RETIOメルマガ第96号 最近の判例から

RETIOメルマガ第96号より引用しております。

○居住に耐えられない瑕疵を知りながら契約した証拠は無いとして売主・仲介業者への損

害賠償請求が棄却された事例

 

温泉付きマンションの一室を購入した買主が、その住戸には居住に耐えられない異常な

瑕疵があり、売買契約を解除し、売主には代金の返還及び瑕疵担保責任に基づく損害賠償

を求めると共に、仲介業者には本件瑕疵の調査義務及び説明義務違反があるとして損害賠

償を求めた原審で、各請求が棄却されたため、これを不服として提起された控訴審におい

て、売主が異常な湿気とかびの発生を知りながら買主に告げなかった事実は認められない

など本件事情によれば、売主が瑕疵担保責任を負うことは無く、仲介業者も調査義務及び

説明義務の懈怠は無いとして控訴が棄却された事例(東京高裁 平成21年9月30日判決 棄

却 ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

(1) 平成18年3月29日、買主X(控訴人)は、昭和50年築の温泉付きマンションの一室(以

下「本件住戸」という。)を売主Y1(被控訴人)の了解を得て内覧したうえで、仲介業者

Y2(被控訴人)の仲介(仲介手数料12万6000円)により、同年4月23日、売買代金250万円

で購入(以下「本件売買契約」という。)、同日、本件住戸の引渡しを受けた。なお、X

は以前から同マンションの別の住戸(以下「X所有別住戸」という。)を所有している。

(2) 本件売買契約には、本件住戸に隠れた瑕疵がある場合、Y1は、引渡しの日から2か

月間に限り担保責任を負う旨の定めがある。

(3) Xは、引渡後の平成18年5月下旬頃から同年7月下旬頃までの間、本件住戸の改装工

事を行った。その後、本件住戸内に置いた家具等にかびが発生し、湿気が異常なので、1

級建築士に本件住戸の調査を依頼、同年8月28日に結露の発生・漏水の進入の可能性があ

る等と報告を受けた。

(4) Xは、平成18年9月19日、Y1に対し、本件住戸には、居住に耐えられない異常な湿

気が存在する等の瑕疵があるとして、本件売買契約を解除する旨の「契約解除通知書」を

発し、翌日、通知書はY1に到達した。

(5) Xは、Y1が上記瑕疵を知りながら契約したとして、Y1には、売買代金250万円及び

利息、またY1・Y2が連帯して544万0704円の損害金及び利息の支払を求めて訴訟を提起

したが、原審(平成21年5月26日東京地裁)が各請求を棄却したため、判決を不服として控訴

した。

2.判決の要旨

裁判所は、次のとおり原判決を相当と判示し、Xの控訴を棄却した。

(1) 本件売買契約においては、売主であるY1が瑕疵担保責任を負う期間を引渡しの日か

ら2か月に限る旨の定めがあるところ、担保責任に関する規定は強行法規ではなく、特約

によってこれを負わないことも軽減することもできるが、信義則に照らして、売主が知っ

ていて買主に告げなかった瑕疵についての責任は免れない(民法第572条参照)とされるか

ら、この(2か月に限る旨の)定めは有効であって、本件では、XがY1に対して本件住戸

の瑕疵を通知した時点で上記期間が経過しており、Y1は、知りながら告げなかった事実

でない限り責任を負うものではないので、Y1が本件売買契約締結当時において本件住戸

の瑕疵を認識していたか否かを検討することとする。

(2) 本件売買契約締結後に、本件住戸の平均相対湿度が外気やX所有別住戸の居間の平均

相対湿度と比較して顕著に高いこと、本件住戸内にかびが発生していることが認められる。

(3) Y1の家族、親族、友人らは、本件住戸を購入した昭和53年から平成8年頃まで、休

日等にしばしば本件住戸を訪れ、押し入れに収納しておいた布団を畳や床に敷いて寝ると

いう形態で利用していた。Y1は医師であり、かびの健康被害を熟知していたが、家族や

親族の幼児を連れて本件住戸を訪れていたことも、Y1が本件住戸にかびの被害があると

特に認識していなかったことを推認させる。

(4) Y1は、平成2年頃と平成17年11月に本件住戸に改修工事を行っているが、平成2年

頃の工事も、Y1が本件住戸の売却を決めた後に行われた平成17年11月の工事もいずれも

異常な湿気やかびの被害に対処するものではなかった。また、施工業者は、改修工事及び

工事後の浴室及び居室内の清掃を行っているが、この工事及び清掃の際に異常な湿気や異

常な臭いを感じていなかった。

(5) Y1は、本件住戸のソファ等の家具を昭和53年の購入以来25年以上にわたって使い続け、

本件住戸の売却に当たって、これらを取り替えることなく、平成18年3月、買受希望者に

室内の内覧をさせている。

(6) Xが自ら行った平成18年5月下旬のリフォーム工事は、本件住戸全体に及ぶ大がかり

なものであったが、畳下に防湿防虫シートを敷設、床下ピットへの点検口にポリエチレン

フィルムを被せたこと以外に、湿気やかび発生に対する対策は行われていない。よって本

件住戸にこのような現象が存在していたとXが認識していたことを認める証拠はない。

(7) 結局、Y1は、Xに対して瑕疵担保責任を負うことはなく、また、Y2は、Xに対し

て調査義務及び説明義務の懈怠はなく、したがって、Xの本件請求はいずれも理由がない。

 

3 まとめ

本件は、買主が損害賠償請求を提起した時期が、売主の瑕疵担保責任を負う期間を経過

していたため、売主における故意の不告知や仲介業者の調査及び説明義務違反にもとづく

請求をしたと考えられるが、買主が、その請求を立証することの難しさを示す事例である。

買主が瑕疵担保責任を問う場合、瑕疵担保責任期間内に損害賠償請求するのであれば、

契約締結時点の瑕疵の存在を立証すればよいが、その期間経過後は、民法第572条(担保責

任を負わない旨の特約)や民法第415条(債務不履行による損害賠償)または民法第709条

(不法行為による損害賠償)などをもとに損害賠償を請求することになる。ただし、この

場合は、買主は請求の根拠となる相手方の故意過失等を立証する必要がある。

このため、仲介業者は、売主の瑕疵担保責任の免責特約があるような契約締結の際には、

買主に建物の内覧の重要性や免責特約の内容等を十分に説明した上で、媒介業務を行うこ

とが紛争防止の観点から重要と考えられる。

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