◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆直接取引と媒介報酬請求権

RETIOメルマガ第175号より引用

◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

                  

[ 直接取引と媒介報酬請求権]

媒介業者を排除して第三者のためにする契約を行った売主と買主等に対する媒介業者の

賠償請求が認められた事例(東京地判 平30・11・29 ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

 

平成28年10月28日、売主Y1(被告・宅建業者)は、転売目的で取得した土地建物(本

物件)を売り出すことにし、その情報をレインズに、売出価格3680万円、媒介報酬「〈売

主〉3%+6万円」として登録した。

11月初旬、媒介業者X(原告・宅建業者)は、レインズを見て、Y1に本物件が売却済み

か否かを問合せ、未売却であることを確認した。

Xは、上記問合せと同時に、Y1に対し、一般消費者向けの不動産情報サイトへの本物件

の広告掲載許可を求め、数種のサイトに有償で広告を掲載した。本物件の広告を見た買主

Y2(被告・宅建業者)は、11月13日にXに連絡し、本物件の内覧を希望し、翌 11月14

日、買主Y3(被告・Y2の関連会社)を同行してXを訪問し、Y3名義で本物件の購入を相

談する趣旨の受付表を作成し、代金を現金で支払うとの意向を示した。同日、Y2及びY3

は、Xと共に本物件を内覧した。Y2は、11月15日、Xに本物件を購入したい旨を伝え、

Y3と共にXを訪れた。この連絡を受けた Xは、Y1に購入希望者がいることを伝え、契約

締結予定日の打合せを行った。そして、Xは、Y2及びY3に対し、本物件の価格が3680万

円であること、諸費用が媒介報酬額125万円を含めて約180万円であることを説明した。

これを受けたY2は、Y2名義で、購入申込価格を3600万円、売買契約希望日を11月19

日、融資を利用しない条件で購入申込書を作成し、Xが、この書面をY1にファックスで送

付し、Y1はこの申込書を確認した。

Xは、Y1と交渉し、売買代金を3600万円に減額する同意を得て、申込書の通り、11月

19日にY1、Y2間で売買契約書を交わし、その際、Y1、 Y2とXの間で売却、買受双方の媒

介契約書を交わすことになった。

しかし、Y2は、11月17日、Xに対し、現金を用意できないとして売買契約をキャンセ

ルすると連絡した。そこで、XがY1にそのことを伝えたところ、Y1は、2番手で現金購入

の申込が入ったので構わないと述べて難なくキャンセルに応じた。Xは経緯に不審を感じ、

Y2に連絡したが応答がなかったため、Y2の代表者に対し2番手の申込者が Y2でないかの

確認を行ったが返答はなかった。

他方、Y2は、11月18日、Y1に対し、Y3が本物件を購入する旨の買付証明書をファッ

クスで送信した。Y1は、同月22日、この購入申込みに応じ、Y2の媒介により、Y3に対

し、本物件を3600万円で売却した。

Y1は、12月22日、Y2に対し、上記売買契約の媒介報酬として123万1200円を支払っ

た。

上記売買契約には、本物件の売主のY1は、同物件の所有権を、買主であるY3の指定す

る者に対し直接移転する旨の第三者のためにする契約に関する特約が付されており、これ

により、同日売買を原因として、Y1からY3に対し、所有権移転登記が行われた。その後、

Y2は、自社のHPに本物件を貸店舗、貸マンション等として掲載した。

その後、Xは、平成29年2月21日到達の書面で、Y1に媒介報酬の支払を請求し、Yら

に本訴を提起した。

 

2 判決の要旨

 

裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を一部認容した。

 

(買受媒介契約の成否)

認定事実から判断すると、11月15日、X、Y2間に、本物件の売買契約成立を条件とする

買受媒介契約が成立したと認められる。これに対しY2は、購入申込書の作成は、Y3の代

表者個人で相談したもの、Xから価格や媒介報酬等の説明等を受けていないと主張するが、

上記申込書はY2名義であり、Y2の代表者個人で相談したものではないため、Y2の主張は

いずれも失当である。

 

(買受媒介契約のY2の条件成就妨害の有無)

Y2は、一連の経緯を通じ、Y3の名義を利用して自ら本物件を購入したのと同じ効果を取

得した一方、Xに対する媒介報酬の支払を免れたばかりか、Y1からは、免れたのとほぼ同

額の媒介報酬を取得し、いわば二重の利益を得た。また、Y3の代表者は、Y2の取締役を兼

務しており、両社は関連会社であること等から、密接な関連性があったといえる。以上の事

情等によれば、Y2は、Y3がY1との間で本物件の売買契約を締結した時点で、X、Y2間の

買受媒介契約の成就を妨害し、Y3はこれに加担したということができる。

(売却媒介契約の成否)

遅くともXがY1の代表取締役に電話で購入希望者がいることを伝えた11月15日の時

点において、双方の間に、本物件の売買契約成立を停止条件とする売却媒介契約が成立した

と認められる。

 

(売却媒介契約のY1の条件成就妨害の有無)

認定事実に照らせば、Y2及びY3が共謀してXに対する妨害に加担したことは明らかで

ある。

 

(結論)

Y1は、レインズ登録にあたり、売却媒介報酬を「〈売主〉3%+6万円」と表示し、Xは媒

介委託業務を履行したから、媒介報酬は122万1480円である。また、Xは、Y2及びY3の

共同不法行為により、上記と同額の媒介報酬を取得できなかったので、Xが被った損害額は

122万1480円である。

 

3 まとめ

 

宅建業法では、宅地建物の売買・交換について媒介契約書の作成・交付が義務付けられて

いますが、本事案では、Xは、売買契約締結前に、売主であるY1及び買主であるY2との

間で媒介契約を締結していませんでした。

本事案では、YらによるXの媒介行為の妨害が認められましたが、媒介業者は、本事案の

ような係争を未然に防ぐという意味でも、媒介契約が成立した時点において、当事者双方間

で書面を交付することが必要です。

 

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