◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆申込証拠金授受の時点で事実上不動産売買契約が成立したとする売主の主張を棄却した事例

RETIOメルマガ第181号より引用

                  

◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

                  

[売買契約の成立]

申込証拠金授受の時点で事実上不動産売買契約が成立したとする売主の主張を棄却した

事例(東京地判  令2・6・23  ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

 

平成30年1月9日、本件土地建物の売買について、買主X(原告、法人)は、購入価格

として5,000万円の提示を、売主Y(被告、宅建業者)にしたところ、Yは、商談を開始

するためには200万円の預託をするようXに申し入れた。

同月10日、XとYは、預託金2百万円及び下記内容の「商談申込書・預り証書」を授受

した。

<商談申込書の概要>

Xは次の条件で買受けを希望し、申込証拠金2百万円を添えて本書を差し入れる。

・売買価格:5千万円

・売買条件、その他の条件:別途協議

・申込証拠金取扱:成約の場合は売買代金の一部に充当、成約に至らない場合は全額無利

息にて返還する。

・有効期限:2018年1月25日まで

<預かり証書の概要>

金2百万円本件不動産の商談申込証拠金としてお預りいたしました

・売買交渉金額:5千万円

・交渉が成立の場合:売買代金の一部に充当し、その返還はない

・交渉が不成立の場合:申込証拠金は無利息にて速やかに返還

同年7月13日、XがYに商談の前提として建物の内覧を申入れ、Yがこれを了承した。

同年8月14日、Xが内覧を行ったところ、本件建物には水道が引かれていないこと、配

管の経年劣化が著しく全て交換が必要な状況であることを知り、建物の改修に過大な金額

が必要と判断し、その翌週、Yに買取りの断念と、申込証拠金2百万円の返還を求めた。

しかしYは、2百万円は手付金として受領したなどしてその返還を拒否し、また平成30

年9月5日には返金拒絶の通知書をXに送付したため、Xは申込証拠金の返還と、これに

対する年6%の金員支払いを求める本件訴訟を提起した。

 

2 判決の要旨

 

裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を認めた。

Yは平成30年1月10日に、遅くとも同月25日の経過をもって、本件不動産の売買契約が

成立し、2百万円は売買契約の手付金として授受されたと主張する。

しかしながら、X及びYの交渉経緯や商談申込書及び預り証書の記載内容をみると、X

とYの間に成立した申込証拠金預託契約の内容を反映したものということができ、この認

定を覆すに足りる事情は見当たらない。

以上に加えて、不動産の売買契約では、取引対象の重要性に加え、売買代金も往々にし

て多額になることなどに照らして、代金支払時期や方法、権利移転の時期や危険負担など

契約条件についての当事者間の合意内容を明確にすべき要請が高いことから、契約書を作

成するのが通常であり、本件において敢えてこれを省く合理的な理由は見当たらないこ

と、Yは宅建業者であるところ、Yが売買契約成立を主張する時期に、Xに宅建業法37条

1項所定の書面や、同法35条6項、1項所定の重要事項説明書を交付した形跡がないこ

と、YがXに平成30年9月5日付けで2百万円の返金を拒絶しているところ、その通知書

においては、その理由について、同年1月末までに本契約を締結するとの約束であり、そ

のために借地権者や道路所有者などと話合いをしてきたにもかかわらず、Xの態度がはっ

きりしないまま半年以上が経過したため、放置するわけにもいかず、商談申込証拠金は不

動産媒介代金の一部内金として受領したなどと述べており、売買契約が成立したことを前

提に2百万円を手付金として受領した旨の記載はないことなどに照らすと、XとYの間で

本件不動産を対象とする売買契約が成立したと認めることはできない。

従って、売主の主張はいずれも採用することができず、買主の売主に対する請求は全部

理由がある。

 

3 まとめ

 

不動産売買の交渉をしていたが、買主が売買契約の締結を断ったところ、売主宅建業者か

ら「売買契約は既に成立している」、「預り金は手付金になっているから没収する」などと主

張されるトラブル事例が見受けられます。

宅地建物取引業法においては、契約の成立前に授受される申込金、申込証拠金、契約証拠

金等は名目の如何に関わらず、預り金として取扱われ、申込者から申込みの撤回があったと

きに、売主宅建業者がすでに受領した預り金の返還を拒むことを禁止しており(業法第47

条の2第3号、同法施行規則第16条の12第2号、解釈・運用の考え方第47条の2第3

項関係)、預り金の返還を拒む行為は業法違反により行政処分の対象となります。

申込みの撤回と契約の成立をめぐる関連事例としては、「売渡証明と買付証明の授受後に

買主が購入を取り止めたが、証明の授受により直ちに売買契約が成立するものでないとさ

れ、売主の売買契約成立の主張が棄却された事例」(H2・4・26大阪高裁 判例時報1383-

131)、「事前調印により買主が売買契約書に記名押印後に契約をキャンセルしたが、手付金

の交付がされていないこと、売主が署名押印した契約書が買主に交付されていないことな

どから売買契約は成立していないとされた事例」(H21.2.19東京地裁、RETIO081-82)、「中

古マンションの買主が、内金(契約着手金)振込後に購入を取り止めたが、売主は内金を返

還しなかった点について、売買契約は成立していないとされ、内金の返還が認容された事例」

(H26.12.18東京地裁、RETIO100-114)などがあるので参考にしてください。

 

 

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