RETIOメルマガ第153号より引用
◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆
[宅建業者の名義貸し責任]
宅建業者の名義を借りておこなわれた原野商法詐欺による損害について、名義貸しをした
宅建業者及びその代表者に対する損害賠償請求が認められた事例
(東京地判 平29・3・28 ウエストロー・ジャパン)
原野商法詐欺を行った者に対し、業務提携として、商号使用を許諾し、実印及び印鑑証明
書を預託していた、宅地建物取引業者及びその代表者の名義貸し責任による、原野商法詐欺
被害者に対する損害賠償責任が、認められた事例(東京地裁 平成29年3月28日判決 認
容 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
Xは、Y1の従業員を名乗るAから電話を受け、Xが所有する山林を600万円で購入すると
の意向を聞かされた。
Aが訪問した数日後にXは、Aに言われるままに、Y1に対して山林を600万円で売却する
との内容の売買契約書に署名押印した。また、このときにXは、Aから事前に50万円の販
売経費等を用意するように指示されていたことから、これを準備してAに手渡した。
その後XはAから、売買取引が原因で税金がかかるため、その対策を弁護士に依頼する
費用を現金で準備するよう指示を受けると、これらを準備して手渡し、都度Aが持参した書
面に署名押印したが、これら書面の内容は、客観的価値からかけ離れた価格でXが、Yと原
野の売買を繰り返す契約書であった。
Xは、各契約は、Aが土地を購入する意思がないXを騙して原野を売りつけるために行わ
れた一連の詐欺行為で、山林の売却に必要な書類だと信じ込ませて署名押印をさせたもの
であり、不法行為に当たると主張して、Aに交付した現金合計1090万円に、当初所有して
いた山林の評価額と、弁護士費用を加えた1343万円の損害賠償をY1、Y2(Y1の代表取締
役)らに対して求める訴訟を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は次の通り判示して、XのY1らに対する請求を認容した。
(不法行為の存否について)
Aは、土地を購入するつもりがないXを騙し、山林の売却に必要な書類だと誤信させて各
契約書に署名押印をさせ、Xから山林及び現金1090万円を詐取したものと認められる。
(Y1、Y2の賠償責任について)
Xに各契約を勧誘したAは、Y1と業務提携を行ったB側の人間と推認されるが、ここで
いう業務提携とは、Bが、Y1の名義を用いて不動産取引を行うというものであり、その実質
は単なる名義貸しというほかない。そして、Y2は、本件業務提携を行うまでBとの間に一
切面識がない上、その実質が単なる名義貸しに過ぎない行為(本件業務提携)を、報酬を得
る目的で行ったほか、本来であれば厳重に管理すべき法人Y1の実印及び印鑑証明書を、B
から求められるままに交付したことは、Y2はBに対してY1の商号を使用して事業を行うこ
とを許諾したと認められ、Xが当該取引(本件不法行為)を行ったことにより被った損害に
つき、会社法9条に基づき、Y1は賠償責任を負うべきである。
実印や印鑑証明書は、一般的に、その所持者についての身分証明や資格証明機能を有する
ため、その管理者は、他人に悪用されないように厳重な管理が求められるが、Y2は、これ
を素性が明らかでない他人(B)に対して求められるままに交付し、その結果、本件不法行
為が行われるに至ったことが認められるから、Y2には、重過失がある。
よってXの請求について、Y1、Y2の責任を肯定できる。
3 まとめ
本判決にあるとおり、自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した
会社が、商号を使用した者の違法行為等により取引を行った第三者に損害が発生した場合、
会社法9条により使用した者と連帯して損害賠償責任を負い、本件のように損害に繋がる
任務に懈怠もしくは重過失があった取締役は、同法429条に基づく賠償責任を負います。
万一、宅建業を営む中で、本件のような業務提携の話を受けることがあったとしても、い
わゆる名義貸しは宅建業法に基づき処分対象になるほか、本判決のとおり、民事上の責任も
大変大きいものとなるので、厳に慎むことが不可欠です。