最近の判例から 宅建士の名義貸し責任

RETIOメルマガ第155号より引用

◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

                  

 

[宅建士の名義貸し責任 ]

原野商法の被害者が、詐欺行為を行った宅建業者に名義貸しをした宅地建物取引士に、共

同不法行為による損害賠償を求めた事案において、宅地建物取引士には名義を貸した宅建

業者が詐欺行為をするなどしてその顧客に損害を被らせることを予見する義務があり、名

義の使用承諾は宅建業者の詐欺行為の幇助にあたるなどとして、その請求を認めた事例(秋

田地裁大曲支部 平成29年9月22日判決 認容 消費者法ニュース115号269頁)

 

1 事案の概要

 

平成28年5月、宅地建物取引士(宅建士)の資格を有していたY(被告)は、紹介によ

り宅建業者Aに専任の宅建士としてYの名義を使用することを承諾した。

同年10月12日、Aは、那須郡所在の山林(那須土地)を所有していたX(原告)に、「札

幌の顧客Pが苫小牧市所在の土地(苫小牧土地)を探しており、XがAからPに対して売る

苫小牧土地を購入してAに80万円を支払えば、AがXから、代金420万円で那須土地を購

入し、同年11月7日にXに80万円と合わせて500万円を支払う」と言って、XがAに代金

420万円で那須土地を売却する旨の売買契約と、XがAから代金500万円で苫小牧土地を購

入する旨の売買契約を締結させ、Xに80万円を支払わせた。

またAは、同年10月27日、Xに対して、「Pの息子Qが妙高市所在の土地(妙高土地)を

購入したいと言っている、XがAから代金600万円で妙高土地を購入し、Aが立て替える300

万円に加えて、XがAに300万円を支払えば、同年11月7日にAがXに、前契約の500万

円と合わせて800万円を支払う、XがAに300万円を支払わなければ、AはXに前契約の500

万円を支払うことができなくなる。」と言って、XがAから代金600万円で妙高土地を購入

する旨の売買契約書を締結させ、Xに300万円を支払わせた。

その後も、Aは同様の手口によってXに売買契約を締結させ、同年11月17日までに、X

に計1880万円を支払わせた。

これらの売買において、Yが契約に立ち会い、重要事項説明をすることはなかったが、各

重要事項説明書・売買契約書には、宅地建物取引主任者としてYの記名・印影があった。

XはYに対し、Aに名義を貸しただけだとしても、詐欺行為を幇助した共同不法行為責任

があるとして、Xが被った損害金、慰謝料、弁護士費用等、計2205万円余の損害賠償を請

求した。

Yは、X主張の事実は全て知らない、YはAに名義の使用を承諾したが、Aがどのような仕

事をしているかについて知らなかったと反論した。

 

2 判決の要旨

 

裁判所は、次のとおり判示し、Yに対し、Xに生じた損害及び弁護士費用の計2095万円余

の損害賠償を命じた。

 

⑴ Yの共同不法行為責任について

証拠等によれば、AがXに対し、詐欺行為を行って、損害を負わせたと認めることができ

るから、Aは不法行為責任を負う。

YがAに名義の使用を承諾した結果、売買契約書及び重要事項説明書に、宅地建物取引主

任者としてYの記名・印影が表示され、そのことによりYがAのXに対する詐欺行為を補

助し容易にさせたと認めることができるから、Yの名義使用の承諾は、AのXに対する詐欺

行為の幇助に当たるというべきである。

また、宅建業法15条が、宅建士は、宅地建物取引業の業務に従事するときは、宅地又は

建物の取引の専門家として、購入者等の利益の保護及び円滑な宅地又は建物の流通に資す

るよう、公正かつ誠実にこの法律に定める事務を行わなければならないと規定しているこ

と、同法15条の2が、宅建士は、宅建士の信用又は品位を害するような行為をしてはなら

ないと規定していること、同法35条が、宅建士は、宅地又は建物の売買等の契約が成立す

るまでの間に、宅建業者の相手方等に対し、重要事項説明書を交付して説明すると規定して

いること、同法68条及び68条の2が、宅建士が他人に自己の名義の使用を許して当該他

人がその名義を使用して宅建士である旨の表示をしたときは、都道府県知事は、当該宅建士

に対し、必要な指示をすることができ、情状が特に重いときは、当該登録を消除しなければ

ならないことを規定していることからすると、これらの規定の趣旨は、宅地又は建物の取引

の専門家の宅建士が、宅地又は建物の売買等の契約が成立するまでの間に、宅建業者の相手

方等に対し、重要事項説明書を交付して説明すること等によって、購入者等の利益を保護す

ることであるというべきである。

これらの規定及びその趣旨からすると、Yは、Aに対し名義の使用を承諾したことによっ

て、私法上、AがYの名義を悪用してAの顧客に対し適法な取引行為を装って詐欺行為をす

るなどして損害を被らせることを予見する義務があり、かつ、予見することができたという

べきであり、Yは、私法上、Aに対し名義の使用を承諾することによって、Aの顧客に対し

損害を被らせる行為をしてはならない法的義務を負っていたというべきである。

 

⑵ 結論

従って、Yは同義務に違反してAに対し名義の使用を承諾し、その過失によって、Aらの

Xに対する詐欺行為を幇助したのであるから、Aとともに、共同不法行為責任を負う。

 

 

3 まとめ

 

宅建業者の「専任の宅建士」となるためには、その宅建士が「(1)その事務所に常勤する

こと、(2)宅建業に専ら従事する状態あること」が必要であり、当該要件を満たしていない

宅建士が宅建業者に、専任の宅建士としての登録を承諾することは、名義貸しに該当するこ

とになります。

宅建業法68条において宅建士の名義貸し行為は禁じられていますがが、東京高裁 平30・

1・9(判例集未登載)、東京地裁 平30・3・27(ウエストロー・ジャパン)と、本件と同様

に宅建業者に名義貸しを行った専任の宅建士に損害賠償責任が認められた事例が続けて見

られることから、名義貸しの違法性と行った場合の責任について、一部の宅建士において十

分な理解・認識がされていないのではないかと懸念されます。

宅建士の登録実務講習・更新講習の講師におかれては、名義貸しが禁止されていること、

名義貸しをした場合には、共同不法行為による損害賠償責任を負う可能性があることにつ

いても、受講者に改めて確認・認識をしてもらうよう、説明をお願いします。

 

 

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