RETIOメルマガ第96号より引用しております。
賃貸借契約の仲介業者さんから、月々の家賃と一緒に、定額補修分担金として一定の金
額(例えば、1万円程度)を積立て方式で支払ってもらい、退去時には、積立てた金額は
返還しないという賃貸条件の可否について問い合わせがありました(敷金/保証金、礼金
等は一切無しということです。)。
定額補修分担金については、京都地裁平成20年4月30日判決及びその控訴審である
大阪高裁平成20年11月28日判決によって、定額補修分担金特約が消費者契約法10
条に該当し無効であるとされました。当該判決事案は、賃貸用マンションの契約において、
家賃63千円に対して、定額補修分担金として契約時に16万円(家賃の約2.5倍)を
預かり、退去時には返還しないというものです(当機構RETIO72号72頁参照)。
判決文の中では、民法の規定(616条、598条)を引用した上で「建物の賃貸借に
おいて賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生じる賃借物件の劣化又は価値の減少
を意味する通常損耗については、賃貸人が負担すべきものといえ、賃貸借契約終了に伴う
原状回復義務の内容として、賃借人は通常損耗の原状回復費用についてこれを負担すべき
義務はない」とした上で、本件補修分担金特約は、「賃借人が本来負担しなくてもよい通常
損耗部分の原状回復費用の負担を強いるものと言わざるを得ず、民法の任意規定に比して
消費者の義務を加重する特約というべきである」と判断して、消費者の利益を一方的に害
するものというべきであり、消費者契約法10条により無効であると判示しています。
また、消費者団体訴訟制度に基づいて、適格消費者団体が不動産賃貸及び管理を行う事
業者に対して「定額補修分担金条項」が消費者契約法10条に反して無効であるとして提
訴した訴訟において、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するとして無効とされた
判例もあります(京都地裁平成21年9月30日判決 RETIO78号118頁参照)。
上記の判例での「定額補修分担金」は、退去時には返還請求できないものとされており、
借主である消費者が本来負担しなくてもよい通常損耗の原状回復費用を負担することにな
ることが、消費者の利益を一方的に害すると判断されていることに留意すべきでしょう。
すなわち、金額の多寡によって判断が異なるのではなく、金額が少ないとしても、本来
負担しなくてもよい通常損耗費用を負担することになること自体が、消費者の利益を一方
的に害すると判断されているということです。
建物賃貸借契約においては、当事者である貸主と借主とが契約条件について合意すれば、
合意された契約条件は原則有効ですが、「定額補修分担金」特約条項については、上記のよ
うな判例にも留意する必要があり、契約条件としては回避すべきでしょう。
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