◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆【目的使用・媒介責任】

RETIOメルマガ第197号より引用

◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆

                  

【目的使用・媒介責任】

排気能力不足について、賃貸人には使用収益させる義務違反、媒介業者には説明義務違反が

あるとする賃借人の請求が棄却された事例(東京高判 令3・12・23 判例集未登載)

 

1 事案の概要

平成30年4月頃、X(原告・飲食業)は、Y2(被告・宅建業者)に対して、セントラルキ

ッチン兼店舗として使用する物件の紹介を依頼した。

同年5月25日、Y2はXに、東京都内に所在するY1(被告・不動産賃貸業者)所有の建物

の地下1階部分(本物件)を紹介した。その紹介書には、「前業種:ダイニングバー、重飲

食相談」等の記載があった。同日、XはY2の案内で本物件を内覧し、XはY2に対して、電

気・ガス・水道の各設備の容量を照会したが、排気ダクトの容量については、確認を求めな

かった。

その後、XはY2に、セントラルキッチン兼店舗を営業内容とする本物件の入居申込書を

提出した一方、Y2はXに、電気・ガス・水道の各設備の容量を回答するとともに、内装工

事業者への確認を求め、その確認が取れたら賃貸人に説明をする予定である旨連絡したと

ころ、XはY2に対して、設備に関してクリアできているので、話を進めてほしい旨返答し

た。

同年6月、Y1とXはY2の媒介により、本物件の賃貸借契約(本契約)を締結するととも

に、Xは前賃借人との間で排気ダクトを含む内装・什器等を現状有姿で譲り受ける造作譲渡

契約を締結した。

同年7月、Xは、内装改装工事に着手したところ、翌月にその工事業者から、設置を予定

している排気設備に対して排気ダクトの容量が、40%程度しかないとの説明を受けた。これ

を受けてXは、Y2を通じてY1とその改修工事の協議をしたが、建物の構造上多額の費用を

要することが判明したことから出店を断念し、同年11月にY1に対して、本契約の解除を

通知した。

平成31年1月、Xは、Y1には本物件を使用収益させる義務の違反、Yらには改修に多額

の費用を要すること等の説明義務違反、がそれぞれあったとして、Yらに既払い賃料・賃借

に要した費用等・逸失利益(1644万円余)の支払いと、Y1に対してはこれに加えて保証金

(320万円)の返還を求める通知を行ったものの、Yらはともにこれを拒絶したことから、

同年3月、XはYらにそれらの支払いを求めて提訴した。

令和3年3月、その請求を全て棄却する判決が言い渡されたことから、これを不服とす

るXが控訴した。

 

2 判決の要旨

裁判所は、次のとおり判示し、Xの控訴を棄却した。

(Y2の義務違反の有無について)

媒介の対象物件について、賃借人の使用目的に合致するものであるか否かについては、そ

の営業形態・設備改修の可能性等複合的な要因に大きく影響されることから、特段の事情が

ない限り、媒介業者において、賃借人の使用目的に合致する物件を紹介すべき義務を負うと

は解せない。

「(1)Xは、本物件を内覧し、排気ダクトについても目視し、電気・ガス等の各設備の容量

をY2に照会し、回答を得ていること、(2)Xは、Y2から各種設備について内装工事業者に確

認を求められていたこと、(3)Xの内覧から本契約締結まで10日以上あったこと、(4)Xは

前賃借人から排気ダクトを含む内装・什器等を現状有姿で譲り受けていること、(5)Xは、

他所で飲食店の経営を行っていること」等からすれば、Xは、排気ダクトの容量が、自らの

目的とする用途に適したものであるか否かについての検討を容易に行い得る立場にあった

一方、Y2に対し、明確に排気容量の要望を伝えたとは認められず、Y2において、本物件が

Xの計画する営業形態に適したものであるか否かの判断を行うべき状況にあったとも認め

られない。

そうすると、Y2はXに対して、Xの使用目的に合致する物件を紹介すべき義務や説明義

務の違反があったとは認められない

(Y1の義務違反について)

Xは、Y1が自らの使用目的に合致する建物を引渡さなかったことは、Y1の義務違反にあ

たると主張するが、Y1は本契約締結後速やかに本物件をXに引渡しており、排気ダクトに

ついて一定の性能を保証したような事情も窺われないことに加え、前記の通り、Xは、排気

ダクトの容量が、自らの計画する業態に適したものであるか否かについての検討を容易に

行い得る立場にあったことからすれば、Y1に本契約上の義務違反があったとも認められな

い。

 

3 まとめ

本件は、賃借した建物が自らの使用目的に合致しなかった賃借人が、賃貸人と媒介業者に

対して、賃借に要した費用や逸失利益等の支払いを求め、棄却された事例です。

裁判記録によれば賃借人は、「他の店舗を賃借した際に媒介を依頼した宅建業者は、自ら

の使用目的に合致する設備等を備えた物件だけを紹介してくれた」とも主張していますが、

媒介業者や賃貸人は、賃借人が予定している具体的使用内容まで把握していないことが多

いうえ、そもそも建物や設備の専門家ではないことから、これらについては、賃借人の責任

で専門家に調査・確認を依頼する必要があります。

事業用建物の賃貸借において、建物の構造や設備の問題から賃借人が目的とする使用が

できないとして、賃借人が賃貸人や媒介業者に賠償を求めたものの棄却された事例は、東京

地判平30・7・14(RETIO119-146)、同令元・7・4(RETIO119-150)、同令3・9・15(RETIO124-

166)など少なからず見られます。

賃貸人や媒介業者としては、トラブル回避の観点から、構造・設備が自らの使用目的に適

合するかどうかについて契約前に賃借人側で十分確認するよう助言することが必要と思わ

れます。

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