場合には、「オフィスを持たない効率的な経営」が外国子会社合算税制(CFC税制)の判定上、思わぬ税務リスクにつながる可能性があります。
特に注意したいのが、CFC税制における
・実体基準
・管理支配基準
です。
「現地法人として登記している」
「現地社員を雇用している」
「実際に売上も発生している」
という事実だけで、必ずしもCFC税制上の経済活動基準を満たすとは限りません。
海外子会社を持つ日本企業にとっては、設立時だけでなく、その後のオフィス契約、勤務形態、意思決定プロセス、現地責任者の権限まで含めて確認することが重要です。
今回は、国際税務の実務で見落とされやすい「CFC税制とシェアオフィス・在宅勤務」の関係について解説します。
外国子会社合算税制(CFC税制)とは
外国子会社合算税制(CFC税制)は、一定の外国関係会社の所得について、日本の株主である内国法人等の所得に合算して課税する制度です。
海外子会社を利用した租税回避を防止することを目的とした制度ですが、租税回避を意図していない通常の海外進出企業であっても、制度上の要件に該当すれば検討が必要になります。
現在の制度では、外国関係会社の租税負担割合が一定水準以上である場合には適用免除となりますが、その基準は原則として、
・特定外国関係会社:27%以上
・それ以外の外国関係会社:20%以上
とされています。
したがって、例えば法人税率の低い国・地域に海外子会社を設立している場合や、現地の優遇税制・免税制度を利用している場合には、CFC税制の検討が重要になります。
ここで注意したいのは、現地国の表面的な法人税率だけを見て判断してはいけないという点です。
CFC税制では「租税負担割合」という独自の計算が行われるため、
「この国の法人税率は20%を超えているから大丈夫」
と単純に判断するのは危険です。
CFC税制で重要な「経済活動基準」
一定の外国関係会社について会社単位の合算課税を回避するうえで重要になるのが、「経済活動基準」です。
主に次の4つの基準があります。
- 事業基準
- 実体基準
- 管理支配基準
- 所在地国基準または非関連者基準
これらについて、その海外子会社が現地で実際に独立した事業活動を行っているかを確認します。
財務省も、経済活動基準をすべて満たす場合には会社単位の合算課税ではなく、一定の受動的所得について部分合算課税を行う仕組みを示しています。
この中で、現在のリモートワーク型海外子会社で特に問題になりやすいのが、**「実体基準」と「管理支配基準」**です。
シェアオフィスなら実体基準を満たさない?
ここは誤解されやすいポイントです。
シェアオフィスやレンタルオフィスを利用しているだけで、直ちに実体基準を満たさなくなるわけではありません。
国税庁の通達でも、主たる事業を行うために必要な事務所等については、自己所有である必要はなく、賃借して使用している場合も「有している」ことに含まれるとされています。
重要なのは、
「その海外子会社の事業内容・事業規模から見て必要な固定施設があり、実際にそこで事業活動が行われているか」
という点です。
したがって、
・専用オフィスを賃借している
・社員が継続してそこで勤務している
・会社の設備や書類が置かれている
・その場所を実際の業務拠点として利用している
といった事実があれば、説明しやすくなります。
反対に注意したいのが、
・法人登記のためだけのバーチャルオフィス
・住所だけを借りて実際には使用していない
・必要なときだけ共用スペースを利用する
・社員は全員自宅勤務で会社としての業務拠点をほとんど使用していない
といったケースです。
国税庁のQ&Aでも、実体基準については固定施設が存在するだけではなく、その施設が主たる事業に必要であり、実際に利用されていることを示す必要があるとされています。
つまり、
「登記できるシェアオフィスを契約しているから大丈夫」
とは限りません。
完全在宅勤務の海外子会社は特に確認が必要
海外子会社の社員が全員テレワークというケースも増えています。
業務そのものは問題なく行えていても、CFC税制では「効率的に仕事ができているか」だけではなく、海外子会社が所在地国において事業を行うために必要な固定施設を有しているかという観点から判定されます。
国税庁は、固定施設に該当するかどうかについて、主たる事業の業種・業態や活動内容等を踏まえて判断するとしています。
そのため、
「IT企業だからオフィスは必要ない」
という理由だけで実体基準を満たすと判断することはできません。
