土砂災害防止における宅建業者の責務-大分県中津市の土砂災害現場から

RETIOメルマガ第138号 今日の視点 より引用

★☆《土砂災害防止における宅建業者の責務-大分県中津市の土砂災害現場から 》★☆

 

先月4月11日未明に、大分県中津市耶馬渓(やばけい)町の住宅の裏山が、雨が降っ

ていないにも関わらず、約200メートルにわたって崩落し、4世帯6人の安否が不明にな

るという痛ましい事故が起こりました。4月13日時点で2人の死亡が確認され、残る4人

の捜索が続いています。心から関係者の方々のご冥福をお祈り申し上げます。

 

今回、雨も降っていないのに崩壊がなぜ起きたのでしょうか。国土交通省調査団等によ

りますと、原因は「岩盤風化」と考えられています。現場は溶結凝灰岩や安山岩などの岩

石の上に土砂の層が載っている構造でした。基礎となる地下の岩石が風化し強度が低くな

り、何らかのきっかけによって、上部の土砂とともに一気に崩れたと思われます。

こうした土砂災害 「岩盤風化」のリスクが全国各地にあることから、宅建業者として

の役割は何か、改めて確認したいと思います。

 

今回の大分県中津市の事故現場で調査した専門家によりますと、雨がなくても土砂崩れ

は起きると指摘しています。「岩盤に弱い面があると、経年劣化によってそこから大きく

崩壊することがあり、割れ目の風化が進んでいく過程で、地すべりを起こした可能性があ

る」とのことで、今回と同じような構造の地形は全国的に見ても珍しくなく、発生頻度は

低くても、岩盤風化のリスクは各地にあると警鐘を鳴らしています。

 

一般の消費者、住民にとっては、風化して割れ目ができているかどうかは全く分かりま

せん。このため、まずは、行政が定期的に各地の斜面を点検し、崩壊のリスクを伝えるべ

きですし、住民に対しても防災教育を強化し、住民が自主的に備える体制が求められるか

と思われます。

 

また、斜面の近くに住む方、その取引に当たる宅建業者は、「土砂災害警戒区域」(イエ

ローゾーン)や、その中でも大きな被害の恐れがある「土砂災害特別警戒区域」(レッド

ゾーン)に指定されていないかどうかを確認しておく必要があります。今回の中津市耶馬

渓町の被災地も指定されていました。国土交通省の調査によりますと平成30年2月末

で、イエローゾーンは約51万カ所、レッドゾーンはそのうち約36万カ所に上っていま

す。

 

1.土砂災害防止法の仕組み

 

土砂災害は毎年のように全国各地で発生しており、私たちの暮らしに大きな影響を与え

ています。また、その一方で、新たな宅地開発が進み、それに伴って土砂災害の発生する

おそれのある危険な箇所も年々増加し続けています。そのような全ての危険箇所を対策工

事により安全な状態にしていくには、膨大な時間と費用が必要となってしまいます。土砂

災害から人命や財産を守るためには、土砂災害防止工事等のハード対策と併せて、危険性

のある区域を明らかにし、その中で警戒避難体制の整備や危険箇所への新規住宅等の立地

抑制等のソフト対策を充実させていくことが大切です。

 

土砂災害防止法※は、土砂災害から国民の生命を守るため、土砂災害のおそれのある区

域について危険の周知、警戒避難態勢の整備、住宅等の新規立地の抑制、既存住宅の移転

促進等のソフト対策を推進しようとするもので、宅建業者の方々には十分な理解が必要な

法律です。

※正式名称「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」

 

まず、国の責務ですが、国土交通省には、土砂災害防止対策基本指針の作成を行う役割

があります。土砂災害防止対策の基本的事項、基礎調査の実施指針、土砂災害警戒区域等

の指定指針等を示しています。

また、都道府県は、基礎調査の実施を行います。区域指定及び土砂災害防止対策に必要

な調査を実施するほか、渓流や斜面など土砂災害により被害を受けるおそれのある区域の

地形、地質、土地利用状況について調査します。その上で、都道府県が、基礎調査に基づ

き、土砂災害のおそれのある区域等を指定します。

市町村等の責務は、情報伝達、警戒避難体制等の整備です。市町村地域防災計画(災害

対策基本法)において、危険個所の情報を明記するほか、ハザードマップの整備・配布を

行っています。

 

