RETIOメルマガ第91号 最近の判例から

RETIOメルマガ第91号より引用しております。

★建築後約40年を経過した建物の所有者である賃貸人による明渡請求が否定された事例
(東京高判 平24・12・12 ウエストロー・ジャパン)
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建築後約40年を経過した建物の所有者である賃貸人が、賃借人に対して、賃貸借契約の
解約申入れには正当事由があるとして、立退料の支払と引替えに明渡しを求め、一審がそ
の請求を認めたため、賃借人が控訴した事案において、賃貸人の解約申入れには正当事由
がないといえ、立退料の給付申出によっても正当事由は補強できないとして、原判決を取
り消し、賃貸人の請求を棄却した事例(東京高裁 平成24年12月12日判決 原判決取消
確定 ウエストロー・ジャパン)

1 事案の概要
賃貸人Aは、平成5年6月3日、賃借人Bに対し、建物(以下「本件建物」という。)を、
契約期間平成5年6月11日から平成6年6月末日まで、賃料月額61,000円、共益費月額
2,000円等の約定で賃貸した(以下「本件賃貸借契約」という。)。Bは平成9年3月3日に
死亡し、本件賃貸借契約の賃借人は、妻であるYとなった。
Aは平成21年9月8日に死亡し、X(原告)が、相続により、本件建物の所有権及び本
件賃貸借契約の賃貸人の地位を承継した。
Xは、平成22年7月6日、Y(被告)に対し本件賃貸借契約を解約するとともに本件建
物の明渡しを求める旨通知し、通知から6か月が経過した。
Xは、(1)債務整理のため、本件建物の明渡しを受け、その敷地部分を処分する必要が
ある、(2)本件建物の賃貸による収益性は低く、敷地部分を含めた有効利用を図る必要が
ある、(3)本件建物は、建築後40年を経過しており、建替えが必要であり、また、補強
工事をすることにより問題解決をすることはできず、地震に耐え得る強度にすることが緊
急に必要である、(4)上記事情に加え、相当額の立退料を支払う用意がある、などと主張
して本件建物の明渡しを求めた。
一方、Yは、(1)賃借開始から現在までの間、平穏にトラブルを起こすこともなく本件建
物に居住し生活を続けており、賃料及び共益費も遅滞なく支払っている、(2)現在、本件
建物に長男及び長女と同居し、心臓の障害により障害者手帳の交付を受けており、遺族年
金による収入しかない、(3)Xは、莫大な遺産を相続しており、債務を返済することがで
きるはずである、(4)本件建物に経年変化があるとしても、倒壊のおそれがあるほど老朽
化はしていない、また、耐震工事が必要であるとしても、取り壊すのではなく耐震工事を
施せば足りる、(5)Xの主張する立退料の提供では、正当事由を補完することができない、
などと主張して争った。
一審は、立退料60万円の支払と引換えに明渡しを求める限度でXの請求を認容し、これを
不服としてYが控訴した。
なお、一審の被告はY外4名であったが、控訴後、和解又は訴えの取下げにより、当審に
おける審判の対象はYのみとなった。

2 判決の要旨
高等裁判所は、以下のとおり判示し、原判決を取り消し、Xの請求を棄却した。
1 X(賃貸人)側の事情について
Xには多額の負債があるが、他方、相続等により多額の資産を相続し、その相続税も完納
しており、自己の債務の支払にも遅滞が生じていることが窺えないこと等を考慮すると、
Xには、本件建物の敷地を売却等して有効利用する必要に迫られている状況にあるとまで
認めることはできない。そうすると、Xにおいて、本件建物又はその敷地を使用する差し
迫った事情があるとまでは認められない。
本件建物は、昭和47年に建築され、建築後約40年を経過している。しかし、本件建物
に居住するには格別の支障がなく、併せて本件建物の平成22年度の固定資産税評価額が53
万円余とされていることを考慮すれば、本件建物が大規模な修繕をしなければ居住できな
い状態にあるということはできない。
木造建物においては,上部構造評点が0.7以上1.0未満であると地震の際倒壊する可能
性があると判定されており、本件建物も、地震の際倒壊の可能性があることは否定できな
い。しかし、本件建物の上部構造評点は0.96と1.0に近い数値である上、本件建物につい
ての耐震工事は比較的容易であるというべきである。そして、その費用負担は、Xだけが
負担するのではなく、賃料の増額等によりYと応分の負担をすることで対処することも可
能である。したがって、本件建物の賃貸借に重大な影響を及ぼす事情があるとまでは言い
難い。以上によれば、本件建物は古く、耐震性の点からも建替えの必要があるとのXの主
張は理由がない。
2 Y(賃借人)側の事情について
Yは、1か月当たり約9万円の遺族年金と長男及び長女からの生活費の援助で生活してい
る。そして、Yの生活は現在の居住地でほとんどが成り立っている。
Yは、これまで、Xとの間で本件建物賃貸借契約を巡りトラブルがあったなどの事実は
なく、本件建物の明渡しを巡る紛争が発生するまでは、XとYとの関係は、円満に推移し
ていた。
3 正当事由についての総合判断
正当事由の有無を判断するに当たっては、賃貸人側の事情、賃借人側の事情を総合して判
断すべきところ、上記でみてきたとおり、賃貸人側と賃借人側の事情を比較検討すると、
本件建物賃貸借契約の解約には正当事由がないというべきである。この点に関し、Xは、
Yに対し、当審で和解が成立した他の賃借人に対する明渡料と同額の120万円の立退料の
給付を申し出ている。しかし、正当事由の主要な考慮要素である賃貸人と賃借人との建物
使用の必要性の点等において正当事由が認め難い本件にあっては、上記金額の立退料の給
付の申出の事実をもって、正当事由を補強することはできないというべきである。

3 まとめ
建物の老朽化を理由に、賃貸人が、賃借人に対して明渡しを求める事案が多く見られる。
老朽化による建替えを理由とした建物(店舗兼居宅)明渡し請求が相当の立退料の支払い
と引き替えに認容された事例(本誌本号166頁)もあるが、本件では、高等裁判所は、借
地借家法28条に基づいて、賃貸人側、賃借人側それぞれの事情を見た上で、立退料の給付
の申出も考慮して、正当事由はないとの総合判断を示していので留意されたい。

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