◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆無免許営業幇助

                  

◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆

                  

無免許営業幇助

営利法人の6件の転売取引に関与した買主側媒介業者代表者に無免許営業幇助を認定し罰

金刑を言い渡した事例(名古屋高判 令4・9・15 ウエストロー・ジャパン)

1 事案の概要

 宅建業免許を有していない、a社(日用雑貨品卸売業等・代表者A)及びその実質的な子

会社b社(不動産賃貸業等・実質的経営者A)、(以下、本件各社)は、Aが副組合長である

P土地区画整理事業の区域内の土地について、Y(被告・宅建業者y社の代表者)や第三者

から、土地の所有者が売却を希望しているので購入してもらえないかと言われて購入し、そ

の取得から約2年の間にa社は4物件の売却を、b社は2物件の売却を行い、各取引につい

てy社は媒介業者として関与して買主より媒介手数料を受領した。

 この一連の取引に関し、Aよる本件各社の本件各取引は宅建業法12条1項の無免許営業

に該当し、Yは無免許営業罪の共同正犯が成立するとして起訴された。

 原審(名古屋地判 令4・3・10)は、本件各社による無免許営業を認定し、YはAと意思

を通じて自己の犯罪として本件無免許営業に関与したもので、無免許営業罪の共謀共同正

犯が成立するとして、Yに罰金50万円を言い渡した。

 Yは、原審判断について、訴の受理に関する違法、事実誤認、法令適用の誤り、量刑不当

等を主張し控訴した。

2 判決の要旨

 裁判所は、原審の無免許営業罪の共謀共同正犯の認定を破棄し、無免許営業幇助を認定し

て、Yに罰金25万円を言い渡した。

(1)公訴権濫用の主張について

 Yは、a社がY以外の業者を仲介人として宅地等を売却した事案は立件されていないこと

から、Yが関与した事案だけが立件された本件は、公訴権を濫用した不平等起訴で、公訴は

棄却されるべきと主張する。

 しかし、検察官の裁量権の逸脱が公訴提起を無効ならしめる場合は、公訴の提起自体が検

察官の職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られ、本件はそのような場合に当たら

ない。審判の対象になっていない他事件は犯罪の情状等の事情が明らかでなく、他事件の公

訴権の発動の状況と対比することのみによって本件公訴提起が検察官の裁量権を逸脱した

ということはできない。

(2)本件各社の無免許営業の該当性について

 Yは、本件各社が行った本件各取引は無免許営業に該当しないと主張する。

 そこで検討すると、転売された各土地は、Aが、Y又は第三者から土地の所有者が売却を

希望しているので購入してもらえないかと言われ、本件各社が購入したもので、本件各取引

がされた当時は遊休不動産と指摘されていたこと、本件各土地の購入時期はいずれも仮換

地指定の後であり、いずれ宅地として整備され、値段が上がる可能性が高かったといえるこ

と、Aにおいては、本件各社が利用しないままこれらを所有し続けるつもりはなく、住宅や

商業施設等を建築したい者が現れれば売却することを想定していたことなど、いずれも、購

入時において、本件各社に本件各土地を事業に利用する具体的な予定、計画があったとは認

められない。

 そして、本件各取引の相手方は、本件各会社の業務とは関連なく、その土地の取得を希望

した個人や会社であり、本件各取引の売買代金は、購入した金額より高くなっていること、

本件各社は、他にも本件各取引と同様の所有地の売却や、土地の購入をしていたことが認め

られる。

 以上によれば、本件各社は、事業に利用する予定や計画がないまま、仮換地の指定がされ

ていて、いずれ宅地化されて価格が上がる可能性が高い本件各土地を購入したが、いずれ転

売する予定であって、実際にも、購入時よりも高く本件各土地を売却し、ほかにも同様の土

地売買をしていたのであるから、積極的に土地を買い求め、転売を図ったものではなくとも、

営利目的で宅建業をしたことになるというべきであり、原判決の本件各取引が宅建業法12

条1項所定の無免許営業に該当するとした結論に誤りがあるとはいえない。

(3)Yの正犯性について

 Yは、本件各土地の売却の意思決定そのものに関与していないし、売主から媒介手数料や

売主が転売により得た利益の分け前を受けてもいない。

 Yの行為は、宅建業法上の媒介をする行為に当たるもので、本件各取引を容易ならしめる

ものではあるが、Yが自分たちの犯罪としてAらと一緒になって本件各取引をしたとまで

は言えないことから、Yについては無免許営業幇助の事実を認定すべきであり、無免許営業

罪の共同正犯とは認められない

(4)判決

 Aが行った宅地建物取引業の無免許営業は、期間の長さ、取引物件の個数、売買代金の額

などからすると、必ずしも軽微とはいえない。Yは、その事情を知った上で媒介業者として

これを幇助したもので、その刑事責任は軽視できない。そうすると、Yに対しては、主文の

罰金刑が相当である。

3 まとめ

 無免許者の宅建業取引に、宅建業者が媒介等により関与することは、宅建業法が目的とす

る「不動産取引の公正の確保・悪質な不動産業者の排除」を脅かす、無免許営業という犯罪

行為を、免許を持つ宅建業者が手助けすることであり、宅建業法においては宅建業法12条

1項の違反行為に不当に関与した(同65条2項5号)等として行政処分の、刑法において

は幇助犯(刑法62条の1)として刑事罰の対象となります。本件では、売主の無免許営業

を知りながら、取引の幇助を行った刑事責任は軽視できないとして、宅建業者代表者に罰金

刑が言い渡されています。

 無免許営業を知りながらの幇助は論外ですが、売主・買主が、無免許営業の認識なく転売

等の取引を行おうとする場合があるので、媒介業者においては、取引に際して、買主には購

入目的の確認を、売主には不動産の取得経緯と売却事由の確認を行うことが重要であり、無

免許営業が疑われる場合には、より慎重な対応を行う必要があります。

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