RETIOメルマガ第94号より引用しております。
反社会的勢力と関係の深い事務所の説明をしなかったことが信義則上の説明義務違反に当
たるとされた事例
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購入した土地の近隣のビルに暴力団事務所があるとして契約解除又は損害賠償を請求し
たところ、同事務所は暴力団事務所ではなく、暴力団と関連の深い興行事務所で、周辺の
平穏を脅かす事象の発生は認められないとして、契約解除は認めず、売主(宅建業者)の
信義則上の説明義務違反にあたるとして、原告の請求額を減額して認容した事例。なお、
反訴として提起された売主財産の仮差押えに関する損害賠償請求については、紙幅の関係
で割愛した。(東京地裁 平25年8月21日判決 控訴、本件部分控訴棄却 ウエストロー・
ジャパン)
1 事案の概要
平成23年1月31日、宅建業者Y(被告)は、担保不動産競売手続(以下「競売」という。)
において都心部の土地(206.90平方メートル、以下「本件土地」という。)を1億7188万
円で取得し
た。本件土地の北西側には4m道路を挟んで地下1階地上3階建のビル(以下「Aビル」
という。)が存在する。
競売における当初の評価額(売却基準価額)は1億5642万円で、最高価買受申出人の申
出価額は2億円であったが、最高価買受申出人から「Aビルが指定暴力団の事務所として
使用されている」として売却不許可の申し出がされたため、追加の現況調査が行われ、追
加の現況調査報告書には「Aビルは、外観上特別な建物と思われるものは見当たらず、玄
関にある集合郵便受けには『B社』と表示されていた。」と記載され、また、補充評価書に
は、警視庁の回答として「暴力団情報の提供する要件に該当しないため回答しかねます。」
とされ、「警視庁への調査嘱託の結果等からは必ずしも明らかではない。」とされたが、競
売市場の減価率を10%修正し、評価額は1億3407万円に下方修正された。
同年9月7日、占い・美容等のコンテンツの制作・提供会社X(原告)は、Yとの間で、
本件土地を2億円で売買する契約(以下「本件契約」という。)を締結し、同年10月28日
までに売買代金の全額を支払った。
同年12月3日、Xは、本件土地上の時間貸駐車場の不適切な使用に関する駐車場管理会
社への問い合わせによりB社の事務所(以下「本件事務所」という。)が暴力団事務所であ
ると知ったとして、Yに対し、B社の存在により本件契約の目的を実現することが事実上
不可能となったとして、債務不履行を理由に契約を解除する旨の意思表示をした。
平成24年3月28日、Xは、宅建業者のYは、信義則上、契約の相手方が売買契約の締
結判断に重要な影響を与える事実を知っている場合にはこれを説明し告知する義務がある
として説明義務違反の債務不履行による売買契約の解除、また、Xに本件土地の周辺環境
に影響を及ぼす施設はないと誤信させ本件契約を締結させた行為は詐欺に該当し不法行為
を構成するとして詐欺による売買契約の取消し又は売買契約の錯誤無効を理由とする原状
回復請求権に基づく損害賠償、予備的に説明義務違反又は瑕疵担保責任に基づく損害賠償
を求めて訴えを提起した。
2 判決の要旨
裁判所は次のように判示し、Xの請求の一部を容認した。
(1)Aビルの所有者(法人)の代表取締役等は、過去に指定暴力団の幹部又は組長として報
道された人物と同姓同名で、B社は一般に指定暴力団傘下の団体として認識されているこ
と等から、本件事務所は、指定暴力団と密接な関係を有する団体及びその構成員らにより
使用されている事務所であると推認することができる。
(2) Yは、競売の補充評価書及びYの警察ОBの顧問が入手した「指定暴力団系にあたる
興行事務所であり、暴力団事務所ではなく、組員の出入りもない。」との情報から、本件事
務所は単なる「興行事務所」とするが、暴力団対策法上の事務所でないとしても指定暴力
団と密接な関係のある団体及びその構成員らにより使用されている事務所であると認める
ほかなく、Yは、追加の現況調査が行われた経緯及び本件事務所が「指定暴力団系の興行
事務所」であると認識していたと認められる。
(3)Yは、本件事務所が暴力団事務所であるかの確認しようとしたのだから、近隣に暴力団
事務所等が存在することが契約締結の判断に影響を及ぼす重要な事項であることを容易に
認識することができ、また、近隣に暴力団が関係する興行事務所があるという告知は容易
に行うことができる性質のもので、信義則上の説明義務違反は免れない。
(4)本件土地周辺は閑静な住宅地で、本件土地の100m圏内に女子校が存在すること、前面
道路が小学校の通学路であること等に照らすと、本件事務所の存在によりXが本件契約の
目的が達成することができなくなったと認めることはできない。
(5)説明義務違反は、本件契約に基づく債務の不履行の問題ではないから、債務不履行を
理由とする本件契約の解除の理由とはならない。
(6)Yが、Xを欺罔する意図で本件事務所の存在を秘していたとは認められず、詐欺取消
を前提とするXの主張は認められない。また、近隣に暴力団事務所等がないことがXの意
思表示の内容として特に表示されていたことはなく、Xの主張する錯誤は法律行為の要素
の錯誤とは認められない。更に、本件土地が、一般の宅地が通常有する品質や性能を欠い
ているということはできず、瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任の請求は理由がない。
(7)Yには、本件事務所の存在を告げなかった信義則上の義務違反があり、Yの説明義務
違反と相当因果関係のあるXの損害としては、本件事務所の存在による減価率1割を乗じ
た2,000万円を相当とする。
3 まとめ
本件は、近隣の事務所が指定暴力団と密接な関係のあるとしながらも土地の瑕疵とは認
めなかったが、購入時の価格決定において減価要因とされた事項なので、宅建業者には信
義則上の説明義務があるとした事例で、警察照会等で暴力団事務所とはされなかったとし
ても説明すべき事項であるとした注目すべき判例といえる。近隣の暴力団事務所を土地の
隠れた瑕疵として土地価格を20%減じた事例(東京地判H7.8.29・RETIO32)もあるので参
照願いたい。
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