今日の視点

RETIOメルマガ第140号より引用

★☆《ブロック塀の安全基準と対応策について ★☆

 

先月(2018年6月)18日の大阪北部地震において、震度6弱を観測した高槻市では市

立小学校のブロック塀が道路側に倒れて、通学中の9歳女児が亡くなられました。ご冥福

をお祈り申し上げます。

 

高槻市によると、地震によって倒壊したのは、市立寿栄小学校のプールを囲むブロック

塀で、高さ3.5メートルのうち、コンクリートのブロック8段で組まれた1.6メートル上

段部分(基礎部分は1.9メートル)が、約40メートルにわたって通路側に倒れました。

報道によると、ブロック塀の高さが建築基準を超えているだけでなく、塀を固定する構造

もなかったと言われています。

 

ブロック塀に関しては、建築基準法施行令(62条の8)で、高さ(2.2メートル以下)、

厚さ(15センチ以上)、鉄筋(太さや間隔)、控壁(補助する壁)の設置、ブロック塀の基

礎の根入れの深さ(30センチ以上)といった基準が定められています。

 

国土交通省によると、この基準はもともと、1968年の十勝沖地震の被害がきっかけで、

建築基準法施行令が改正されて策定されたもの(1971年施行)だとされています。また、

その後、宮城県沖地震(1978年)を受けて、ブロック塀の高さを「2.2メートル以下」と

する大きな改正がありました(1981年施行)。さらに、2001年には、ブロック塀の高さが

「2.2メートルを超える」場合でも、「構造計算で安全性を確認できれば建築することがで

きる」と変更され、それ以降は、ブロック塀に関するルールは変わっていませんでした。

 

また、建築基準法施行令の違反にあたるかどうかは、ブロック塀がつくられた時期もポ

イントになります。ブロック塀にかかわらず、建築物は適法につくられたけども、法令が

改正されて「不適格」になるという状況が生じます。いわゆる「既存不適格建築物」と呼

ばれており、建築時の基準で違法に作られた「違法建築物」と区別されています。寿栄小

学校は1974年4月に開校し、同年9月に新校舎に移転しており、プールやブロック塀が

設置された時期については記されていないため、この設置時期も問題になってきます。

 

地震によるブロック塀の倒壊はこれまでも問題になっており、熊本地震(2016年)で

は、20代男性が、約4メートルの高さから落ちてきたブロック塀の下敷きとなって亡くな

り、男性の遺族が、ブロック塀の所有者に対して、損害賠償を求める訴訟を起こしていま

す。

 

こうした既存不適格のブロック塀は全国でどの程度あり得るのでしょうか。国土交通省

によると、「既存不適格」のブロック塀の数は把握されておらず、また、今回のブロック

塀が、建築基準法施行令に違反していたものだったかどうかは、建物を所管している高槻

市が調査することになります。

 

事故が発生したこのブロック塀をめぐっては「建築基準法違反のおそれ」が数年前から

指摘されていました。すでに高槻市長は法令違反の事実を認めて謝罪しています。あらゆ

る建築物は建築基準法などの法令の規制を受けることになっており、法令違反のブロック

塀を放置することは、その設置者に法的責任が発生するわけで、今回の件では、学校や校

長ではなく高槻市が責任を負うことになるわけです。しかし、学校の建築物は、児童生徒

の安全を確保するために、学校保健安全法等の法令の適用を受けるため、学校や校長は、

そこから生じる責任を果たさなければなりません。

 

具体的には、学校設備について「日常的な点検」と「環境の安全の確保」を学校に求め

ています(学校保健安全法施行規則29条)。ちなみに、当該規定は10年前に新設されて

いました。背景には、能登半島地震(2007年3月25日)や新潟県中越沖地震(同年7月

16日)などの地震多発があったためで、特に中越沖地震では、国公私立の合計297校で施

設損壊の被害が出たことから、その教訓を踏まえた法律改正でした。この法律が「学校の

安全」を掲げてから今回の地震発生までに、東日本大震災を経験していたにも関わらず、

この10年間に教育現場は何をしてきたのか、その責任が改めて問われています。

 

