RETIOメルマガ第95号より引用しております。
売却に関する仲介依頼を受けたが、事務担当者が産休取得中で媒介契約書の準備が
なかなかできない。業法34条の2は「(要旨)媒介の契約を締結したときは遅滞なく書
面を作成し依頼者に交付しなければならない」としているが、交付はいつまでにしなけ
ればならないか。
法令では、「遅滞なく」という言葉は時間的な即時性を要求する用語として使用され、
「○日以内」といった確定的な期限を示してはいないものの、「早く」ということを意
味しているとされています。
法令では、時間的な即時性を表す言葉として「遅滞なく」の他に「直ちに」「速やか
に」という用語が用いられます。
宅地建物取引業法では、これらの用語が次のような頻度で出現します。
業法 | 施行令 | 施行規則 | |
直ちに | 2 | 0 | 0 |
速やかに | 4 | 0 | 1 |
遅滞なく | 17 | 0 | 20 |
3つの用語には微妙な違いがあるとされますが、内閣法制局法令用語研究会編の「有
斐閣法律用語辞典」では次のように説明しています。
直ちに | ・時間的即時性を強く表す場合に用いられる語
・「遅滞なく」に比べて、一切の遅延が許されず、また「速やかに」に比し急迫の程度が高いものとして用いられることが多い。 |
速やかに | ・同じく時間的近接性を示す「直ちに」、「遅滞なく」に比し中程度の近接性を求めるもので、「できるだけ」、「できる限り」などを付けて又はそのままで訓示的な意味で用いられる。 |
遅滞なく | ・時間的即時性を強く表す場合に用いられる語であるが、「直ちに」とは異なり、正当な又は合理的な理由による遅滞は許容されるものと解されている。 |
また、これらの用語をどのように区分すべきかが争点となった裁判(大阪高判、昭
和37年12月10日)で判示された内容は、理解しやすいものとして広く引用されてい
ます。
(判示要旨)
これらは区別して用いられており、その即時性は、最も強いものが「直ちに」で、 次いで「速やかに」、さらに「遅滞なく」の順に弱まり、「遅滞なく」は正当な又は合理的な理由による遅滞は許容されるものと解されている。 |
業法34条の2の「遅滞なく書面を作成し依頼者に交付しなければならない」を意訳
すると次のようになります。
正当な合理的な理由がないならば、時間的即時性をもって書面を作成し、依頼者に交付しなければならない。 |
そこで、ご質問のポイントとなる次の2点について検討することにします。
(1)「事務担当者の産休」は遅滞が許容される「正当な合理的な理由」に該当するか
(2)「遅滞なく」とは具体的には何日以内なのか
《ポイント(1)》
ご質問をいただいた業者さんの業務分担では、媒介契約書等の作成が産休中の事務
担当者の業務であることが想定できますが、媒介契約書は業に携わっている者であれば
当然に作成できなければならない書類といえ、書類作成の業務を担っている者の産休は
遅延を許容する「合理的な理由」にはならないと考えるべきでしょう。
《ポイント(2)》
業法の定めの中で最短の期限の定めは、施行規則(15条の8第1項)の「(要旨)
法34条の2第5項の国土交通省令で定める期間は、専属専任媒介契約にあっては5日
とする」ですから、「遅滞なく」という時間的即時性が求められる用語が用いられた規
定については、合理的な理由があるとしても「遅くとも4日以内には行う」ことが求め
られていると考えて対応するのが良いでしょう。
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