RETIOメルマガ第182号より引用
◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆
[ローン解除]
融資申込の申告内容相違等を理由に買主のローン解除を否定する売主業者に買主への手付
金返還を命じた事例(東京地判 令3・1・6 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成29年10月27日、本件土地について、買主X(原告)は、売主Y(被告、宅建業者)
と、媒介業者Aの媒介により本件売買契約を締結した。
(本件売買契約の概要)
・売買代金:4,800万円(手付金:100万円)
・融資申込金融機関:Bローン(フラット35)
・借入額:6,600万円(建物請負代金含む)
・ローン特約期限:平成29年11月17日
・違約金:売買代金の20%相当額
本件売買契約前の平成29年10月15日、XはAを交えYと面談し、Xの勤務先、年収、
借入先等を記載した本件告知書をYに提出した。
本件売買契約後、XはAを通じてBローンに、7,000万円の住宅ローンを申し込んだが、
承認が得られなかった。Xは、更にC銀行に住宅ローンを申し込んだが、これも難しい状況
であった。
ローン特約期限の同年11月17日、XはAの立ち会いのもと、Yに、ローンの申し込みが
厳しい状況である説明をし、同月20日、Yに「本件告知書を買主は売主に提出している。
現在買主の都合によって融資金融機関を選択中。」など記載の本件確認書面を差し入れた。
しかし、Xは融資金融機関の最終条件を受け入れられなかったことから、本件売買契約の
解除をYに申し入れ、同月24日、XとYは「Xは本件売買契約の解除を申し入れたこと、
解除理由は合意できていないが、Xは本件土地を今後購入する意思のないこと、Yは第三者
に本件土地を売却できること」の土地売買契約解除確認書を交わした。
同年12月3日、YはXに対し、内容証明郵便により「(1)本件確認書面・本件解除確認書
面によるXの都合による購入意思の喪失、(2)ローン特約の期限内に解除通知を提出しなか
ったこと、(3)Yに提出した告知書の内容が虚偽であったこと、(4)Xが申し込んだ金融機関
の融資条件を受け入れなかったこと」などが本件売買契約の解除理由にあたり、契約を違約
解除したとして、違約金860万円(手付金控除後)の支払いを求める通知をした。
Xは、本件ローン特約に基づき本件売買契約を解除したとして、Yに手付金の返還を求め
る本件訴訟を提起した。
これに対しYは、Xが正当な理由がなく本件土地の取得を断念したことが本件売買契約
に基づく義務の不履行に当たるとして違約金860万円を求める反訴をした。
2 判決の要旨
裁判所は、次の通り判示し、Xの請求を全部認容し、Yの請求を全部棄却した。
(1)本件ローン特約の期間延長合意について
ローン特約期限の11月17日の面談において、Yは「Xがローン解除することを拒絶し
た」旨証言をし、X及びAは「Yより同日以降にローンが受けられなくても手付金を返還す
ると聞いたのでローン解除はしなかった」旨証言をする。
そこで検討すると、融資の見通しがつかず、手付金や違約金を請求される可能性が高い状
態にあるにもかかわらず、「Xが本件売買契約を解除しないと発言した」というのは不自然
であること、本件確認書に「現在買主の都合によって融資機関を選択中」と記載しているこ
とに鑑みると、同面談において、Yは、Xとの間で本件ローン特約の期限を相当期間延長す
ることを合意したと見るのが相当であり、Yの証言は採用できない。
(2)金融機関からの融資が受けられなかったことと買主の帰責事由の有無
Xが本件告知書及び融資申込書に記載した年収と所得額とが異なっていたこと、勤務先
の属性についても事実と異なっていたことは認められるが、6,000万円程度であれば、融資
は通りそうだという話があったことが認められるから、上記記載内容の齟齬によって本件
売買契約書に記載されていた借入額が当初から実現不可能なものであることが明らかであ
ったとは言えない。
さらに、「Xが予定していた自己資金400万円が1,000万円程度に増えたため、Bローン
からの融資を断念したこと、C銀行の融資の申し込みについて、親の連帯保証、所有不動産
の担保提供といった条件を飲めずC銀行からの融資を断念したこと」について、Xに帰責事
由があるとはいえない。
以上から、Xが本件告知書や融資申込書に事実と異なる記載をして提出したことをもっ
て、金融機関から融資が受けられなかったことにXに帰責事由があるということはできな
い。
(3)結輪
以上より、Xが本件売買契約で定められた本件ローン特約期限の7日後である平成29年
11月24日に土地売買契約解除確認書によってした同契約の解除は、延長された期限内に行
われた本件ローン特約に基づくものとして有効と認めるのが相当であり、Yが主張する本
件売買契約の違約解除特約が適用される余地はないから、YにXへの手付金の返還を行う
ことを命じ、Yの請求はいずれも棄却する。
3 まとめ
住宅ローンを前提に売買契約を締結したところ、いざ、ローンが通らなかったときに、売
主業者・媒介業者に何かの理由をつけられてローン解除が阻まれ、手付金を取り戻すのに裁
判までしなければならないとしたら、一般消費者は、不動産業者と取引することができない
ことになってしまいます。
これは、円滑な不動産流通を阻害する要因であり、不動産業界や他の不動産業者にとって
も好ましくない話であると思われます。