当時、法改正を受けて、文部科学省は、2008年7月9日に全国の教育委員会や学校設置

者に向けて、「近年の地震から想定される被害等も踏まえ、施設設備の不備や危険個所の

点検・確認を行うとともに、必要に応じて補修、修繕等の改善措置を講ずることが求めら

れる」(文部科学省スポーツ・青少年局長通知「学校保健法等の一部を改正する法律の公

布について」)との通知を出していました。ここでいう点検や確認とは、建築基準に則っ

たもので、教職員だけで実施するのではなく建築の専門家の協力を得ながら対応するもの

と考えられ、そのための予算措置も当然必要になると考えられます。

 

学校側には教育現場のプロとして、生徒児童の行動パターンや心理状態を想定したうえ

での点検や対策を実施することが求められているのだと思われます。ちなみに、今回倒れ

たブロック塀については、塀の上部が傾いていて「地震が来たら危ない」と卒業生が話し

ていたとの報道もあります。子どもの何気ない一言を現場の教師が汲み取って、職員会議

で話題にして、教育委員会や行政へ届け出て、何からの対策を取ることができなかったの

か、子供たち、地域、学校関係者とのコミュニケーション不足が招いた事故であると考え

られます。

 

過去の報道では、宮城県沖地震(1978年)や福岡沖地震(2005年)で死者が出たこと

から、地震によるブロック塀の倒壊は全国的に問題になっていました。このため、全国建

築コンクリートブロック工業会では、以下のような注意を公式サイトに掲載しています。

「ブロック塀は地面から自立をしている板状の単純な構造物です。見掛けはしっかりして

いても、その一部に安全性が欠けると塀全体の倒壊につながる危険性があります。特に地

震時における道路側への塀の倒壊は、人身への被害また道路を塞ぐことによる避難や救

助・消防活動などの妨げになります。」

そして、同サイトの「診断カルテ」で注意が必要と出た場合には、早急に専門家と相談

をして、そのブロック塀の状態に応じた補強をすることが大切と訴えています。

 

今回の事故を受けて、通学路の安全点検を進めている大阪府が、民家など私有財産のブ

ロック塀についても、ひびや傾きなどの異常が見つかった場合は、速やかに是正に乗り出

すことが明らかになっています。府が強制的に撤去することはできませんが、国に財政支

援も求めながら、個々の所有者に改善を働きかける方針です。

また、通学路の見守り活動の男性(80)が民家のブロック塀の下敷きになって死亡し

た大阪市でも、市独自の制度を創設し、通学路に限らず、地震で倒壊の恐れのある私有ブ

ロック塀について、撤去や建て替えの費用を補助する方向で検討を始めています。

 

先月22日に被災地を視察した石井啓一国土交通相も、こうした費用について支援を検

討する考えを示しました。女児と男性が犠牲となったことを教訓として、公有・私有を問

わず、危険なブロック塀を一掃する動きが本格化しています。

 

全国各地で、既存不適格のブロック塀、老朽化が進む道路沿いの塀が倒壊するリスクが

高まっていると思われます。学校施設に限らず、塀の所有者からのヒアリングもさること

ながら、建築基準法が定める塀の高さ(2・2メートル以下)や補強のための「控え壁」

の有無、ぐらつきなどの目視での確認・点検を徹底し、事故を未然に防ぎたいものです。

 

不動産取引に関わる皆様も、今回の事故をめぐる報道のみならず、その関連で制度的な

変更もあり得ますので、引き続き関連報道に注目して実務に当たっていただければ幸いで

す。当機構としても、出来る限りの情報提供に努めて参ります。引き続きよろしくお願い

いたします。

 

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