RETIOメルマガ第160号より引用
◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆
[ 報酬請求と調査説明義務]
売買建物にエレベーターの不具合がある等として媒介手数料を支払わない買主に対する媒
介業者の報酬請求が認められた事例
(東京地裁 平成30年 2月28日判決 一部認容 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成26年5月、媒介業者Xは、売主Aから、その所有する事務所ビル(本件不動産)の
売却について媒介の依頼を受け、媒介契約(本件媒介契約)を締結した。
平成27年9月、Aと買主YはXの媒介により、以下の約定で本件不動産を売買する契約
(本件売買契約)を締結し、同日、YはAに対し、手付金として870万円を支払った。
・売買代金 8,700万円(残代金7,830万円)
・引渡期日 同年12月4日
・残代金の支払期日 同月7日
Yは、本件売買契約締結の際、Xに対し、本件媒介契約の報酬として150万円(税込)を
本件不動産の引渡し時に支払う旨を約した。
しかし、本件不動産に設置されているエレベーターが正常に作動しないなどの不具合が
あり、Aの責任において、本件不動産の引渡し前に上記不具合の修理を行うこととなったた
め、12月4日に予定されていた本件建物の引渡しが遅延することとなった。
Aは、Yから本件建物の引渡しが遅延したことについて責任を追及され、Yとの間で、本
件売買契約の残代金を830万円減額した7,000万円とすることとし、平成28年3月、Aは
Yから上記残代金の支払を受けるのと引き換えに、Yに対し、本件不動産を引渡した。
その後Yは、Xは本件不動産のエレベーターに不具合があることを知っていたにもかかわ
らず、Yに対して、これを全く説明していなかったものであり、調査・説明義務を怠った債
務不履行があるとして、Xに対し媒介報酬を支払わなかったため、Xは、裁判所に対し、Yに
対する媒介報酬債権を被保全債権として、本件不動産について仮差押え命令の申立てを行
ってこれを登記し(本件仮差押え)、媒介報酬150万円の支払を求めて本件訴訟を提起した。
これに対しYは、Xの行った仮差押えは保全の必要性を欠く違法なものであるとして、損害
金2,242万円の支払を求めて反訴した。
2 判決の要旨
裁判所は次の通り判示し、Xの請求を認め、Yの反訴請求を棄却した。
(Xの債務不履行の成否)
Xが本件建物のエレベーターの不具合を知っていたかに関しては、認定事実によれば、本
件売買契約が締結された後、Xの担当者Bは、Aからエレベーターの不具合について報告を
受けた際、Aの責任において本件建物の引渡期日までに修理することを確認していたのであ
り、それ以前に上記引渡期日までに修理が完了する見込みがなかったことを把握していた
とうかがわせる事情は見当たらない。
これらによると、エレベーターの不具合については、本件建物の引渡期日までにAにより
修理がされることが予定されていたということができるから、Xにおいて、Yに対して上記
不具合について説明すべき義務があったとはいえない。
本件媒介契約は、その媒介の対象である本件不動産の売買が成立し、その履行も完了した
ことにより、既に目的を達している以上、上記説明義務違反を理由とした解除により、当該
契約の効力が遡及的に消滅するものではないと解するのが相当である。Xの債務不履行によ
る損害賠償責任についても、後記の説示のとおり、Yの主張する損害は、相当因果関係のあ
るものということはできず、これはAとの間の代金減額合意によって既に填補されたもの
と認められるから、これについてXに対し、損害賠償を求めることはできない。
(Xの本件仮差押えに係る不法行為の成否)
Yは、Xの本件仮差押えは本件媒介契約の解除によりYに対する本件報酬債権が消滅して
いるため、被保全債権を欠くものであると主張するが、Yにおいて本件媒介契約を解除する
ことができないことは前記で説示したとおりであるから、この点に関するYの主張は失当
である。
また、Yは、平成27年6月に設立された会社であり、Xにおいて、本件不動産以外にYの
資産が存在することを把握していたものとはうかがわれないのであり、Xにおいて、Yの資
産や収入の状況について調査する手立てがあったとはみられない。こうした中で、Xの媒介
により本件売買契約が締結され、その履行が完了したにもかかわらず、Yにより上記媒介に
係る報酬の支払を拒絶されたことから、Xにおいて、保全手続を経ることなくその報酬の支
払を求める訴訟を提起すれば、Yにより本件不動産の名義変更等がされることによって、そ
の回収が困難となるおそれがあると認識したことについて相当の理由があったことは否定
できず、Xの本件仮差押えについて、不法行為が成立するとはいえない。
3 まとめ
本件は、売買対象物件の不具合について媒介業者に調査説明義務違反があったため、被っ
た損害と媒介報酬を相殺するとした買主の主張が認められなかった事例です。
本判決の「本件媒介契約は、売買契約の履行も完了したことにより、既に目的を達してい
る以上、説明義務違反を理由とした解除により、当該契約の効力が遡及的に消滅するもので
はないと解するのが相当である」との判示は、実務上1つの参考になると思われます。