2.土砂災害警戒区域(通称:イエローゾーン)について

 

警戒区域は、急傾斜地の崩壊等が発生した場合に住民等の生命又は身体に危害が生じ

るおそれがあると認められる区域であり、危険の周知、警戒避難体制の整備が行われま

す。

 

(1)市町村地域防災計画への記載(土砂災害防止法第七条一項)

土砂災害が生じるおそれのある区域において土砂災害に関する情報の収集・伝達、予

警報の発令及び伝達、避難、救助等の警戒避難体制を確立しておくことが大切です。

このため、土砂災害に関する警戒避難体制について、その中心的役割を担うことが期

待される市町村防災会議が策定する市町村地域防災計画において、警戒区域ごとに警

戒避難体制に関する事項を定めることとされています。

 

(2)災害時要援護者関連施設の警戒避難体制(土砂災害防止法第七条二項)

高齢者、障害者、乳幼児等、自力避難が困難なため土砂災害の犠牲者となりやすい災

害時要援護者の利用する施設が警戒区域内にある場合には、市町村地域防砂計画にお

いて災害時要援護者の円滑な警戒避難を実施するため、土砂災害に関する情報等の伝

達方法を定めることとされています。

 

(3)土砂災害ハザードマップによる周知の徹底(土砂災害防止法第七条三項)

土砂災害による人的被害を防止するためには、住居や利用する施設に存する土地が土

砂災害の危険性がある地域かどうか、緊急時にはどのような避難を行うべきか、とい

った情報が住民等に正しく伝達されていることが大切です。このため、市町村長は市

町村地域防災計画に基づいて区域ごとの特色を踏まえた土砂災害に関する情報伝達、

土砂災害のおそれがある場合の避難地に必要な情報住民に趣致させるため、これらの

事項を記載した印刷物(ハザードマップ等)を配布し、その他必要な措置を講じるこ

ととなっています。

 

(4)宅地建物取引における措置(宅地建物取引業法第三十五条(同法施行規則第十六条

の四の三))

警戒区域では、宅地建物取引業者は、当該宅地又は建物の売買等にあたり、警戒区域

内である旨について重要事項の説明を行うことが義務付けられています。

 

宅建業者の皆様は、取引に当たる際に、警戒区域に関する最新情報をリアルタイムで

常に確認し、重要事項説明の際に相手方にお伝えいただくようご注意下さい。

 

3.土砂災害特別警戒区域(通称:レッドゾーン)について

 

特別警戒区域は、急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、建築物に損壊が生じ住民等の生

命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる区域で、特定の開発行為に

対する許可制、建築物の構造規制等が行われます。

 

(1)特定開発行為に対する許可制(土砂災害防止法第九条)

特別警戒区域では、住宅地分譲や社会福祉施設、学校及び医療施設といった災害時要

援護者施設の建築のための開発行為については、土砂災害を防止するための自ら施行

しようとする対策工の計画が、安全を確保するために必要な技術基準に従っているも

のと都道府県知事が判断した場合に限って許可されることになります。

 

(2)建築物の構造の規制(土砂災害防止法第二十三、二十四条)

特別警戒区域では、住民等の生命体又は身体に著しい危害が生じるおそれある建築物

の損壊を防ぐために、急傾斜地の崩壊等に伴う土石等の建築物に及ぼす力に対して、

建築物の構造が安全なものとなるようにするために、居室を有する建築物については

建築確認の制度が適用されます。すなわち区域内の建築物の建築等に着手する前に、

建築物の構造が土砂災害を防止・軽減するための基準を満たすものとなっているかに

ついて、確認の申請書を提出し、建築主事の確認を受けることが必要になります。

 

