◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆[収益物件の調査説明義務]

RETIOメルマガ第177号より引用

◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

 

[収益物件の調査説明義務]

収益物件の賃貸借契約や建物の状況に関して不正確な情報を提供した媒介業者に債務不

履行責任が認められた事例(東京地裁 令和2年2月18日判決 ウエストロー・ジャパン )

 

1 事案の概要

 

共同住宅兼事務所ビル(本件土地建物)の売主Aより、媒介の依頼を受けた媒介業者Y(被

告)は、Aに賃貸借契約に係る資料や建築確認通知書、検査済証、建物図面等の提出を求めた

が、Aが作成したという家賃管理表(実際の賃料は月84万円余のところ、89万円と記載され

ていた)や建物図面以外は入手ができなかった。

Yは、想定月額賃料(Aの家賃管理表の賃料に、Aが自用する1・ 2階事務所部分のYの想

定賃料を加えたもの)を133万円余とする物件概要を作成しレインズに掲載したところ、これ

を見た買主X(原告・宅建業者)は、本件土地建物を購入して第三者に転売した上で、本件建

物のサブリース契約を結ぶことを考えた。

XはYに、賃貸借契約書や建築確認済証等の開示を求めたが、Yより、それらはないとの回

答を受けた。Xは、建物1階部分の内覧がAの拒否によりできなかったが、市役所にて、本件

建物の建築確認済証・検査済証の発行が確認できたことから、Xは本件土地建物を購入するこ

とにし、平成29年12月、YをA及びXの媒介業者として、Aとの間で、売買代金1億 9000万

円とする売買契約を締結した。

平成30年 1月9日、Xは転売先Bに、本件土地建物を売買代金2億7780万円で売却し、同月13

日に、Bを貸主、Xを借主として、月額保証賃料をY作成の賃貸状況表に記載された想定賃料

と同額の133万円余、契約期間を同月22日より 2年間とする賃料保証型の一括建物賃貸借契約

を締結した。

同月22日のXとAの売買契約の決済が行われた。

その後、Xが依頼した建物管理会社の状況確認により、家賃管理表について、 1室は本件売

買契約前に退去済みであり、2室については賃料が誤っていることが判明した。また、テナン

トの申込みがあった1階事務所部分については、駐車場として建築確認を受けていて、事務所

等への用途変更は容積率違反となることが判明し、申込みはキャンセルとなった。

Xは、Yに対し、重要な事項について調査や資料の開示を行わず、不正確な情報を説明、告

知したとして、Yの本件媒介手数料の全額622万円余、Yより提示された賃貸状況表と実際賃

料との差額2年分183万円、建物1階部分のテナントキャンセルにより得られなかった賃料 4年

分2592万円、計3397万円余の支払いを求める本件訴訟を提起した。

Yは、必要な資料や情報の収集等について売主であるAの協力が得られない一方、Xが本件

売買契約の締結を急ぐ中で、調査義務及び説明、告知義務を尽くしたから、債務不履行責任を

負うことはないなどと主張した。

 

2 判決の要旨

 

裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求について一部を認容した。

 

(Yの債務不履行責任について)

Yは、Xに対し、本件媒介契約に基づく善管注意義務として、Xにとって重要な事項に

ついて、自ら調査し又は売主から資料等の提供を受けるなどして、正確な情報を説明、告

知すべき義務を負うと解される。

本件建物1階は、建築確認済証や検査済証交付の時点では駐車場とされていたが、その

後、店舗に改造されたため、当該用途変更により容積率超過の状況にあったにもかかわら

ず、Yは、本件建物1階が駐車場として建築確認等を受けていることを説明せず、本件建

物の図面を交付することもなかったから、Yには、建ぺい率及び容積率違反の有無、建築

確認申請の状況、本件建物の概況に係る、説明・告知義務を果たしたとはいえず、債務不

履行責任を負う。

本件建物の賃貸借契約の状況は、不動産売買契約の締結に当たり、Xにとって重要な事

項であり、Yは、Xに対し、その正確な情報を説明、告知すべき義務を負うところ、Y

は、裏付けとなる賃貸借契約書等の客観的資料を確認しないまま、Aが作成したという家

賃管理表の内容を鵜呑みにして、何らの留保を付けることなく、事実と異なる賃貸状況表

を作成し、Xに説明したものであるから、本件建物の賃貸借契約の状況に係る説明、告知

義務違反により債務不履行責任を負う。

 

(Xの損害額について)

X主張の、1階部分のテナントキャンセルによる損害については、建物1階が駐車場と

して建築確認を受けている旨を明らかにして入居者を募集していたならば、そもそもテナ

ント申込みはなかったと認められるから、Yの説明義務違反との間に因果関係を認めるこ

とはできない。

Y説明の賃料収入額と実際の賃料収入額との差額による損害については、建物の引渡し

後から本件訴訟の口頭弁論終結時までの間の143万円をもって、Yの債務不履行による損

害と認めるのが相当である。

X主張の媒介手数料の損害については、本件売買契約自体の締結には至っており、本件

媒介契約が解除されたわけではない。よって全額を損害と認めるのではなく、Yの本件建

物の容積率違反の有無等の説明・告知義務違反の内容、程度等に鑑み、支払済媒介手数料

の半額311万円余を損害と認めるのが相当である。

以上によれば、Yの債務不履行によりXが被った損害は、合計454万円余となる。

 

3 まとめ

 

収益物件の賃貸状況は、買主の購入判断に影響を与える重要な事項であり、媒介業者は、正

確な情報提供を行う必要があることを認識しておく必要があります。従って、媒介業者が賃貸

状況を買主に説明する場合には、売主から入手した賃貸状況表が誤っていることがありうると

の認識のもと、その裏付けとなる賃貸借契約書の提示を受け、確認を行い、提示が受けらない

等により不明であった場合には、その旨の留保(リスクある旨)を付けて、その正確性を含め

て賃貸状況を説明する必要があります。

なお、1階駐車場の用途変更による容積率違反事例はよく見られることから、媒介業者にお

いては、建築確認申請図面と現状建物との確認を行っておくべきです。

 

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