◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆仲介業者の売主確認義務

RETIOメルマガ第195号より引用

◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆

                  

【仲介業者の売主確認義務】

買主の地面師被害に関し、仲介会社に詳細な本人確認をする義務があったとして、過失相殺

の上賠償責任を認めた事例(東京地判 令3.10.27 ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

仲介業者Y1(被告)は、A所有の本件土地の買主を探してほしいと依頼を受け、平成26

年9月6日、元某市長であり、売主の知り合いでもあるというBと初めて会い、Bから物件

の説明を受けた。

仲介業者Y2(被告)は、X(原告・宅建業者)に、本件土地について、C社が一番手と

して購入を検討しているが、Xも購入に興味がないかと持ち掛けた。

Y1、Y2、B、A、C社は、同年9月8日、本件土地売買の打合せを行い、同月12日

に代金決済することで合意した。Y2はY1に、売主が決済を急ぐ事情を尋ねたところ、Y

1は、Bから聞いた話として、Aは株の損失を早く補填したい、本件土地購入を妻に話して

いないので、Aの自宅に行った場合、この話は壊れるなどと説明した。

同月9日、C社は購入資金を用意できないとして購入を見送ったため、Y2はXに、本件

土地の詳細や、売主は本件土地を購入したことを妻に話していないので、売主の自宅に行っ

た場合、この話は壊れることなどを説明し購入を打診した。また、同月10日、Y2は登記

簿記載のAの住所を訪れ、郵便受けに「A」との記載があることを確認したが、その際、A

と面会を求めることをしなかった。

同月12日、B、Y1、Y2、D(司法書士)等が立ち会いのもと、XとAとの間で、本

件土地の売買契約が締結された。同月16日、X及びAは、Y1、Y2、D等立ち会いのも

と決済を行った。Dは、Aに対し、ア)本件土地の取得時期、イ)転居前の住所、ウ)Aの

娘の氏名と生年月日を尋ねたところ、Aは、上記ア及びイの問いには分からないと回答した

ものの、同ウの問いには正しく回答したため、Dは、本人確認ができたものと判断し、Xは、

Aに対し、本件売買契約代金として、1億5000万円の預金小切手及び現金3240万円を交

付した。

同日、Dは、本件土地の所有権移転登記を法務局に申請したが、印鑑証明書、登記済証が

偽造されたものとして、その申請は同月18日に却下された。

Xは、Yらに対し、Aに代金1億8240万円を詐取されたXの損害は、少なくとも1億5240

万円となるとして、同額の損害賠償を請求する訴訟を提起した。

 

2 判決の要旨

裁判所は、次のように判示し、Xの請求を一部認容した。

(1)Yらの注意義務違反の有無

Yらは、Xに対する不動産仲介契約上の善管注意義務に基づき、売主を名乗る者がなりす

ましであることを疑うに足りる事情がある場合は、運転免許証を確認する義務に加えて売

主の自宅を訪れる、同自宅に郵便物を送付する、売主を名乗る者に本人性に係る不審事由の

詳細について尋ね、回答に不自然な点や矛盾点があるか否かを調査する等の方法をもって、

売主がなりすましでないことを確認する義務を負うというべきである。

次に、Yらになりすましであることを疑うに足りる事情があったかであるが、Aが打合せ

から数日のうちにXに高額の資金を用意させた上、取引が壊れるとまで述べて自宅への訪

問自体を拒絶するという事実経過は、Aの本人性に係る不審事由に当たるというべきであ

る。

また、Aは、本件売買契約締結当日、Dから本件土地の取得時期と転居前の住所を尋ねら

れ、いずれも分からないと回答しており、本人であれば容易に回答できる上記質問にAが回

答できなかったことは、Aの本人性に係る不審事由に当たるというべきである。

したがって、Aが提示した運転免許証その他の文書の外観や内容に一見して不審な点が

なかったことを考慮しても、Yらは、決済日までに、Aについて、住所に郵便物を送付する、

直接事実関係を確認するなどの詳細な本人確認を行わなかったことは、不動産仲介業者が

負担する注意義務に違反したというべきであり、Xに対して債務不履行に基づく損害賠償

責任を負う。

(2)不法行為による損害について

Xは、宅地建物取引業者として、不動産取引の知識や経験を十分に保持しており、Aが初

対面の取引相手であったこと、本件売買契約が高額の取引であったことからすれば、売主の

本人確認をYらやDに任せきりにせず、自ら慎重に行うことを期待されてしかるべきであ

る。

しかも、Xは、Y2から売主の自宅に行った場合にはこの話は壊れるなどと伝えられた上、

本件売買契約締結及び代金決済のいずれの日においても、AがDからの質問に回答できな

かった場面を現認していたのであるから、本人性に係る不審事由の存在を十分に認識し、A

がなりすましであることに気付くことが容易であったというべきであり、Xが買主として

の立場で本件売買契約に関与したにすぎず、Yら及びDに対して仲介手数料又は報酬を支

払って本人確認を依頼していることなどの事情を十分に考慮しても、その落ち度は大きい

といわざるを得ない。

したがって、Xの落ち度は、Yらの過失の程度に比して大きいというべきであり、損害の

公平な分担という観点から、損害額から7割の過失相殺をするのが相当である。

よって、XのYらに対する請求は、4572万円(搾取された金額の3割)の限度で認容す

る。

 

3 まとめ

いわゆる地面師の事案ですが、本取引は売主のなりすましを疑う事由が複数あったにも

かかわらず、仲介業者がそれに見合う本人確認を怠ったとして、仲介業者の債務不履行に

基づく損害賠償責任を認めています。

地面師事例の一つとして紹介するものですが、その手口として本事案内容を確認のうえ、

なりすましを疑う不審事由、その際の仲介業者としての注意義務はどこまで要求されるの

か等参考にしてください。

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