◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆ローン特約

RETIOメルマガ第192号より引用

◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆

                  

【ローン特約】

保証人が立てられないことを理由にローン承認取り消しとなった買主のローン特約による

解除が否定された事例(東京地判 令3・8・10 ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

買主X(原告)は、売主業者Y(被告)が分譲する新築マンションを購入するにあたり、

夫のAを連帯保証人とする条件の提携住宅ローンの事前審査をB銀行に申し込み、平成30

年11月27日に事前審査の承認を得た。

同年12月2日、Xは、Yから「ご購入に当たってのご確認事項」と題する書面により、以

下の要旨の説明を受けた。

「融資審査終了後の申込内容の変更などお客様の事由により、融資実行ができなくなった

場合は融資利用の特例は適用されません。」

同年12月9日、XはAと共に、Yから重要事項説明を受け、本件マンションを売買代金

4720万円、手付金472万円とする本件売買契約を締結したうえで、B銀行に正式にローン

申し込みを行った。

本件重要事項説明書及び同時に交付された「購入資金等に関する確認書」には以下の要旨

の記載がある。

[重要事項説明書]

売買契約締結時または上記指定日までに申し込まれたこれらの融資金額の全部またはその

一部について、融資が実行できないことが確定したときは、お客様または売主は契約を解除

することができます。ただし、手続きの遅延、融資の取止め、融資審査終了後の申込内容の

変更などお客様の事由により融資が実行できなくなった場合は、融資利用の特例は適用さ

れません。

[購入資金等に関する確認書]

融資お申込手続き以降に行った新たなローンの借入れや、転職・退職、団体信用生命保険の

告知内容変更等により融資が制限され、契約が続行できなくなった場合の契約解除につい

ては、「融資利用の特例」は適用されません。また、共有者・連帯債務者・連帯保証人の方

の事情により融資が制限された場合においても、上記と同様の取扱いとなります。

その後、B銀行の提携住宅ローンは正式に承認となったが、令和元年5月26日、XはB銀

行に対し、Aが本件住宅ローンの連帯保証人にならない旨を伝えた。その結果、B銀行は、

6月10日、Xに対し、本件住宅ローンの承認取り消しを通知した。

Xは、7月8日、Yに対し、本件ローン特約に基づき本件売買契約を解除したとして、手

付金の返還を催告したが、Yが応じなかったため本件訴訟を提起した。

 

2 判決の要旨

裁判所は、次のように判示して、Xの請求を棄却した。

Xについて、本件ローン特約排除条項の「申込みに対する審査終了後の申込内容の変更」

があったことは明らかである。

Xは、本件ローン特約排除条項の「申込内容の変更」をX自身の事情をXが自ら変更した

場合に限定すべきであり、Aが連帯保証人になることを拒否したことはX自身の事情に当た

らないとか、Aが連帯保証人となるのを拒否したことは買主たるXの「責めに帰すべき事由」

ではないと主張する。

しかし、Aが連帯保証人となる内容で住宅ローンを申し込んだXとしては、その責任にお

いて、Aに対し、連帯保証人となることへの了承を取り付ける義務があるというべきである

から、Aが連帯保証を拒否したことは、Xの「責めに帰すべき事由等」に当たる。

このことは、Xが説明を受けた「購入資金等に関する確認書」において「連帯保証人の方

の事情により融資が制限された場合においても、同様の取扱いとなります。」との記載があ

ることとも整合する。

なお、Xは、AがXの住宅ローンの不正利用を避けるために連帯保証人となることを拒否

したとも主張するが、仮にAがやむを得ない理由で連帯保証人に就任できなくなった場合、

Xには、新たにAと同等以上の信用力のある連帯保証人を付すなど、少なくとも当初の申込

み時よりも住宅ローンの承認が受けにくくなることがないように行動すべき義務があると

いうべきであり、このことは、本件ローン特約排除条項の文言やYが本件ローン特約によっ

て負担する不利益とのバランス〔Yは、本件売買契約の締結によって、たとえ他に有利な買

い手が出現しても本件マンションをX以外に売却することを禁止されて販売機会を喪失す

る不利益を負担する一方、Xは、本件ローン特約が適用されれば、何らの金銭的な負担なく

本件売買契約を解除できることとなる。〕からも当然の帰結である。

したがって、Xによる本件売買契約の解除は、本件ローン特約排除条項の定める場合に当

たり、本件ローン特約は適用されない。

 

3 まとめ

ローン特約は、予定した金融機関からの融資が実行されないことが買主にとって客観的

な障害によるものであったといえる場合に買主に契約解除権を与えるものであり、融資が

不承認となったことに買主の帰責性が認められたり、ローン解除権の濫用や信義則違反が

認められる場合でもローン解除できるとすることは信義則の観点から不合理です。

本事例は、ローンを申し込んだ買主には、申込時の融資条件である連帯保証人の了承を取

り付ける義務があり、それを履行できない場合にはローン特約は適用されないと認定され

たものです。

同様の趣旨で、「共同買主である妹が連帯保証を拒んだことは買主側の責に帰すべき事由

にあたる」とした事例(東京地判平10・5・28 判タ988-198・RETIO43-79)や、「事前審査

において金融機関から示された融資条件に沿った内容でのローン申請を行わなかった」と

してローン特約の適用を否定した事例(東京地判平26・4・18 RETIO 97-88)があります。

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