RETIOメルマガ第95号 最近の判例から

RETIOメルマガ第95号より引用しております。

○賃貸用マンションの契約において、契約解除ができる旨の特約内容により売買代金返還

請求が認められた事例

 

賃貸用マンションの買主が、契約に際して合意された特約内容が実行されなかったとし

て、売主に対し、主位的に契約解除に基づく売買代金返還と損害賠償を、予備的に不法行

為に基づく損害賠償を求めた事案において、特約記載が有効とされ、売買代金返還請求が

認められた事例(東京地裁 平成24年12月14日判決 ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

平成22年3月26日、買主X(原告)は、売主宅建業者Y(被告)との間で、マンシ

ョン一室(以下「本件物件」という。)の売買契約を締結し、売買代金2270万円と記載

した売買契約書を取り交わした。

同年4月5日頃、Yの担当課長Bは、Yが作成しBがXに交付した「〇マンション経営

システム」と題する書面に「家賃保証致します。」「2010年8月末までに借り換えによ

り抵当権を解除します。借り換え後の金利は3%以下とします。以上がなされない場合、

本売買契約を白紙撤回し、マンション購入代金を全額返還し、契約を解除します。上記一

切の係る手数料はYが全額負担します。」(以下「本件記載」という。)と記載した。

同年4月23日、Xは、売買代金を支払うために、自宅不動産に抵当権を設定し、住宅

ローン会社から2270万円を借り入れ、Yに同額を支払った。

同年5月14日、Yは、X銀行口座に82万円余を振り込んだ。

その後、Xは、Bにローン借り換えの履行を求めたが、履行しないため、Yに対し、本

件売買契約には借り換え斡旋特約があると主張して、その履行を催告した上、10月4日

頃、本件売買契約を解除する旨の意思表示をし、提訴した。

 

2 判決の要旨

裁判所は、次のように判示して、Xの主位的請求を、売買代金と認められる範囲で認容

した。

Yは、Bは「〇マンション経営システム」と題する書面に、借り換えあっせん特約、家

賃保証特約等の文言を記載したことに関し、「記載は、BがXの言うままに書かされたもの

であり、XもBも、それが直ちに売買契約の内容になるという認識はなかったし、また、

借り換えあっせん特約を付する権限は、一営業社員にすぎないBには与えられていなかっ

た。」と主張し、Bも同様の証言をする。

しかしながら、本件記載が、Xの言うとおりの文言を記載したものとしても、Bにとっ

て、その記載の意味するところを直ちに理解し得る内容であり、本件記載にはBの署名も

付されていること、本件記載は、YがXに本件物件を紹介する際に用いた「〇マンション

経営システム」と題する書面にされていること、Xは、以前にYから購入した物件で損失

を被っており、本件物件購入による更なる損失を避けたいと考えていた等の事情に照らせ

ば、Bは、Xに対し、本件記載により、本件借り換えあっせん特約、本件家賃保証特約等

の特約を売買契約に付することを約した事実が認められる。

また、本件記載により、BがXに約した内容は、最低家賃額を保証すること、金利が3

パーセント以下のローンに借り換えができるようにし、実現できないときは、Xは本件売

買契約を解除することができ、その際の諸経費はYが負担する、というもので、これらは、

基本的には売買契約を締結する権限を有する者が、契約締結の付随条件として付すること

のできる性質のものと言え、Bが売買契約を締結する権限を有していた以上、本件記載を

内容とする各特約を付する権限も有していたものということができる。

以上から、Yは、売買契約について、本件記載を内容とする特約を付したものというこ

とができる。

返還すべき売買代金額は、本件物件以前のX・Y間の売買において、Xからの売買代金

の入金後、Yは、Xに対して代金額を値引きする趣旨で金員をX銀行口座に入金し、これ

を明確にする合意書を作成していたこと、本件売買においても、契約締結後、XはYに対

して2270万円を入金した後、Yは、X銀行口座に82万円余を振り込んだ上、Xに対

し、売買代金額を変更した旨が記載された合意書を送付したこと、Xはその書面をYと交

わすことはしなかったが、Yに同金員を返還することもしなかったこと等の事実から、X

銀行口座に入金された82万円余は、売買代金の値引き分と認められ、売買代金は218

7万円余であると認めるのが相当である。

また、Yは、売買契約締結に当たり、本件記載の特約を付したものと認められるから、

Xが売買契約を解除する場合、Xにかかった手数料、諸経費等も負担すべき義務がある。

Xの支払いの内、ローン利息、ローン解約手数料、本件物件に設定された抵当権抹消手

数料、取得税等の税金、火災・地震保険料合計218万円余は、Yの債務不履行と相当因

果関係のある損害と言え、Xの損害に当たる。

一方、Xが受領した本件物件の賃料、本件物件購入による節税相当額の合計223万円

余は損益相殺として、Xの損害から差し引くべきであり、結果、Xが請求できる損害金は

存在せず、Xは、Yに対し、本件売買契約の代金として2187万円余の限度で返還を求

めることができる。

 

3 まとめ

媒介の実務上は宅建業法37条で求められる交付書面を契約書が兼ねる場合も多く、ま

た、疑義が生じぬよう契約書面が必要とされているため、特約の記載も契約書にされるこ

とが一般的である。

しかしながら、営業活動において、宅建業者社員が、セールストークを超えるような回

答や物件パンフレットに記載をすることが特約とみなされる可能性もあり、本件はその事

例である。

契約書には記載がないものの、契約に至る過程から、買戻し特約が認容された事例(名

古屋地裁 H13.2.8判決 RETIO50-5参照)や、建築条件付き土地契約において、契約書

には記載はないものの、土地広告チラシに記載のあった契約解除内容が認容された事例(名

古屋高裁 H15.2.5判決 RETIO57-1参照)もあるので参考とされたい。

なお、本件では、借入れにおいて虚偽の売買金額で手続きを行っているが、金融機関も宅

建業法65条1項1号の「取引の関係者」に該当することから、宅建業者として行うべき

行為ではない。

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