民泊と共同利益違反

RETIOメルマガ第133号より

◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

-民泊と共同利益違反-
管理規約上禁止されている民泊営業としての使用が共同利益に反するとした、マンション
管理組合の区分所有者に対する損害賠償請求が認容された事例
(大阪地判 平29・1・13 消費者法ニュース111-313)

マンション管理組合が、本件建物の区分所有者に対し、管理規約上禁止されている不特定
の者を宿泊させる営業(民泊営業)を行っていることは、共同の利益に反するとして、民泊
営業の停止等、及び訴訟に関して支出した弁護士費用50万円の損害賠償を求めた事案にお
いて、当該民泊営業は明らかに管理規約に違反しているとして、賠償請求を認容した事例
(大阪地裁 平成29年1月13日判決 一部認容 消費者法ニュース111号313頁)

1 事案の概要
本件建物の区分所有者Y(被告)は、平成26年11月頃、仲介業者を通じて旅行者に1日
当たり15,000円で本件建物を賃貸する営業を開始し、その営業は少なくとも平成28年8月
上旬ころまでの約1年9カ月間続いた。
(1) 上記の期間中、本件建物の利用者により、次のような問題が生じた。
1)Yは、本件建物の利用者のために、キーボックスの所在を知らせるなどして、各利用
者に本件建物の鍵を扱わせた。
2)本件建物の鍵は本件マンションの玄関のオートロックを解除する鍵でもあり、本件建
物の利用者が、鍵を持たない者を内側から招き入れることもあった。
3)Yによる営業のため、本件マンションの居住区域に短期間しか滞在しない旅行者が入
れ替わり立ち入る状況にあった。
4)本件建物を旅行者が多人数で利用する場合にはエレベーターが満杯になり他の居住者
が利用できない、利用者がエントランスホールにたむろして他の居住者の邪魔になる、
部屋を間違えてインターホンを鳴らす、共用部分で大きな声で話す、本件建物の使用者
が夜中まで騒ぐといったことが生じた。
5)大型スーツケースを引いた大勢の旅行者が、本件マンション内の共用部分を通ること
から、共用部分の床が早く汚れ、清掃及びワックスがけの回数が増えた。
6)ごみを指定場所に出さずに放置して帰り、後始末を本件マンション管理の担当者が行
わざるを得ないなど、管理業務に支障が生じ、また、ゴミの放置により害虫も発生した。
7)本件建物およびエレベーターの非常ボタンが押される回数が、月10回程度と多くな
った。
(2) 本件マンションの管理規約12条1号は、本件建物の用途につき、住宅、事務所以外の
使用を規制していたが、本件管理組合は平成27年3月8日に臨時総会を開き、「住戸部
分は住宅もしくは事務所として使用し、不特定多数の実質的な宿泊施設、会社寮等として
の使用を禁じる。尚、本号の規定を遵守しないことによって、他に迷惑又は損害を与えた
ときは、その区分所有者はこの除去と賠償の責に任じなければならない。」と、同規約を
改正した。
(3) Yは、管理規約改正の前後を通じて、管理規約12条1号において、本件建物における
民泊営業が禁止されていることを知っており、また、本件管理組合から注意や勧告等を受
けたが、平成28年8月上旬ころまでは、本件建物を旅行者に賃貸する営業を止めなかっ
た。
(4) 平成27年7月、本件管理組合の理事長兼管理者X(原告)は、総会で承認を得て、Y
に対し、本件建物の民泊営業に関して、区分所有者の共同の利益に反するもの(区分所有
法6条1項)であると主張し、同法57条1項により民泊営業の停止等を求め、併せて弁
護士費用50万円の損害賠償請求を提訴した。
(5) 平成28年10月、Yは結審前に本件建物を売却し、区分所有権を失った。

2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を一部認容した。
(1) 区分所有法57条1項は、「区分所有者」である行為者等を請求の相手方とするもので
あるから、区分所有権を失ったYに対し同項に基づく請求をすることはできない。なお、
Yが本件建物を売却したことにより、Yによる民泊営業は終了したと言わざるを得ない
から、差止請求も認められない。
(2) 管理者は、規約又は集会の決議によりその職務に関し区分所有者のために原告又は被
告となることができ(区分所有法26条)、管理規約違反の行為に対する差止請求等につい
て、費用償還ないし損害賠償を求めることもできる旨定められている。したがって、Xに
本件訴訟における損害賠償請求の当事者適格を認めることができる。
(3) Yの行っていた賃貸営業は、インターネットを通じて不特定の外国人旅行者を対象と
するいわゆる民泊営業そのものであり、旅館業法の脱法的な営業に当たる恐れがあるほ
か、改正前後を通じて管理規約12条1項に明らかに違反するものと言わざるを得ない。
(4) Yの行っていた民泊営業のために、区分所有者の共同の利益に反する状況(鍵の管理状
況床の汚れ、ゴミの放置、非常ボタンの誤用の多発といった不当使用や共同生活上の不当
行為に当たるものを含む。)が現実に発生し、管理規約を改正し趣旨を明確にし、Yに対
して勧告等をしているにもかかわらず、本件建物を旅行者に賃貸する営業を止めなかっ
たため、管理組合の集会で、Yに対する行為停止請求等を順次行うことを決議し、本件訴
訟を提起せざるを得なかったと言える。
そうすると、Yによる本件建物における民泊営業は、区分所有者に対する不法行為に当た
り、弁護士費用相当額の損害を賠償しなければならない。本件の経緯にかんがみると、弁
護士費用としては50万円が相当である。

3 まとめ
平成29年6月に「住宅宿泊事業法」(民泊新法)が成立し、都道府県への届け出や宿泊者
名簿の作成、民泊住宅と分かる標識などを義務付けた上、年間営業日数180日を上限として
合法的に民泊運用をすることが可能になりましたが、民泊は訪日外国人の宿泊の受け皿と
なる一方、本件のようなゴミ出しや騒音などを巡り近隣住民とのトラブルが頻発していま
す。
新法は平成29年6月15日の公布日から1年以内に政令で定められる施行日となってい
ますが、施行前に国交省は各マンション管理組合に民泊の受け入れ可否を管理規約に明記
するよう要請しているところです。住宅宿泊仲介業者も官公庁への登録が義務づけられ、
本件のようなトラブルが横行していた民泊市場も改善されるとともに民泊の仲介業の適正
な遂行が求められています。
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