◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆宗教法人の不動産処分手続確認義務

RETIOメルマガ第190号より引用

◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆

                  

 

【宗教法人の不動産処分手続確認義務】

宗教法人の不動産処分手続に不備があることを知りながら手続を進めた媒介業者の損害賠

償責任を認めた事例(名古屋地判 令3・3・30 裁判所ウェブサイト)

 

1 事案の概要

 

A宗を宗派とする宗教法人X(原告)の住職かつ代表役員であったY1(被告)とその妻

Y2(被告)は、X名義の境内地に該当しない土地2か所の売却を媒介業者Y3(個人業者・

被告)に依頼し、平成24年11月に土地1を4400万円で、平成25年5月に土地2を1億

7000万円で、各買主に売却する各売買契約を締結した。

本件各売買契約書においては、それぞれ、以下の本件特約が定められた。

(1)本契約は、平成25年〇月〇日までにA宗代表役員から本物件売却の同意を得るものと

します。

(2)前項の条件不成就が確定した場合、売主は、買主に受領済みの金員を無利息にてすみや

かに返還します。

本件特約に基づきA宗宛てに当該物件売却の申請がなされたが、その申請内容に多々不備

があるとして、A宗から却下・返却された。しかし、Y2は申請書や責任役員会議事録に追

記するなど改ざんをしたうえで、A宗に再提出することも承認を受けることもなく、また、

Y3はその事情を知っていたが、そのまま残金決済の手続を行い、所有権移転登記が完結し

た。

平成26年以降の税務調査で、本件土地売却代金がY2の貴金属購入代金に充てられてい

ることが判明し、税務当局は、これは実質的にY1・Y2に対する給与であると認定して、

Xに源泉所得税・加算税を求め、Xは8700万円余を納付した。

平成29年、Xは、Y1(平成28年6月にXの住職を退任)及びY2に対し、本件土地売

却代金の着服横領を理由に、また、Y3に対し、媒介業者として宗教法人法及び規則に定め

る手続を経ていない土地の媒介行為をしてはならない義務に違反したとして、連帯して2億

1400万円の損害賠償を求める訴訟を提起した。

 

2 判決の要旨

 

裁判所は、Y1・Y2による着服横領の事実を認定し、Y1・Y2について連帯して1億

9691万円余の損害賠償義務を認め、媒介業者Y3については、次のように判示して、Y1・

Y2と連帯して1022万円余の範囲で損害賠償義務を負うと判決した。

(Y3の責任)

本件各売買契約上、A宗代表役員の承認が停止条件とされており、本件各売買が宗教法

人であるXの財産処分である以上、Xの媒介業者であるY3は、上記停止条件の成否はも

とより、公告や責任役員会の議決の有無についても確認する義務があったと解される。

Y3は、本件土地の所有者はXではなくY1個人であると聞かされていたため、宗教法

人法等の手続は不要と考えていたと主張するが、本件土地の所有者がいずれもXであるこ

とは全部事項証明書から明らかであり、本件各売買契約が売主をXとして締結されている

ことは、Y3が媒介業者として押印した本件各売買契約書から明らかであって、Y3が本

件土地の所有者を誤信していたとは考えられない。

また、本件各売買の売買契約書には、A宗代表役員の承認を条件とする旨が明記されて

いることなどからすると、Y3が本件土地の売却のために宗教法人法等の手続が必要であ

ることを知らなかったとは考えられない。

Y3は、媒介業者として、本件土地売却の打合せに出席し、本件工事申請書及び本件議

事録を作成し、A宗からの不備返却後、これにY2が追記した際にも同席していることか

らすると、上記記載及び追記の際、本件各売買がA宗代表役員の承認や責任役員会の議決

を経ていないにもかかわらずこれらの手続が執られているかのような形式が整えられたこ

とを認識していたと認められる。

したがって、Y3は、Xの媒介業者として、宗教法人法及び本件規則に定める手続を経

ていない本件土地売却の仲介行為をしてはならない義務を負っていたにもかかわらず、上

記義務に違反したと認められる。

(Y3の責任額)

Y1・Y2の着服横領は本件売買後の事情であり、宗教法人等の手続を経ない財産処分

であれば、通常、宗教法人の代表者らによる着服横領が行われることを予見できたとまで

はいえず、特別損害といわざるを得ない。したがって、Y3の債務不履行又は不法行為と

Y1・Y2の着服横領による損害との間に相当因果関係があるとは認められない。

しかし、Xが本件各売買につき支払った仲介手数料、建物解体費、測量費、印紙代、司

法書士手数料の合計1022万円余については、Y3の債務不履行又は不法行為と因果関係の

あるXの損害といえ、Y3は、Y1・Y2と連帯して損害賠償義務を負う。

 

3 まとめ

 

本事案は、不動産の処分に際して宗教法人法や当該宗教法人の規則に定める手続の不備

があることを知りながら売買手続を進めた媒介業者の損害賠償責任を認めた事例です。

宗教法人が所有不動産を売却する場合、責任役員会の決議(宗教法人法第19条)に加え

て、その行為の少なくとも1月前に、信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示

してその旨を公告しなければならない(同法第23条第1号)とされています。さらに、X

の規則では、上部教団であるA宗の代表役員の承認を得ることが必要であり、売買契約書に

も特約条件として明記されていました。

宅建業者が宗教法人の不動産売却の媒介に携わる場合、当該宗教法人においてどのよう

な意思決定手続が必要であるか、司法書士等のアドバイスを得ながら正確に把握するだけ

でなく、それらが適正になされているかについても書面で検証することが重要です。

 

 

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