RETIOメルマガ第91号 定期借家制度と中途解約違約金

RETIOメルマガ第91号より引用しております。

平成12年3月に施行された定期借家制度は、賃貸借期間の満了により確定的に建物賃貸
借契約が終了する制度で、貸主と借主が合意すれば、従来型の普通借家契約でなく、この
定期借家制度に基づく建物賃貸借契約を締結することができます(ただし改正借地借家法
施行前に締結された居住用の普通賃貸借契約については、これを定期賃貸借契約に切り替
えることはできません。)。ご案内とは思いますが、従来型の普通借家契約に基づいて建物
を賃貸すると、貸主は借地借家法28条に基づく正当事由((1)賃貸人・賃借人が建物の
使用を必要とする事情(基本的要素)、(2)建物の賃貸賃貸借に関する従前の経過、(3)
建物の利用状況、(4)建物の現況、(5)賃貸人からの財産上の給付を考慮して判断され
る。)がなければ、賃貸借期間が満了しても借主からの契約更新を拒むことはできません。
貸主が、建物の老朽化や土地の有効利用等を目的とした建て替えが必要だなどとして、契
約の更新を拒み、明け渡しを請求するケースが増えてきているようですが、居住し続けた
いとする借主との間で紛争になり、この正当事由が認められるかが常に争点となっていま
す。
したがって、最初から借主と合意の上で、賃貸借期間が終了したら確定的に建物が明け
渡される、その時合意すれば再契約もできるような定期賃貸借契約を締結できるようにな
った意義は大きく、その普及も事業用賃貸借を中心に進んでいるようです。転勤等のため
自宅を開ける所有者による一時的な賃貸、数年後に建て替えを予定するような建物の期間
限定的賃貸、自宅建築中の仮住まいの受け皿など新たな利用も増えているようです。
一方、定期建物賃貸借の制度導入から10年以上が経ち、その法的課題も明らかになりつ
つありますが、近年よく見られるのが、定期借家契約の賃貸借期間中途での解約における
違約金を巡る紛争です。普通借家契約の場合も、契約書に契約期間(住宅だと2年が多い。)
があり中途解約もありえるわけですが、通常は借主からの解約の規定があり、例えば「借
主は貸主に少なくとも30日前に解約の申し入れを行うことにより解約できる。」「解約申し
入れの日から30日分の賃料を支払うことにより随時解約できる」となっています(逆にこ
の中途解約規定がなかったため、中途解約をしようとした借主が貸主から契約残存期間分
の賃料を違約金として払えといった請求がされたという相談が当機構にも寄せられたこと
があります。)。
現行の定期借家制度においては、特に住宅の借家人は普通借家契約と同じく、例えば1
か月前に解約申し入れをすれば追加負担なく解約できると期待している場合が多いことな
どに配慮して、200平方メートル未満の住宅の賃貸借については、やむを得ない事情がある
場合に限り賃借人から中途解約の申し入れできる、賃貸借契約は申し入れの日から一か月
を経過したら終了するとの規定(法38条第5項)、これに反する特約で賃借人に不利なも
のは無効との規定(同条第6項)があります(ただし、制度導入当時、解約理由が「やむ
を得ない事由」に当たるかどうかなどで当機構にも多くの相談が寄せられたことがありま
す。)。一方、これに当たらない事業用等の定期借家契約については、やむを得ない場合で
も中途解約できないと解釈され、どうしても中途解約する場合は契約残存期間に相当する
賃料を違約金として支払えと契約書に記載される場合が多いようです。
近年多く見られる紛争というのは、この違約金を巡るものです。貸主にとっては、仮に
中途解約されても残存期間分の賃料が支払われるはずとの期待がある一方、借主側として
も予定していた事業が思い通りに進むとは限らず、他へ移転したい、賃料が払いきれない
という可能性が出てきます。料理店など内装工事、設備投資を回収するため長い契約期間
を定めるケースがありますが、残存期間が長くなればなるほど中途解約の場合の違約金も
重いものとなります。
訴訟の際の双方の主張を概観すると、貸主側は、法律上事業用借主からの中途解約申し
入れ規定がなく、契約期間は必ず賃借してくれると高い期待をしている、契約書に中途解
約の場合は残存期間分を払うと規定されていると主張します。借主側は、事業等がうまく
行かず、やむを得ず退去するのであり、長い契約残存期間に相当する賃料分といった高額
の違約金は公序良俗に反する、すでに後継のテナントが入居しているから賃料の二重取り
だなどと反論します。そして判例は、(1)保証金の準備ができず違約解約となった定期借
家の賃借人に対し契約残存期間(10年)の賃料等相当額の違約金を請求したが賃料30か月
相当に限り認容された事例(平成25年7月19日東京地裁)、(2)定期借家の賃借人の賃
料不払いにより契約解除し契約残存期間30か月分に相当する違約金請求が全額認容された
事例(平成25年6月25日東京地裁)、(3)定期借家の賃借人の賃料不払いにより契約解
除し、契約残存期間21か月分に相当する違約金請求したが新たな賃借人を確保するための
合理的期間として6か月相当分のみ認容された事例(平成19年5月29日東京地裁)、(4)
契約残存期間10年に対し、賃貸人が残存期間の一部として2年分の賃料相当分を求め認容
された事例(平成21年1月30日東京地裁)、(5)中途解約の場合に敷金(約10か月分)
放棄する旨の規定を有効とした事例(平成23年8月25日東京地裁)などがあり、賃貸借
期間や残存期間、次の賃借人が見つかるまでの期間等を勘案しながら判断されているよう
に思われます。
定期借家制度で借りよう、特に長い期間借りようとする事業者は、万が一の中途解約の際
の違約金規定についても十分検討し、貸主と交渉すべきでしょう。貸主としては、賃貸借
期間が過ぎれば契約は必ず終了するし、合意すれば再契約もできるという、普通借家制度
にない高いメリットがあります。残存期間にこだわらず、新たなテナントを見つけるまで
の空室期間等に相当する違約金といったレベルにしておけばお互い合意しやすくなります
し、このようなバリエーションを設けることは借地借家法も禁じていません。お互いが納
得いく定期借家契約を締結することが紛争の防止につながり、ひいては、定期借家制度の
普及につながってくるものと思われます。

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