◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆契約の錯誤

RETIOメルマガ第191号より引用

◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆

                  

【契約の錯誤】

買主が太陽光発電事業目的を居住用と偽って行った土地売買契約につき、売主の錯誤無効

の主張が認められた事例(東京高判 令3・10・14 ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

買主Y(被告)が代表社員、Aが業務執行社員を務める太陽光発電事業を行うB社は、平

成26年3月、p市において太陽光発電の設備IDを取得した。

平成28年2月、放牧地として使われていた土地(分筆前土地)の売却を媒介業者に依頼

をしていた売主X(原告)は、Aより、倉庫や古い電車置き場等に使用するとして、分筆前

土地のうち800坪を2000万円で購入する旨の提示を受け、対してXは、670坪を坪3万円

での売却をAに提案した。しかし、その後Aが太陽光発電事業目的で土地を購入しようとし

ていることを知り、平成28年8月、その目的には売却できないとしてAの購入申し出を断

った。

平成29年7月頃、Xは、媒介業者Cより、住宅用として売却するには分筆したほうが良

い旨の助言を受け、分筆前土地の分筆売却を前提とした売却活動をCに依頼した。

平成31年3月、Y(Aの父親)は、媒介業者Dより紹介を受けた本件土地(分筆前土地

の一部)について、居住用または別荘用として使用するとして、Xに土地購入の申し入れを

した。

同年4月、XとYは、本件土地について代金1130万円とする売買契約を締結、同年6月、

本件土地の引渡しと所有権移転登記が行われた。なお、本件売買に際し媒介業者らは、Yの

購入目的が居住用であることを前提に、本件契約の契約書及び重要事項説明書を作成した。

同年8月、Xは、B社が本件土地をYより賃借し、太陽光発電事業を行う計画があること

を知り、本件土地について裁判所に処分禁止仮処分を申立て、裁判所は同月30日、処分禁

止仮処分命令を発令した。

その後、XはYに対し、Yは本件土地を太陽光発電事業用地として利用する目的であった

のに、住宅又は別荘用地として利用するとの虚偽の説明を行って本件売買契約を締結させ

たとして、本件売買契約の詐欺取消し又は錯誤無効を理由に、所有権移転登記の抹消と本件

土地の明渡しを求める訴訟を提起した。

一審は、Xの本件売買契約の錯誤無効の主張を認容、これを不服とするYが控訴した。

 

2 判決の要旨

裁判所は、次のように判示し、一審と同じく、Xの錯誤による契約の無効を認めた。

(1)Yの本件土地の購入目的について

認定事実によれば、Aは、本件土地の購入をXに持ちかけていた平成28年5月時点で、

p市に対し、本件土地を含む部分に太陽光発電設備を設置する計画があるとの届出を行って

おり、AはB社が既に取得済みの設備IDを用いて太陽光発電事業を行うことを前提に、Y

名義で本件土地を購入することをYと協議し、YはAとの協議に基づいて、媒介業者を介し

てXから本件土地を購入するに至った。

このような経過に照らせば、Yは、B社による太陽光発電事業の用地として使用する目的

で本件土地を購入したと認められる。

 

(2)Xの本件契約の動機の錯誤について

Xは、本件土地を居住用又は別荘用の土地であることを前提として本件土地の売却をし

ようとしていたことが認められる。

Yは、媒介業者に対し、居住用又は別荘用の土地を探している旨の説明や文書への記載を

行っており、Xは、媒介業者からその旨を聞いていた。そして、Yは、Xに対し、本件契約

締結に際しても、居住用又は別荘用の土地として本件土地を購入する旨の説明をしていた

のであるから、Xは、Yが、居住用又は別荘用の土地として本件土地を使用するとの認識で

本件契約を締結したことは明らかであり、Xによる本件契約締結の意思表示には、買主によ

る土地の利用目的という動機についての錯誤があったというべきである。

次に、Xによる上記の動機の錯誤について、明示又は黙示の表示があり、本件契約の要素

となったかについて検討する。

Xは、平成28年のAの買受けの申入れを太陽光発電事業に使われることを理由に断った

ことがあるところ、Yが、Aとの協議を踏まえ、B社による太陽光発電事業の目的を当初か

ら有していたにもかかわらず、媒介業者やXに対し、居住用又は別荘用の土地として本件土

地を購入する旨の言動を一貫して行っていたなどの経緯に照らせば、Yは、Xが、本件土地

について、居住用又は別荘用の土地として販売しており、太陽光発電事業用地としては販売

する意思がないことを知っていたために、あえて居住用又は別荘用の土地として本件土地

を購入する旨の言動を行っていたと認められ、以上の経過に照らせば、Xは、本件契約に際

して、居住用又は別荘用の土地として本件土地を販売するとの動機を黙示に表示しており、

Yも、Xの当該動機を知っていたと認めるのが相当である。

なお、Yは、本件契約書や重要事項説明書に、Y又はその関係者が、太陽光発電施設の施

設を設置し、事業をすることを禁止する条項は一切存在しなかったから、本件契約が動機の

錯誤によって無効であることを争うが、そうだとしても、上記経緯などから、本件契約にお

いて、Xによる居住用又は別荘用の土地として本件土地を販売するとの動機は黙示に表示

されて、契約の要素になっていたと解するのが相当でありYの主張は採用できない。

以上によれば、本件契約は、Xの錯誤によって締結されたものとして、無効というべきで

ある。

 

3 まとめ

「売主が当該用途の買主には売却しないと意思表示をしていたのに、買主が目的用途を偽

って購入し当該用途に使用しようとした」という事案は珍しく、錯誤の要件に従って検討・

判断をしている本件裁判所の判示は、実務の参考になると思われます。

なお、令和2年4月の民法改正により、錯誤は、無効から取消しに変更され、その取消し

は善意無過失の第三者に対抗できないとされています。売主が錯誤を主張する場合は、善意

の第三者に処分等が行われないよう、本件のようにすみやかに処分禁止仮処分の申立てを

行う等の対応が重要と思われます。

 

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