◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

RETIOメルマガ第152号より引用

◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

                  

 

[黙示の媒介契約の成立]

 

媒介業者が不動産売買契約を締結した買主に対して、媒介行為をしたとして商法512条

に基づく相当報酬額を請求した事案において、買主と媒介業者との間で報酬額について定

めのない黙示の媒介契約が成立していたとして、その請求の一部を認容した事例

(東京地裁 平成27年3月26日判決 一部認容 ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

 

買主Y(被告・一般事業法人)は、平成25年3月、媒介業者X(原告)の媒介により、Y

所有地に隣接する訴外A及びBがそれぞれ所有する各土地建物についてそれぞれ24億円、

22億4100万円で買い受ける本件売買契約を締結した。

本件各売買契約では、引渡し期日(平成25年9月末)までに売主が売買の目的を阻害す

る一切の権利を解除及び排除して引き渡すものとされていたが、賃借人を退去させること

ができなかったこと等から、各売買契約の特約に基づき、A所有不動産については19億2000

万円に、B所有不動産については17億9280万円に減額されて決裁・引渡しが完了した。

その後、XがYに対して、本件各売買契約の当初売買価額に基づく1億3923万円(3%相

当)の媒介報酬を請求したところ、Yは、「売主の媒介業者であるXが当社に本件不動産の

売り込みをしてきたに過ぎず、当社としては自社の関連会社であるC(宅建業者)に媒介を

依頼しておりXには媒介を依頼していないし、現に媒介契約書も締結していない。」として

報酬支払を拒否したため争いとなった。

 

 

2 判決の要旨

 

裁判所は、次のように判示して、Xの請求を一部認容した。

 

(1)媒介契約の成立について

 

下記により、本件各売買契約が締結されるまでにXとYとの間で、報酬額について定め

のない黙示の媒介契約が成立していたものと認められる。

本件各売買契約書には、立会人(媒介業者)欄にXの記名・押印があり、その特約条項に

おいても「本物件の仲介業者である株式会社X」との記載があり、Xが売主側の媒介業者と

限定する記載はない。また、XはYに対し、重要事項の説明を行い、重要事項説明書を交付

しており、同説明書には宅建業者としてXが記載され、取引態様は売買の媒介とされてい

る。さらに、平成25年9月、XがYに対し、同月30日に行われる本件不動産の引渡しの概

要を説明するとともに、引渡しをもって媒介業務を完了する旨を通知しており、以上の各事

実は、XとYとの間で黙示の媒介契約が成立していたことを基礎付ける事実といえる。

Yは、関連会社Cに媒介を依頼しており、Xには媒介を依頼したことはなく、XはYに本

件各不動産の売り込みをしていたに過ぎない旨主張する。確かに、本件不動産売買契約書の

「立会人(媒介業者)」欄にはXの他に、Cの記名押印があり、YとCの間で一般媒介契約書

が作成されるなどしているものの、本件各売買契約の成約に向けてCがAやBと接触して

媒介行為をしていた形跡はない。

Yは、媒介報酬が1億4千万円弱に達するような場合に、その額や支払時期等の明細につ

いて、何ら契約書が存在しないようなことは常識的にあり得ないと主張するが、不動産媒介

契約は諾成・不要式の契約である上、不動産の媒介報酬に関する累次の裁判例が示すように、

現実の取引においては、媒介報酬が高額に及ぶ場合であっても、媒介契約書を取り交わさな

いまま交渉が進展することも稀有なことではなく、その主張は採用できない。

 

(2)報酬額について

 

宅地建物取引業者(不動産仲介業者)は、不動産取引の媒介を業として営む者であり、

「商人」に当たるから(商法502条11号、4条1項)、その媒介行為は、「商人がその営業

の範囲内において他人のために行為をしたとき」(商法512条)に該当する(最高裁昭和44

年6月26日第一小法廷判決・民集23巻7号1264頁参照)。

したがって、前記認定のとおり、XとYとの間で媒介契約の成立が認められる以上、報酬

を支払う旨の合意や具体的な報酬額の合意がなくても、Xは商法512条に基づき、Yに対し、

相当な報酬を請求することができる。

本件各売買契約に係る不動産売買契約書において、占有者の立退き等に関しては、Xが各

売主と連帯して、その費用負担とその責任において実施することをYに対し確約する旨が

定められていたことを踏まえると、Xの相当報酬額については、減額後の売買代金額を勘案

して定めるのが相当である。

Xは、本件各売買契約の成約のために、相当な労力を費やしたものと評価できるが、一方

で、Yが売主側から提示された1坪当たり1億円という売買価格を受容したことも成約に至

る上で重要な意味を有していたと認められるし、Xは、本件各売買契約が締結される直前ま

で、本件各売買契約の成約に向けて、訴外D不動産と共同で媒介を進めていたものと認めら

れるから、D不動産の成約に対する貢献度も無視することはできない。

以上の検討により、Xの相当報酬額については、減額後の売買代金額を基準として、本件

国土交通省告示が定める媒介報酬の限度額の60%と認め、合計7024万7520円となる。

 

 

3 まとめ

 

媒介の委託関係があったかどうか曖昧な状態で宅建業者の媒介行為がなされ、成約後に

宅建業者から不意打ち的に報酬請求されるような紛争を防ぐため、宅建業法は、取引態様の

明示や媒介契約内容の書面化とその交付を法34条の2第1項にて義務付けています。

本事案は、媒介契約の成立や報酬料率の取り決めを不明確にしたまま取引を進行させて

しまったことが本件紛争の原因になったものであり、このような紛争を未然に予防するた

めにも、取引態様の明示や媒介契約内容の書面化の徹底が不可欠です。

 

 

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