特に、
・会社として使用する事務所がない
・登記住所はバーチャルオフィス
・従業員は全員それぞれの自宅で勤務
・重要書類や設備を置く会社拠点もない
という場合には、実体基準をどのような事実と資料で説明するのかを事前に整理しておく必要があります。
なお、シェアオフィス、固定デスク、従業員の自宅などが実体基準を満たすかどうかは、契約形態や利用実態、事業内容によって判断が異なります。
「専用個室がなければ必ずアウト」といった単純な判定ではありません。
日本からWeb会議で指示している場合は「管理支配基準」に注意
もう一つ重要なのが管理支配基準です。
海外子会社が形式的に存在していても、
実際の経営判断を日本親会社が行っている
場合には注意が必要です。
例えば、
・海外子会社の代表者が日本に常駐している
・現地役員には実質的な決裁権限がない
・重要な契約はすべて日本本社が判断する
・現地社員への指示を日本本社から直接出している
・取締役会は形式的に開催しているだけ
・資金管理や事業計画を日本側だけで決めている
といったケースです。
Web会議を利用すること自体に問題があるわけではありません。
現在では国際的な企業経営にZoomやTeams等を利用することは一般的です。
問題となるのは、
「Web会議をどこから行ったか」ではなく、「誰が実質的に海外子会社の管理・支配・運営を行っているか」
です。
海外子会社に現地役員が存在していても、その役員が名目的な存在にすぎず、日本親会社がすべての意思決定を行っているのであれば、管理支配基準について慎重な検討が必要になります。
【ケース】東南アジアにITサポート子会社を設立した場合
例えば、日本のIT企業A社が、法人税率の比較的低い東南アジアの国に100%子会社B社を設立したとします。
B社には現地社員が3名いて、日本企業向けのシステムサポート業務を行っています。
一見すると、十分に海外事業を行っているように見えます。
しかし、実際の運営が次のようになっていたとします。
オフィス
登記可能なシェアオフィスを契約。
ただし、専用スペースはなく、社員もほとんど利用していない。
社員
現地社員3名は全員自宅勤務。
経営
B社代表者は日本親会社A社の役員が兼務し、日本に居住。
重要事項の決裁、社員への指示、予算管理なども日本から行っている。
この場合、
「社員が現地にいる」
「現地で法人登記している」
「売上が発生している」
という事実だけで安心することはできません。
税務調査では、
・そのシェアオフィスが主たる事業に必要な固定施設として実際に利用されているか
・現地において経営上の意思決定が行われているか
・現地役員に実質的な権限があるか
・日本親会社が海外子会社を実質的に直接運営していないか
などを確認される可能性があります。
経済活動基準を満たさず、かつ租税負担割合などその他の要件にも該当すれば、海外子会社の所得について会社単位の合算課税が生じる可能性があります。
「海外子会社を作っただけ」の問題ではなく、その後の実際の運営方法が非常に重要なのです。
「ペーパーカンパニーではないから大丈夫」は危険
経営者からよく聞くのが、
「うちはペーパーカンパニーではありません。社員もいますし、売上もあります」
という説明です。
しかし、
ペーパーカンパニーに該当するかどうかと、経済活動基準を満たしているかどうかは、同じ問題ではありません。
実際に事業を行っている会社であっても、経済活動基準の判定について別途検討が必要になる場合があります。
特に海外子会社を設立して数年経過すると、
設立当初はオフィスがあった
↓
コロナ禍をきっかけに在宅勤務化
↓
固定費削減のためシェアオフィスへ移転
↓
現地責任者が退職
↓
日本本社から直接管理
という変化が起きている企業があります。
設立時には問題がなくても、現在の運営状況ではCFC税制上の説明が難しくなっているケースがあるのです。
現地の法人税率だけでCFC税制を判断しない
もう一つ注意したいのが現地の税率です。
例えば、
「この国の法人税率は20%以上だからCFC税制は関係ない」
と考えている企業があります。
しかし、CFC税制では単純な法定税率ではなく、「租税負担割合」を計算します。
現地で、
・新設法人に対する免税
・一定期間の法人税減免
・投資促進税制
・特区制度
・各種税額控除
などを利用している場合には、想定していたより租税負担割合が低くなることがあります。
特に海外進出時には、現地コンサルタントから
「この制度を利用すれば法人税が大幅に安くなります」
