◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆手附解除期限特約の有効性

RETIOメルマガ第164号より引用

◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

                  

[手附解除期限特約の有効性 ]

融資特約に基づく白紙解除及び手附金返還を求めた個人買主に対して、土地の売主である

宅建業者が、手附解除期限経過による違約金を請求して反訴した事案において、売主が宅

建業者である場合の手附解除期限特約は、宅建業法39条2項の規定に反し、同3項により

無効である一方、融資特約による白紙解除期限を伸長するとの合意も認められないとし

て、双方の主張を棄却した事例(東京地裁 平成28年10月11日判決 ウエストロー・ジャパ

ン)

 

1 事案の概要

 

売主業者X(原告)と個人買主Y(被告・反訴原告)は、平成27年2月28日、マンショ

ン建設用地について1億4,980万円で売買契約を締結し、YはXに手附金200万円を支払っ

た。

本件売買契約では、手附解除期限は3月7日、融資未承認の場合の白紙解除期限(以

下、この特約を「融資特約」という。)は4月20日、残代金支払及び本件土地の引渡期日

は4月末日とされ、違約金は1,498万円とされていた。

Yは、融資特約期限の4月20日までに銀行から融資承認を得ることができなかったが、

Xに対し、Xとの間で融資特約による白紙解除期限を4月28日まで伸長する合意が4月21

日に成立していたとして、4月28日に本件売買契約を解除するとの意思表示をした。

これに対し、Xは、融資特約による白紙解除期限を伸長する合意は存在しないとして、債

務不履行(残代金不払)を理由に契約解除し、Yに約定の違約金を請求した(本訴)。

一方、Yは、Xに対し、融資特約に基づく手附金の返還を請求した(反訴)。

なお、X・Yとも4月28日までに本件売買契約の履行に着手した事実はなかった。

 

 

2 判決の要旨

 

裁判所は、次のように判示して、Xの請求、Yの反訴請求をいずれも棄却した。

 

(期間伸長の合意の成否)

Yは、4月21日に、Xに対して、本件売買契約を一部変更して、融資承認取得期限並び

に残代金の支払い及び本件土地の引渡し期日を伸長して欲しいと懇請し、その旨の合意書

案を持参したが、Xは、銀行から内定書をもらうか、中間金を入れなければ合意書の締結に

応じられないとして、これに署名押印しておらず、融資特約による白紙解除の期限を延長す

る合意が成立したとは認められない。

 

(手附金放棄による解除の成否及び債務不履行の有無)

宅建業法39条2項は、宅地建物取引業者がみずから売主となる宅地の売買契約の締結に

際して手附を受領したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその

手附を放棄して契約を解除することができ、と規定し、同条3項は、この規定に反する特

約で、買主に不利なものは,無効とすると定めている。

この点、本件売買契約は、宅地建物取引業者であるXが自ら売主となってYに宅地を売

る内容の契約であるところ、手附放棄解除特約は、当事者の一方が契約の履行に着手する

までであっても、手附解除期限とされた平成27年3月7日が経過すれば、Yが手附金を放

棄して解除することができない内容のものであるから、買主に不利な特約であり、宅建業

法39条3項により無効である。

上記により、手附放棄解除特約は無効であり、本件ではXもYも契約の履行に着手した

事実はないから、Yは手附金を放棄することにより本件売買契約を解除することができる

状況にあったこととなる。

Xは、手附解除をする場合には、手附解除であることを明示して意思表示する必要があ

り、Yはこれをしていないと主張するが、民法557条1項(手附解除)は、契約解除の意

思表示とは別に手附放棄の意思表示を要するものとはいえない。

 

(結論)

以上によれば、本件売買契約の債務不履行に基づき損害賠償金(違約金)の支払を求め

るXの本訴請求については、Yの手附金放棄による本件売買契約の解除が認められること

となるから債務不履行とはならず、その請求は認められない。

また、融資特約の期間伸長の合意が成立し、これに基づき本件売買契約を白紙解除した

として、不当利得返還請求権に基づき、交付した手附金の返還を求めるYの反訴請求は、

上記合意が成立したと認めるに足りる証拠がなく、かえって、Yが手附金を放棄したと認

められるから、理由がない。

よって、X、Y双方の請求を棄却する。

 

3 まとめ

 

売主が宅建業者である場合の売買契約(買主が宅建業者である場合は除く。)について

は、宅建業法39条2項で、手附に解約手附性を付与するとともに、同条3項で、この実効

性を担保するため、これに反する特約で買主に不利なものを私法上無効としています。

これらは宅建業者が必ず理解しておくべき事項です。

手附解除期限特約は、民事法上無効となるだけでなく、このような特約を設けた売主宅

建業者、媒介業者は、宅建業法上の処分の対象となる恐れもあるので注意しましょう。

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