◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆【消防法等に関する調査】

RETIOメルマガ第203号より引用

◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆

                  

消防法等に関する調査

消防設備等に関し、建物が借主目的の民泊事業に使用できるかの調査は借主自身が行う必

要があるとされた事例(東京高判 令4・10・27 ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

貸主Y(被告・被控訴人、転貸人)は、平成29年5月新築、4階建9戸の共同住宅(本

件建物)のうち貸室5戸(本件各貸室)を賃借し、(転貸するため)自社サイト(本件サイ

ト)に掲載した。

平成29年11月、借主X(原告・控訴人、転借人)は、住宅宿泊事業(民泊事業)を行う

ため、宅建業者Aの媒介にて、本件各貸室の賃貸借契約(本件各賃貸借契約)を締結し、Y

より本件各貸室を賃借した。

なお、平成29年10月27日付で消防庁より発出された「住宅宿泊事業法に基づく届出住

宅等に係る消防法令上の取扱いについて」(本件通知)によれば、住宅宿泊事業を営む住宅

において必要となる消防設備等は、宿泊室の床面積や家主(住宅宿泊事業者等)の居住の有

無等から判定された消防法令上の用途に応じて定められることとされていた。

Xは、令和2年6月頃、本件建物の管轄消防署より、本件各貸室の用途が、特定用途の複

合(住宅宿泊事業を行う施設)に該当することから、本件建物全体に消防設備の設置が必要

である旨の連絡を受けて、Yに対し、その対応を求めた。

しかしYは、Xに対し、Yはあくまで民泊利用を所有者から許可されている物件を紹介し

ているもので、住宅宿泊事業を継続するのであれば、消防設備設置はXにおいて行ってほし

いと拒否の回答をした。

これに対してXは、本件各賃貸借契約締結の際、(1)本件建物には民泊事業を営むにあた

り消防法令上必要とされる自動火災報知機等が未設置であること、(2)本件各貸室において

民泊事業を営むためには、本件建物全体に係る消防設備投資の費用をXが負担しなくては

ならないことの説明をYが怠ったとして、Yに対し賃借に要した費用等として475万円余

の支払を求める訴えを提起した。

第一審において、Xの請求が棄却されたことから、これを不服としたXが控訴した。

 

2 判決の要旨

控訴審においても裁判所は次のように判示し、Xの控訴を棄却した。

<説明義務違反の有無について>

Yが本件各貸室を本件サイト上に掲載していたこと、Xが本件各貸室で民泊事業を営む

ことを計画して本件各貸室の賃貸借契約を締結したこと、消防法令上、本件各貸室で民泊事

業を営むためには、本件建物全体に自動火災報知設備を設置し、1階コミュニティスペース

に誘導灯を設置する必要があったが、本件建物にはこれらが設置されていなかったことが

認められる。

しかし、本件サイトや本件各賃貸借契約書、重要事項説明書に、本件各貸室ないし本件建

物が、民泊事業を行うにあたり必要とされる設備を完備している旨の記載や、民泊事業を行

うにあたり法令上の問題がない旨の記載はない。また、本件各賃貸借契約締結に際し、Xが、

YないしAに対し、上記のことを要望したり確認を求めたりした形跡もない。そうすると、

本件各賃貸借契約の内容として、本件各貸室ないし本件建物に民泊事業に必要とされる設

備が備わっていることまでが含まれていたものと認めることはできないし、貸室の民泊利

用につき貸主が承諾している物件情報を提供する本件サイトに物件を掲載したことが、民

泊事業に必要とされる設備が備わった建物であることをYが保証したことになると評価す

ることもできない。

これに対し、Xは、本件建物全体に自動火災報知設備を設置するためには数百万円の費用

がかかるところ、社会通念上、建物を部屋単位で賃借する賃借人が、そのような費用を自己

負担しなければならないと説明されていれば、賃貸借契約を締結するはずがなく、これは重

大な告知事項というべきであり、賃貸借契約締結にあたり、Yはそのことを説明する義務が

あったと主張する。

しかしながら、消防法令上の取扱いについては、平成29年10月27日付の本件通知によ

って定められたものであるところ、本件各賃貸借契約はそれから1か月足らずで締結され

たものであり、本件各賃貸借契約締結時点で、本件通知の内容が不動産賃貸業者等に周知さ

れていたことを認めるに足りる証拠はないし、Yが本件通知の内容を知っていたとも認め

られない。

なお、Xが、本件各賃貸借契約当時、本件通知について話題に出したり、消防法令上の取

扱いについてYやAに確認したりした形跡がないことからすると、ホテル及び旅館等その

他宿泊施設の企画、運営、管理及び経営等を目的とする株式会社であるXにおいても、本件

各賃貸借契約当時、本件通知の内容について把握していなかったことが推認される。

そして、Yは、Xから本件各貸室ないし本件建物において民泊事業を営む場合の法令適合

性について調査を依頼されたコンサルタント業者でも、民泊事業を営むための設備を完備

した建物を紹介するよう依頼された仲介業者でもなく、本件各貸室の賃貸人にすぎないの

であるから、本件各賃貸借契約締結に際し、積極的に法令等を調査して、本件各貸室で民泊

事業を営むために必要な消防設備等を備えているかどうかを確認しなくてはいけない義務

があったとまで認めることはできない。

 

3 まとめ

最近、本件のように、民泊目的で建物を賃借したが、消防法等の規制によって、借主が目

的である民泊としての使用ができなかったというトラブルがよく見られます。

媒介業者が民泊目的の建物賃貸借の媒介を行う際には、当該建物が民泊事業に使用でき

るかどうかの消防法等の規制の有無については、借主自身の責任において設計・建築等の専

門家に依頼して調査するよう借主にアドバイスしておきましょう。

 

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