と説明されることがあります。
現地では有利な制度でも、日本側でCFC税制による合算課税が生じれば、グループ全体では想定した節税効果が得られない可能性があります。
海外進出では、現地税制だけでなく日本側の国際税務まで含めて検討することが重要です。
CFC税制対策として確認しておきたい5つのポイント
海外子会社を保有している企業は、少なくとも次の項目を確認しておくことをお勧めします。
1.オフィス契約
・単なる住所利用契約になっていないか
・実際に社員が利用しているか
・事業内容に応じた設備があるか
・契約書や利用状況を説明できるか
2.現地責任者の権限
・現地役員に実質的な決裁権限があるか
・契約締結や採用等を現地で判断しているか
・名目的な役員になっていないか
3.意思決定の記録
・取締役会議事録
・社内稟議
・業務報告書
・現地責任者の決裁記録
などから、実際の管理・運営体制を説明できるようにしておくことが重要です。
4.固定施設を利用している証拠
国税庁のQ&Aでは、
・賃貸借契約書
・賃料や維持費の支払資料
・オフィスの写真
・座席表
・シフト表
・日報、月報等
なども、実体基準を説明する資料の例として挙げられています。
税務調査が始まってから数年前の利用実態を再現するのは簡単ではありません。
平常時から証拠を残しておくことが重要です。
5.租税負担割合を毎期確認する
CFC税制は海外子会社を設立した年度だけ確認すれば終わり、という制度ではありません。
利益額、税制優遇、現地税制、事業内容、オフィス、人員、経営体制などは毎年変化します。
少なくとも決算ごとにCFC税制の適用関係を確認することが望ましいでしょう。
CFC税制だけでなく「移転価格」「国外寄附金」にも注意
海外子会社について確認すべき税務問題はCFC税制だけではありません。
例えば日本親会社が海外子会社に対して、
・営業支援
・経営指導
・システム提供
・技術支援
・人員派遣
・資金提供
などを行っている場合には、取引内容によって移転価格税制や国外関連者に対する寄附金の問題も検討する必要があります。
特に、
「海外子会社を日本本社が実質的に運営している」
という状況は、CFC税制の管理支配基準だけでなく、親子会社間取引の価格設定や役務提供の対価という別の国際税務問題につながる可能性があります。
海外子会社は「設立した後」の税務管理が重要です
海外子会社を設立するときには、多くの企業が、
・設立国
・法人税率
・人件費
・オフィス賃料
・銀行口座
などを慎重に検討します。
ところが、設立後の
「日本のCFC税制から見て、現在の運営方法に問題がないか」
まで継続的に確認している企業は、それほど多くありません。
特に近年は、
・シェアオフィスへの移転
・フリーアドレス化
・完全在宅勤務
・海外役員とのWeb会議
・日本本社からのリモート管理
が一般化しています。
これらは経営上合理的な仕組みですが、税務上の「実体」と「管理支配」の判定は、働き方の効率性とは別の観点から行われます。
だからこそ、
「現地で社員が働いているから問題ない」
「法人登記しているから問題ない」
「節税目的ではないから問題ない」
と判断せず、現在の海外子会社の実態を一度確認しておくことが重要です。
海外子会社・CFC税制で不安がある企業様へ
辻国際税理士事務所では、海外子会社を保有する日本企業を対象に、CFC税制(外国子会社合算税制)をはじめ、移転価格税制、国外寄附金、外国税額控除などの国際税務についてご相談を承っています。
特に、
・海外子会社がシェアオフィスを利用している
・現地社員がほぼ全員在宅勤務になっている
・海外子会社の役員が日本に居住している
・実際の意思決定を日本本社で行っている
・現地の優遇税制を利用している
・自社がCFC税制の対象になるのか分からない
・税務調査の前に海外子会社の税務リスクを確認したい
といった企業様は、一度現在の運営状況を整理することをお勧めします。
CFC税制は、海外子会社の所在地国、持株関係、租税負担割合、事業内容、オフィス、人員、取引先、意思決定体制などによって結論が変わる複雑な制度です。
海外子会社を設立した後に働き方や経営体制が変わった企業ほど、現在の実態に基づいた再確認が重要です。
海外取引・海外子会社に関する税務で判断に迷われている場合は、国際税務に対応する税理士へ早めにご相談ください。
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