RETIOメルマガ第94号 今日の視点

RETIOメルマガ第94号より引用しております。

★高齢者向け住宅について考える

不動産の再生にかかる法律問題や資金調達等関連する課題を把握するため、当機構では

今年2月から国交省や関係団体の参加を得て不動産再生委員会を主宰しておりますが、今

年7月には、現在急速に供給を伸ばしているサービス付き高齢者専用賃貸住宅(以下「サ

高住」と呼びます。)について取り上げ、サ高住誕生の契機となった平成23年高齢者すま

い法改正に尽力し、自らも多くのサ高住を運営されている学研ココファンHDの小早川仁

社長をお迎えし、高齢者向け住宅を取りまくマーケットの変化と課題について講演いただ

きました。

学研と言いますと、「学習と科学」など私も子供の頃にお世話になった教育雑誌のイメー

ジがありますが、学研ココファンは、約10年前に社長を含め3人で立ち上げた社内ベンチ

ャーを源とし、自ら地域のケアマネジャーや民生委員等にインタビューしてマーケットリ

サーチを行いながら高齢者向け住宅の整備・提供を進めた結果、今では年間100人を超え

る採用を行うまでの上場会社になったとのことです。UR団地内に整備した大規模な高齢

者向け住宅にあえて子育て支援施設などを併設するなど、これまでのビジネスとの連携に

も努めた社内ベンチャーの成功事例と言えるでしょう。

お話によると、立ち上げ時の問題意識は、当時の高齢者向け住宅は入居者にとって初期

費用や賃料等が高額である一方、低額で入居できる特別養護老人ホームのような施設は入

居待ちが多く(今年3月の厚生労働省集計によると、特別養護老人ホームの入居待機者は

全国で約52万2000人に上り、前回集計(2009年12月)の約42万1000人より10万人以

上増えた、高齢化に伴い入居希望者が増えたためとみられるとのことです。)、良質な高齢

者向け住宅を何とか手の届く価格帯で供給できないかということだったそうです。小早川

様は、この高齢者向け住宅の供給の現状を「外車と満員電車」と形容しておられます。

確かに、新聞では毎日のように高齢者向け住宅の広告を見かけますが、一時入居金は一

千万円を超え、月々の利用料も決して安くはなく、年金に不安のある自分はとても無理だ

なあと漠然と思っていました。ちなみに、学研ココファンが運営している高齢者向け住宅

の居住者平均年齢は81.8歳とのことですが、今年65歳と高齢者入りした団塊の世代が、

あと10年経つと後期高齢者となり、万が一の安否確認や介護需要に備えたサ高住などの高

齢者向け住宅を探し始めます。しかし、現在の入居金等のレベルでは、上場企業の部長ク

ラスでも余裕をもって入居できない可能性が高く、10年後を見据えて、ハードは贅沢でな

くてもいいから、住み慣れた地域、医療介護、経済面の安心、プライバシーなどソフトの

部分を充実させた高齢者向け住宅の大量整備を行う必要があると述べられています(議事

概要については準備でき次第当機構HPで公開します。

http://www.retio.or.jp/research/pdf/saisei_kenkyukai_005.pdf)。

当機構に寄せられる電話相談の中にも、単身高齢者の入居をできれば断りたいという家

主さん側の相談もあります。むろん相談されても困るわけですが(現在入居中の方におか

れては家賃滞納などがない限り借地借家法により居住の権利が守られています。)、家主さ

んとしては、賃借人の安否確認や隣人関係、万が一の場合の残置財産整理などの一抹の不

安があることも理解できます。

このように、高齢者の住まいの確保は、決して市場任せにできず、国や自治体を挙げて

取り組むべき深刻な課題と言えます。例えば、大阪府は昨年秋からサービス付き高齢者向

け住宅家賃減額補助制度を設け、低所得高齢者向けのサ高住の供給促進を図るとともに、

家賃の一部を事業者に補助する事業を行っています。他にも、移住・住みかえ支援機構は

高齢者向け住宅への住み替えを希望されるような高齢者の方々が所有する住宅を一括借り

上げする事業を行っていますし、厚生労働省も、NPO法人などが空き家を借り上げ、見守り

などの生活支援を付与した「高齢者ハウス」として低額な賃料で貸し出すモデル事業を始

めています。

政府もサ高住など高齢者向け住宅の大量供給の必要性を認識しており、今後10年で60

万戸の供給を目標に上げています。確かに、サ高住はスタートわずか2年で約13万戸が供

給される急増ぶりですが、昔からある有料老人ホームが約32万戸、養護老人ホームは約7

万戸で頭打ちであることと比べても相当高い供給目標であり、従来のような一般地主の土

地有効活用型小規模集合住宅の整備では追い付かず、入居者の満足にもつながる保証もあ

りません。昨年のメルマガでもご紹介しましたが、政府は、市場から大量に民間資金を調

達して優良なシニア向け住宅などを大量に購入・長期保有するJリート(ヘルスケアリー

ト)の創設を促しています。すでに1社が事業を開始し、今後、数社が追随する見通しで

す。このようなヘルスケアリートが最後の買い手として控えれば、事業者は所有・運営す

る高齢者向け住宅の不動産部分をヘルスケアリートに売却、再びリースバックを受けて経

営を続けながら、その売却資金で新たな施設を開発できるという好循環が生まれます。国

や自治体が公費で高齢者向け住宅をどんどん作ることはできないわけですから、このよう

な民間資金の活用は不可避と言えるでしょう。

高齢者の増加と住まいの確保は我が国だけの問題ではなく、ヘルスケアリート発祥の地

である米国のみならず世界の先進国共通の課題です。例えば、ロンドンにBattersea Place

と言う65歳以上のみが買える団地があり高齢者の住み替え需要に応えていること、このよ

うな団地開発が必要だが自治体は高齢者が急激に増えるのを怖れ65%の開発申請が却下さ

れていること、開発者に求めるインフラ負担が重いため自治体は高齢者向け住宅開発に限

りインフラ負担を免除するなどもっと応援すべきだとの記事がありました(Economist 2014

年1月4日号)。我が国の高齢化進行は世界一です。2000年にスタートした介護保険制度に

引き続き、高齢者の住まいについても、何とか世界のモデルとなるような取り組みが期待

されるところです。

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