RETIOメルマガ第105号より引用しております。
- 居住目的の土地売買に関し近隣住民の記憶に残る20年以上前の自殺事件等につき媒介業
者の説明義務が認められた事例
個人の住宅建築を目的とする土地売買において、20年以上前の自殺事件が、同家族によ
る殺人事件と関連して近隣住民の記憶に残っている状況下においては、媒介業者には当事
件を買主に説明する義務があるとして、売買の契約後決済前にその事実を知ったが買主に
説明しなかった媒介業者の不法行為責任につき慰謝料等を認めた事例(高松高裁 平成26
年6月19日判決 控訴棄却 附帯控訴棄却 確定 判例時報2236号101頁)
1 事案の概要
X(個人・夫婦)は、Y(宅建業者)の媒介により、売主A(個人)との間で、本件土地(約
182㎡)を小学生2人の子と暮らす住宅の建築を目的として、平成20年12月1日に以下の
条件にて売買契約を締結した。
・売買金額:2750万円
・手付金:275万円
・手付解除期限:平成21年1月19日
・決済日:平成21年1月30日
・特 約:売主は瑕疵担保責任を負わない
過去本件土地に関しては、昭和61年1月に当時の本件土地及び地上建物の所有者Bの内
縁の妻が、本件土地と関係のない場所にてその子Cに殺害され、その遺体がバラバラにさ
れて山中に埋められるという事件があり、また昭和63年3月にBの子Dが本件建物内で自
殺する事件があった。平成元年9月に地上建物は取り壊され、以降本件土地は更地のまま
複数の所有者の間で転々譲渡された。Aは約6年前にYの関連会社Eより本件土地を購入し、
以降貸駐車場として使用していた。
Yは、本件決済日の数日前に本件事件等を知ったが、既に20年以上も経過しており、建
物も取り壊されていたことから説明義務はないと考え、Xに説明しなかった。
Xは、本件決済を行った直後に地域の不動産業者から本件事件等を知り、平成21年2月
2日、Yの担当者に本件売買を白紙撤回したい旨を申し入れた。しかし、Yの担当者は、A
には白紙撤回に応じる意思がないこと、Yの対応に非はないことを回答した。
XはYに対し、本件事件等は購入判断における極めて重要な事実であり、「(1)本件契約時
に本件事件等を知っていたYに説明義務違反がある、(2)契約時に本件事件等をYが知らな
かったとしても、本件土地が事故物件であるか否かの調査義務違反がある、(3)遅くとも代
金決済日の数日前に本件事件等を認識していたYは、ただちにXに説明しなかった義務違
反がある」と主張して、本件土地の買受価格と自殺等に係る物件であることを前提とする
現在価額との差額、慰謝料等の合計1815万円余の損害賠償を求め提訴した。
1審判決は、前記(1)、(2)の主張を排斥したが、(3)の主張を一部認め、慰謝料150万円
及び弁護士費用20万円を認容した。
これを不満としたXは控訴し、またYも敗訴部分の取り消しを求めて附帯控訴を行った。
2 判決の要旨
裁判所は、Xの各主張につき次の通り判示して原審判決を支持し、Xの控訴及びYの附帯
控訴を棄却した。
(1) 本件事件等から四半世紀近くが過ぎ、自殺のあった建物もその自殺の約1年後に取り
壊され、以降更地になっていたとしても、マイホーム建築目的で土地の取得を希望する者
が、本件事件等が近隣住民の記憶に残っている状況下において、あえて本物件を選択し取
得を希望するとは考えにくい以上、遅くとも代金決済日の数日前に本件事件等を認識して
いたYには、これをXに説明する義務を負うと言うべきである。
(2) 本件売買契約締結当時、Yが本件事件等の存在を認識していたと認めるに足りる証拠
はない。また、対象物件において事故物件性の存在を疑うべき事情は認められなかったこ
とから、売買の仲介に当たる宅建業者Yに事故物件の存否を調査すべき義務があったとも
認められない。
(3) 前述(1)により、YにはXに対する本件事件等の説明義務違反が認められるが、Yが本
件事件等の存在を知ったのは手付解除期限後であることから、Yの不法行為と相当因果関係
があるXの損害は、本来であれば本件売買契約の締結後、代金決済や引渡手続を完了しな
い状態で、本件売買契約の効力に関する売主との交渉等が可能であったのに、Yの説明義務
違反により、代金決済や引渡手続を完了した状態で売主との交渉等を余儀なくされたこと
による損害にとどまり、具体的には、このような状態に置かれざるを得なかったことに対
する慰謝料と考えるのが相当である。
Xは、原判決による慰謝料150万円が、Xの被った極めて甚大な苦痛に対し著しく低廉に
すぎると主張するが、その損害は交渉上の不利益を甘受することを余儀なくされたという
不定型なものであり、この損害を金銭的に評価するに当たって、仲介手数料90万円との均
衡も勘案し、Xの慰謝料額を150万円とした原判決の認定は是認し得る。
3 まとめ
自殺等による心理的瑕疵は、時の経過などにより相当程度風化、希釈化され、合理的に
もはや一般人が忌避感を抱く程度にあたらなくなった場合は、瑕疵に該当しなくなったも
のと判断された事例(参考:東京地判 平26・8・7 本誌124頁)が見られるところ、本件
は、自殺のあった建物は既になく、また事件より20年以上も経過した後の取引であるにも
かわらず、宅建業者の本件事件等の説明義務を認めた事案である。
本件判断は「(1)自殺事件が社会的耳目を集めた殺人事件と関連した事件として今なお近
隣住民の記憶に残されていること、(2)買主の購入目的がマイホームの建築であること」等
から、相当年数経過するも本件事件等が買主の判断に重要な影響を与える事項に該当する
と判断し、買主の購入目的を知る媒介業者の説明義務を認めたものと思われる。
取引不動産における過去の事故等が、説明義務にあたる心理的瑕疵に該当するかについ
ては、明確な基準がないことから宅建業者を悩ませるところであるが、本件事例は、その
判断において上記(1)、(2)も重要な要素となること、そしてその瑕疵が契約後に判明した
場合であっても、決済前であれば買主の交渉機会保全のため、宅建業者に説明義務がある
ことに注意を要する事例として参考となる。
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