(3)建築物の移転等の勧告及び支援措置(土砂災害防止法第二十五条)

急傾斜地の崩壊等が発生した場合にその住民の生命又は身体に著しい危害が生ずるお

それのある建築物の所有者、管理者又は占有者に対し、特別警戒区域から安全な区域

に移転する等の土砂災害の防止・軽減のための措置について都道府県知事が勧告する

ことができることになっています。特別警戒区域内の施設設備にかかる防災工事や区

域外への移転等に対しては、以下のような支援措置があります。

 

ア 独立行政法人住宅金融支援機構の融資(独立行政法人住宅金融支援機構法第十三

条)

地すべり等関連住宅融資は、特別警戒区域からの移転勧告に基づく家屋の移転、

代替住宅の建設、土地の取得等に必要な資金の融資を受けられます。

 

イ 住宅・建築物安全ストック形成事業による補助(社会資本整備総合交付金)

特別警戒区域内にある構造基準に適合していない住宅(既存不適格住宅)を特別

警戒区域から移転し、代替家屋の建設を行うものに対し、危険住宅の除去等に要

する費用及び危険住宅に変わる住宅の建設に要する費用の一部が補助されます。

 

(4)宅地建物取引における措置(宅地建物取引業法第三十三条(同法施行令第二条の

五)、第三十五条(同法施行令第三条)、第三十六条(同法施行令第二条の五))

 

特別警戒区域では、宅地建物取引業者は、特別の開発行為において、都道府県知事の

許可を受け取った後でなければ当該宅地の広告、売買契約の締結が行えず、当該宅地

又は建物の売買等にあたり、特定の開発の許可について重要事項説明を行うことが義

務付けられています。

 

宅建業者の皆様は、特別警戒区域に指定された場合は、そもそも、都道府県知事の許

可を受け取った後でなければ当該宅地の広告、売買契約の締結が行えませんし、当該宅

地又は建物の売買等にあたり、特定の開発の許可について重要事項説明を行うことが義

務付けられていますので、ご注意下さい。

 

4.おわりに

 

現在、土砂災害警戒区域及び土砂災害特別警戒区域の指定が完了した都道府県は、全

国でも、青森県・山梨県・福岡県・群馬県・栃木県・石川県・山形県・岐阜県・福井

県・大阪府・山口県・長野県・茨城県の13府県にとどまっています。また、土砂災害

警戒区域の指定が完了した都道府県は島根県・鳥取県・奈良県の3県のみという現状で

す。

 

まずは、行政における基礎調査の実施、区域指定、情報伝達等の取組みを強化してい

ただくことが重要かと思われます。

 

同時に、宅建業者の皆様におかれましては、常に、土砂災害防止法の指定区域情報に

ついては最新情報を把握いただき、取引における重要事項説明の際に十分な注意を払っ

ていただき、土砂災害防止にご協力をお願い申し上げます。

 

今回の大分県中津市の土砂災害事故は降雨を伴わない非常に珍しいケースでした。同

じようなリスクが全国各地で潜んでいることを理解していただいた上で、不動産取引に

当たることが、国民の生命・財産を守ることにつながるかと思います。

 

宅建業者の皆様の役割、社会からの期待は大きいと言えるかと思います。改めて最新

の土砂災害防止法の区域指定情報をご確認いただき、実務に当たっていただければ幸い

です。ご対応をどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

(参考情報)

1.土砂災害防止法(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法

律)や関連情報

http://www.mlit.go.jp/river/sabo/linksinpou.htm

2.全国における土砂災害警戒区域等の指定状況

http://www.mlit.go.jp/river/sabo/sinpoupdf/jyoukyou-180228.pdf

3.全国における土砂災害警戒区域等の指定状況(H30.2.28時点)

http://www.mlit.go.jp/river/sabo/sinpoupdf/guraf-180228.pdf

4.各都道府県問い合わせ先

http://www.mlit.go.jp/river/sabo/sinpoupdf/inq-07.pdf

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