◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆故意の条件成就妨害

RETIOメルマガ第188号より引用

◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆

                  

【故意の条件成就妨害】

売買契約を見送ると連絡した後、他業者の媒介で当該物件を購入した買主に対する当初の

媒介業者の報酬請求が全て認められた事例(東京地判 令3・2・26 ウエストロー・ジャパ

ン)

 

1 事案の概要

平成27年11月30日、Y(被告・個人)は、媒介業者X(原告)から紹介を受けた都内

に所在する賃貸マンション(売却希望価格:4億2000万円)について、購入価格を4億円と

する購入申込書をXに提出した。その申込書には、「私は、貴社より紹介を受けております

後記表示の物件の不動産を下記の条件にて購入することを申し込みますので、貴社に交渉

をお願いします。」「当社は速やかに上記条件にて売主と折衝します。」「成約の際には、成約

本体価格の3%+6万円の仲介手数料及び消費税を申し受けます。」と記載されていたが、

その提出の際にYはXに、媒介報酬を1080万円に減額するよう検討を依頼した。

その後、Yは、本物件の売主側媒介業者Aに価格引き下げ交渉をしたものの、他にも購入

検討者がいることを理由に拒否された。

同年12月2日、XはYに、売買価格4億2000万円、媒介報酬1080万円などとする購入

申込書を再提示し、Yはこれに署名・捺印した。

同月7日、XはYに、契約場所、手付金、仲介手数料540万円(半金)、持参物等、売買

契約締結に関する案内が記載された案内文書を手交した。また、売買契約日は12月10日

または11日が予定された。なお、媒介契約書は売買契約時に調印される予定であった。

同月9日、YはXに、家族の反対を理由として、本物件の購入を取り止める旨を告げ、売

買契約は中止となった。

それから2年余り経った平成30年7月頃、Xは、Yが本物件に出入りしているところを

偶々目撃して不審に思い、登記情報を確認したところ、Yが平成28年2月に本物件を購入

していたことが判明した。Xは、Yに書面で事情説明を求めたが、Yは回答しなかった。

同年11月、Xは、Yとの間で売買契約の成立を停止条件とする1080万円の報酬合意が

成立していたところ、Yが故意に本物件の売買契約の成立を妨げたとして、同額の媒介報酬

支払いを求めてYを提訴した。

これに対してYは、媒介契約書は締結されておらず、媒介契約も報酬合意もなく、別途他

の媒介業者の媒介によって本物件の購入を検討した結果に過ぎないと主張した。

 

2 判決の要旨

裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を全て認容した。

(媒介契約成立の有無)

Xは、平成27年11月30日以降、関係者と売買契約成立に向けた調整を行っていること

に照らせば、Yが申込書をXに交付した時点で、Xが本物件の売買に関する媒介を行い、売

買契約が成立した場合には相当額の媒介報酬をYがXに支払うことについての基本的な合

意が成立したと認められる。

媒介契約書の作成がない場合に宅建業法違反の問題が生じるかどうかは格別、媒介契約

書の作成が実体的な合意の成立要件であるとまでは解されず、媒介契約書が作成されてい

ないことをもって合意の成立が否定されるということにはならない。

(報酬額の合意の有無)

申込書には、仲介手数料として「成約本体価格の3%+6万円」との記載があり、これに

対してYは、1080万円への減額を求めた。また、Xは売買契約時の仲介手数料半金(540万

円)の支払いを求める案内文書をYに交付し、Yは特段の異議や疑問は述べなかった。

そうすると、本物件についての媒介報酬額を1080万円とする黙示の合意がXY間で成立

したものと認められる。

(Yによる故意の条件成就妨害行為の有無)

平成27年12月7日の時点で、売買契約の締結日は同月10日又は11日と具体的な日取

りが絞り込まれ、同月8日には売買契約書及び重要事項説明書の案文が完成しており、売買

契約締結直前の段階にあったと認められる。

したがって、Yは、Xの行った媒介活動を利用しつつ、Xに対しては本物件の購入意思が

なくなったように装ってXを排除し、本物件を購入したものと推認できる。

このことは、Xの行った媒介による本物件の売買契約の成立を、Yが故意に妨げたと評価

すべきであり、YがXに本物件の購入中止を伝えた時期が本物件の売買契約成立直前であ

ったことや、その後間を置かずに他業者の媒介による売買契約の締結に至っていることな

どの事情に照らせば、Yの行為は、許容され得る自由競争の範囲を逸脱し、信義則に反する

ものといわざるを得ない。

Xは、Yに対し、改正前の民法130条に基づき、媒介報酬の支払につき付されていた停止条件

が同日時点で成就したものとみなすことができ、媒介報酬額1080万円を請求できる。

 

3 まとめ

本件は、売買契約締結直前に、契約締結を見送った後、他業者の媒介により当該物件を購

入した買主に対する媒介業者からの報酬請求が認められた事例です。本判決を不服とした

買主は控訴したものの、棄却されています。

本事例と同様に、媒介業者が報酬を請求して、これが認められた事例として、横浜地判 平

18・2・1(RETIO 67-98)、東京地判 平29・11・15(RETIO112-118)、東京地判 平28・8・

10(RETIO108-140)が見られます。

一方で、本事例でも判示されている通り、宅建業者が媒介を行う場合、宅建業法上媒介契

約書を遅滞なく締結することが義務付けられており(34条の2)、この様な紛争を未然に防

止するためにも、媒介業者としては、できるだけ早い段階で媒介契約書を締結することが望

ましいと考えられます。

 

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