◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆融資特約による解除の通知

RETIOメルマガ第193号より引用

◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆

                  

融資特約による解除の通知

売主側媒介業者が、買主より依頼された融資特約による解除通知を、解除期限までに売主

に通知しなかったため、契約を解除できなかった買主が、既払の手付金等相当額の賠償を売

主側媒介業者に求めた事案において、媒介業者に信義則上の義務違反があるとしてその請

求を認めた事例。(東京地裁 令和3年10月22日判決 ウェストロー・ジャパン)

 

1.事案の概要

買主:X(原告・飲食業)は、売主:A(不動産管理業)と都内所在の土地(本物件)に

関して、売主側媒介業者:Y(被告)、買主側媒介業者:Bが介在する売買契約(本契約)

を令和2年8月27日に締結した。

<本契約の概要等>

・売買代金:9000万円

・手付金:450万円

・融資特約事項:Xの融資の全部又は一部が否認された場合には、令和2年9月19日まで

であれば解除でき、AはXから受領した金員を返還する。

同年9月28日、XとAは、Xが9月30日までにAに対し、更に内金を450万円支払う

一方、融資特約の契約解除日を10月6日までに変更することなどに合意し、9月28日に

Xは450万円の内金をAに払った。

Xは同年10月5日、融資申込の金融機関より融資が否認されたため、変更後の融資特約

に基づき、本契約を解除することなどが記載された「融資の解除に関する覚書(本件覚書)」

に記名押印し、Bへ交付した。Bは、Yに対し、融資が否認されたこと、Bにおいて本物件

の購入が可能かを検討している内容を記載し、本件覚書のデータを添付したメールを送信

した。

Yは、同年10月10日に初めて、Aに対し、Xから同月5日に本件覚書を受領したという

連絡をした。YがAに本件意思表示の内容を伝達しなかったのは、Aが本件融資特約の解除

期日を延長したにもかかわらず、本契約が解除されることに納得しないと考えたためであ

り、Yは、Bが本物件を購入することが決定してからAに伝えようと考えていた。

Xは、同年12月22日、Aに対し、内容証明郵便により、本件手付金及び内金の返還を求

めたが、Aは、令和3年1月11日、Xに対し、内容証明郵便により、Xから変更後の融資

特約の解除期日である令和2年10月6日までに、融資特約に基づく本契約を解除するとい

う連絡又は通知を受けていないとし、手付金及び内金を返還しない回答をした。

Xは、Yが融資特約の解除期日である令和2年10月6日までにAに対して意思表示の内

容を伝達しなかったため、本契約を解除することができず、Xには既払の手付金及び内金合

計900万円の損害が生じたと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき900万

円の支払いを求めた。

 

2.判決の要旨

裁判所は、下記の通り判示し、Xの請求を認容した。

Yは宅地建物取引業者であり、本契約に売主媒介の立場で関与したものであって、本契約

の成立やその後の履行に密接に関与すべき立場にあったことが認められるところ、このよ

うなYの立場に照らすと、Yは、売主であるAのみならず、買主であるXに対しても、Xが

売主媒介であるYに対して本契約に関する意思表示をした場合、その内容を了知したとき

には遅滞なくAに対してその内容を伝達すべき信義則上の義務を負っていたというべきで

ある。

しかるに、Yは、買主媒介であるBから変更後の融資特約の契約解除期日以前にXが意思

表示をした旨の連絡を受けたにもかかわらず、Aに対してその内容を伝達せず、あえて秘匿

したのであるから、信義則上の義務に違反したものと認められる。

そして、Yは、独断で上記の行動をしたものであるから、Yに上記信義則上の義務違反に

ついて故意が認められることも明らかである。

すると、Yが変更後の融資利用特約の契約解除期日以前に、Aに意思表示の内容を伝達し

なかったことは、Xに対する不法行為に当たるものと認められる。

Xは、Yが前記、信義則上の義務に違反して変更後の本件融資特約の契約解除期日以前に

Aに本件意思表示の内容を伝達しなかった結果、本件融資利用特約に基づく解除ができず、

Aから手付金及び内金の返還を受けることができなくなったと認められるから、Xには、Y

の不法行為により、本件手付金及び内金各相当額である900万円の損害が生じたものと認

められる。

以上により、Yは、Xに対し、900万円の支払義務を負う。

 

3.まとめ

媒介業者が、融資特約による契約解除の通知を、売主へ伝達しなかったことが信義則上の

義務違反として認められた本件の判示は、不動産取引における媒介業者の「通知を伝達する」

ことの参考になるものと思われます。

買主は、本件とは別に、売主に対して、本契約を解除する意思表示をしたにもかかわらず、

売主が既払の手付金及び内金合計900万円を返還しないとして、不当利得返還請求権に基

づき、900万円の支払いを求める裁判を行っていますが、こちらは、買主の意思表示が媒介

業者を介して売主へ到達したとは認められないとして、その請求が棄却されています。

(東京地判 令3・10・22 ウェストロー・ジャパン)

意思表示の通知は、相手側に到達したときから効力が生じる(民法第97条1項)とされ

ており、判例では「到達したとは、意思表示がその相手方にとって了知可能の状態に置かれ

たことを意味し、意思表示の受領権限を付与されていたものによって受領されあるいは了

知されることを要するのではない」(最一判 昭36・4・20 民集15・4・774)等があり参考

にしてください。

最近、メールやインターネット等の普及により、相手方に意思表示を通知した、受けてい

ないといった内容でトラブルに発展するケースが見られます。媒介業者におかれては、トラ

ブル回避の観点から、通知後に相手方へ確認をとるなどの確実な対応が必要と思われます。

 

Leave a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください