◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆[定期借家契約]

RETIOメルマガ第179号より引用

◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

                  

[定期借家契約]

定期借家契約の契約更新がない旨の特約に関し、借地借家法38条2項所定の事前説明が

行われたかが争われた事案において、説明を委任した媒介業者が重要事項説明にて事前説

明をしたとする貸主の主張につき、貸主が媒介業者に事前説明の代行を委任した証拠はな

いなどとして、同契約の契約更新がない旨の特約は無効と判断された事例(東京地裁 令和

2年3月18日判決 ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

平成25年2月21日、貸主X(原告・法人)と借主Y(被告・法人)は、事務所ビルの一

室(本件建物)につき、賃貸借期間を平成25年3月13日〜平成30年3月12日とする、

定期建物賃貸借契約(本件契約)を締結した。

本件契約に際し、媒介を行ったA(媒介業者)はYに対して「賃貸借の種類:定期建物賃

貸借契約、※更新がなく,新たな賃貸借契約を締結する場合を除き期間の満了をもって契約

は終了します。(借地借家法第38条)」(本件重説記載)と記載した重要事項説明書の交付・

説明を行ったが、ⅩよりYへの、賃貸借は契約の更新がなく期間満了により賃貸借が終了

する旨(本件特約)の、借地借家法38条2項所定の書面(事前説明書)の交付・説明(事

前説明)はなかった。

平成29年9月、ⅩがYに、期間の満了により本件建物の賃貸借が終了する旨の通知をし

たところ、Yは「事前説明がなかったことから、本件契約は法律上は定期建物賃貸借契約で

なく通常の賃貸借契約と見做されるとの見解を、複数の法律事務所から受けた。」として、

本件契約の終了を拒否した。

当初Ⅹは、事前説明に瑕疵があったとして、円満解決による契約の終了をYに申し入れ

ていたが、重要事項説明書が事前説明書を兼ねることが可能である旨の平成30年2月28

日付国土交通省通知(国交省通知)の発出を知り、「Yへの事前説明は、Xが委任したAが

本件重説記載にて行っているから本件特約は有効」として、改めてYに退去を求め、しか

しYに拒否されたことから、本件契約の終了及び建物の明渡しを求める訴訟を提起した。

Yは、「Yに対して、貸主が行う事前説明を宅建業者が行う場合に必要な、ⅩからAへ代

理権が授与されていること、Aの重要事項説明が事前説明書を兼ねることの明示や説明は

なかった。国交省通知の発出までは、重要事項説明書が事前説明書を兼ねることができない

との見解が一般的であった。」などとして、本件特約は無効と主張した。

 

2 判決の要旨

裁判所は、次のように判示し、Xの請求を棄却した。

⑴ 契約の更新がない旨を定める建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あ

らかじめ、建物の賃借人に対し、その建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により

当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなけ

ればならない(借地借家法38条2項)。建物の賃貸人がその説明をしなかったときは、契

約の更新がないこととする旨の定めは、無効となる(同条3項)。

⑵ ここに、事前説明は、建物の賃貸人に課せられた義務であり、宅地建物取引業者がなす

べき重要事項説明をもって当然に代替されるものではない。

そして、本件において、XはAに対し、媒介を依頼したが、XとAとの間で事前説明の

代行までその準委任事務に含めていたことを示す客観的証拠資料は見当たらない。事前説

明と重要事項説明の主体及び法令上の根拠の別を前提としつつも、事前説明の代行が取引

慣行として媒介事務に含まれていること又はXとAとの間では含まれていたことを認める

に足りる証拠もない。

また、本件重要事項説明書をみても、Xがなすべき事前説明がAの代行により行われた

ことは何ら記載されていない。本件重要事項説明の際、YにおいてXからの事前説明も受

けていることを認識していたことを示す客観的証拠資料は見当たらない。

XはAに対して「包括的な代理権」を授与したと主張するが、その内実についてのXの

検討はそもそも説得的なものではなく、客観的裏付けもないので、採用できない。

⑶ 以上によれば、そもそもXが説明主体となっていたことを認める証拠はないことから、

本件賃貸借契約において、契約の更新がないとする旨の定めは無効であり、Xの請求にはい

ずれも理由がないからこれを棄却する。

 

3 まとめ

借地借家法38条2項は、定期建物賃貸借契約を締結する借主に、契約には更新がなく期

間の満了により終了することを理解させるための情報提供のみならず、更に事前説明書の

交付を要求することで、契約更新に関する紛争を未然に防止する趣旨であり、事前説明書は、

借主が「賃貸借契約に更新はなく、期間の満了により終了する。」と認識しているかどうか

にかかわらず、契約書と別個独立の書面であることが必要とされています。(最一判 平24・

9・13 裁判所ウエブサイト)

宅建業者の重要事項説明書が事前説明書を兼ねることが可能かについては、国土動第133

号・国住賃第23号 平成30年2月28日付国土交通省通知において、「賃貸人から代理権を

授与された宅建士は、『①当該賃貸借が、法第38条第1項の規定に基づく定期建物賃貸借

で、契約の更新がなく、期間の満了により終了すること、②重説の交付が、法第38条書面

の交付を兼ねること、③貸主から代理権を授与された宅建士が行う重要事項説明は、貸主の

法38条第2項に基づく事前説明を兼ねること』を記載した重要事項説明を行うことにより、

貸主の代理として事前説明書の交付及び事前説明を行うことが可能」である旨が示されて

います。

本件は、Xが説明主体として、貸主の義務である事前説明をしていないとして、本件特約

は無効と判断されたものですが、上記国交省通知に照らしても、Aの本件重説記載のみで

は、その要件が不足していることになります。(Xは控訴しましたが、その後、Xが立退料

を支払い、Yが本件建物を明け渡すことで和解をしています。)

宅建業者及び宅建士においては、貸主の代理として、重要事項説明と兼ねて事前説明書の

交付・説明を行う場合、その説明等に瑕疵があれば、定期借家契約の契約更新がない旨の特

約が無効となる危険があること、そのため上記国交省通知で必要とされる手続きや記載要

件は漏らしてはならないことについて、十分認識をしておく必要があります。

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