◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

RETIOメルマガ第151号より引用

◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

                  

 

[条例の説明義務]

 

実損がないため請求は棄却されたが、条例の内容を説明しないことは、宅建業者の注意義務

違反であるとされた事例

 

借主が、説明を受けていない条例により、予定していた「飲食店営業」を行えず、「喫茶

店営業」を強いられていると主張して、共同不法行為により、貸主、借主の両宅建業者と貸

主に対し、また、予備的に債務不履行又は瑕疵担保責任により、借主側宅建業者と貸主に対

して損害賠償を求めた事案において、宅建業者の注意義務違反と相当因果関係のある損害

は認められないとして、請求は棄却されたものの、条例の内容を説明しないことは、宅建業

者の注意義務違反であるとされた事例

(東京地裁 平成29年11月27日判決 棄却 ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

 

首都圏で、飲食店の開業を希望するX(原告)から委託を受けたA(訴外)は、宅建業者

Y1(被告)に物件紹介を依頼した。

平成26年4月下旬、Y1は、ネットで、貸主Y3(被告)が宅建業者Y2(被告)に借主募

集を依頼した物件(以下「本物件」という)の広告を見つけ、Y2に問い合わせた。

本物件の敷地は、第一種中高層住居専用地域の指定とともに、東京都文教地区建築条例に

よる第一種文教地区に指定(以下「本件規制」という)され、原則「飲食店営業」ができな

い地区に存していた。なお、食品衛生法では「喫茶店営業」は、酒類以外の飲食をさせる営

業とされ、酒類の提供を行えば「飲食店営業」にあたることになる。

Y2は、本物件での「飲食店営業」が原則禁止されていることを認識していたが、借主募

集の間口を広げるため、Y3の了解を得て、広告に「飲食店相談可」と記載していた。

同年5月13日頃、Y1から本物件の情報を受けたAは、Y1に「茶粥膳」と記載のあるコン

セプトシート(以下「本シート」という)を送付し、本シートはY2、Y3へ送付された。

同月19日頃、関係者すべてが会した際、Aは、Y3に本シート記載の店舗を開く予定と説

明した。また、Y2はY1に、本物件の用途地域の種類は告げたが、第一種文教地区に指定さ

れ、本物件での「飲食店営業」が原則禁止であることまでは告げなかった。

同年6月4日、Y2作成の重要事項説明書及び契約書にも本件規制の記載がないまま、賃

貸借契約が締結され、Xは、開店予定日を同年7月22日とし内装工事を開始した。工事に

先立ち、Aは、同月2日頃、本物件での「飲食店営業」の許可申請書を提出した。

同年7月上旬、開店に向けたチラシを見た本物件上階の住人からY3に、本物件で「飲食

店営業」が可能かとのクレームが入り、Y3からその旨を聞いたⅩは、本物件で原則「飲食

店営業」ができないことを知り、Y1らに対し、「飲食店営業」を行えないことにより生じた

とする損害の賠償を求め提訴した。

なお、Xは、営業許可申請を「喫茶店営業」に訂正し、予定開店日に営業を開始し、茶粥

やパンケーキ等を提供し、継続営業している。

 

 

2 判決の要旨

 

裁判所は、次のように判示して、Xの請求を棄却した。

 

(1)被告らの調査・説明義務違反の有無

 

Y1及びY2は、本物件において、本件規制により「飲食店営業」が原則、禁止されている

のであるから、賃借する者が「飲食店営業」の目的で賃貸借契約を締結しようとしている場

合には、契約締結に重要な影響を及ぼすものとして、その者に本件規制の存在及び内容を説

明すべき義務を負うというべきである。

Xは、本物件で茶粥等の提供を予定し、「飲食店営業」の許可申請をしたことから、「飲食

店営業」目的で賃借したことが認められる。

Y1及びY2は、Aから本シートを受領し、内覧時にも説明を受けており、宅建業者として

通常払うべき注意を払っていれば、Xの本物件の賃借目的が「飲食店営業」であると気付く

ことができたにもかかわらず気付かず、Xに本件規制の内容を説明しなかったものであり、

Ⅹに対し、注意義務違反により生じた損害を賠償すべき義務があるというべきである。

Y2は、Xと直接の契約関係になく、本物件での営業内容を聴取する立場にないと主張する

が、宅建業者は、委託を受けた者のみならず、業者の介入に信頼して取引をするに至った第

三者に対しても、業務上の一般的注意義務があり、同義務違反により当該第三者が損害を被

ったときは不法行為責任を負うと解すべきである(最二判 昭36・5・26)。

Y3は、借主募集をY2に委託しており、契約に影響を及ぼす法令上の制限等、重要な事項

の調査・説明はY2がすべきで、Y3が調査・説明義務を負っていたとは認められない。

 

(2)貸主の瑕疵担保責任の有無

 

Xは、本件規制により、本物件で「飲食店営業」ができないことは、隠れた瑕疵に当たる

旨主張するが、本件規制は「飲食店営業」を行う場合に問題となる法令上の制限にすぎず、

本件規制の存在をもって通常備えるべき性質を欠いているといえず、また、当事者間で「飲

食店営業」が可能との合意内容があったとの主張も、広告等での「飲食店」という文言は、

食品衛生法上の「飲食店」としてでなく、一般的な用語記載とみるのが自然であり、合意内

容であったとは認められない。

 

(3)原告に生じた損害

 

Xは、「飲食店営業」と、「喫茶店営業」との内装工事費用の差額の損害を被ったと主張す

るが、予定開店日に開業でき、最も提供したかった茶粥を提供できたこと、費用支出額は経

営者判断によること等から、同費用は、通常の店舗費用とみるべきであり、Y1等の義務違

反による損害とは認められない。

Xの酒類の提供ができず、損失が発生しているとの主張も、当初計画で夕食時よりも昼食

時の売り上げを大きく見込んでおり、酒類の提供は特段予定されていなかったと推認され、

「喫茶店営業」となったことで損失が発生したとは認められず、Y1及びY2の義務違反との

間に相当因果関係は認められない。

 

 

3 まとめ

 

本判決では、飲食店営業ができないことによる開店日や売上への影響がないとして請求

は棄却されましたが、宅建業者の義務違反は認めています。宅建業者は媒介等する場合で、

借主等の使用目的を把握できて、同目的に制限を加える条例等が存する場合には、媒介契約

締結以外の相手方も含め、条例等を説明することが求められるといえるでしょう。

なお、本件と同様のケースで、媒介契約を締結していない借主からの請求により、報酬の

約80倍の損害賠償が認められた賃貸の媒介の事例(東京地判H20・3・13 RETIO75-84)が

あります。

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