RETIOメルマガ第98号 今日の視点

RETIOメルマガ第98号より引用しております。

宅地建物取引士に期待する

 

あけましておめでとうございます。読者の方々はすでにご案内のことと思いますが、昨

年6月18日に議員立法により宅地建物取引業法が改正され、「宅地建物取引主任者」の名

称が「宅地建物取引士」に変更され、「宅地又は建物の取引の専門家として、購入者等の利

益の保護及び宅地又は建物の流通に資するよう、公正かつ誠実にこの法律に定める事務を

行うとともに、宅地建物取引業に関連する業務に従事する者との連携に努めなければなら

ない(業務処理の原則)。」、「宅地建物取引士の信用又は品位を害するような行為をしては

ならない(信用失墜行為の禁止)。」、「宅地又は建物の取引に係る事務に必要な知識及び能

力の向上に努めなければならない。」といった規定が新設されました。施行は今年4月1日

となっています。

宅地建物取引主任者の名称変更は業界関係者の長年の要望事項であったと聞いており、

当機構としても喜ばしく思うとともに、購入者等の利益を守る宅地建物取引の専門家とし

ての一層の自覚と責任をもって更なる研さんを積まれ、国民の不動産業への信頼向上、流

通円滑化などに貢献していただくことを期待しています。

昨年、当機構が主催する不動産再生研究会で、三井不動産リアルティ様から米国におけ

る不動産流通実態調査報告をいただきましたが

http://www.retio.or.jp/research/research01.html、米国においては、我が国の宅建

業者に対応するものがブローカー、取引主任者に対応するものがエージェントと呼ばれ、

不動産流通の現場において、情報収集や売却依頼を受け、物件調査、近隣取引事例などか

らみた売出価格アドバイス等を行うのはエージェントであること、日本の取引主任者が原

則会社員であるのに対しエージェントは個人事業主の立場をとることが多く、エージェン

トは自分で稼いだ手数料のうち50~80%をコミッションとして受け取る仕組みがあること、

米国にはMLSと呼ばれる不動産情報の共有システムがあるが、エージェントは自身の実

績をアピールする目的で成約実績をきちんと登録しているといった興味深い報告が行われ

ました。

確かに「宅地建物取引主任者」という名称は従業員というイメージがありますが、「宅地

建物取引士」という名称は、その他の士業と同じように、高い専門性を持ち、より独立性

が高いイメージを抱かせます。「宅地建物取引士」の社会的認知が進めば、いわゆる「不動

産取引の先生」に当たるわけですから、依頼者によってはどの宅建業者に取引媒介を依頼

するかだけでなく、どの取引士に担当してもらうかを重視される方々も出てくるでしょう。

優秀と言われる取引主任者は以前仲介した依頼者からの紹介率が高いとも聞きます。また、

昨年開業したある不動産仲介業者は、担当する取引主任者が特に優秀なエージェントか一

般のエージェントかなどに応じて媒介手数料に差をつけるなど取引主任者の能力をアピー

ルしようとする姿勢を打ち出しています。

日米ともども売り物件のほとんどはインターネット上にリストアップされ、購入希望者

はこれを参考に事前に物件を決定し、むしろ当該物件の詳細内容、契約内容等について具

体的なアドバイスを求める傾向が出てきています(宅建業者のエージェント化と形容され

る方もいます。)。これからの宅建業者の強みは、豊富な売り物件情報を多く抱えているこ

とよりも、優秀な宅地建物取引士を多く確保しているかどうかにかかっているかもしれま

せん。経験を積んだ宅地建物取引士が他の取引士と組んで起業し、例えば中古住宅等の買

い手のために詳細な情報を収集する、売り手と交渉するといった事業に特化するケースも

出てくるでしょう。その際、「宅地建物取引士」という資格は依頼者に対する高い訴求力を

持つと思われます。

一方、イメージアップや社会的期待の高まりの表裏とも言えますが、仮にトラブルが生

じた場合、依頼者によっては、依頼先の宅建業者のみならず、担当した宅地建物取引士本

人の責任を問うケースも想定しなければならないでしょう。不動産取引に関連する他の士

業においては、例えば、弁護士では2013 年に各弁護士会が98件の懲戒処分を行いました

し、司法書士、土地家屋調査士、不動産鑑定士についても少なからず行政処分が行われて

いるようです。

現在の取引主任者については宅建業法に基づく行政処分として登録消除(第68条の2)、

事務禁止・指示(第68条)が規定されています。いずれも処分権者は都道府県知事で、毎

年若干数の処分事例があるようですが(例えば宅建業者に対する取引主任者の名義貸し、

取引主任者としての記名押印漏れなど)、実際の行政庁への苦情申し立てや裁判事例などを

見ると、その苦情の相手は主に宅建業者であり、企業の従業員に過ぎないというイメージ

があるのか取引主任者本人への処分や損害賠償を求める例は少ないようです。しかし、今

後、「宅地建物取引士」が広く社会に認知されるようになると、依頼者からの期待度アップ

の表裏として、「あなたは専門家ではないか。」とか「会社と私のどちらを見ているんだ。」

といった苦情も出てくるかもしれません。新たに取引士という資格を明示して業務を行わ

れる方々においては、取引士に対する社会の期待とその責任の自覚、守るべき倫理や専門

知識の向上がこれまで以上に必要になるでしょう。

政府においては、今回の宅建業法改正に合わせて、5年ごとに義務付けられた法定講習に

ついて内容の充実を図ることとしております。当機構においても、宅地建物取引士に対す

る期待や責任が一層大きく重くなることに対応して、改正宅建業法施行前の今年3月を目

途に、重要事項説明に係る法令上の制限の調査内容等についてわかりやすくとりまとめた

「トラブルを未然に防止するために実務において注意したい法令上の制限と調査のポイン

ト(仮題)」及び当機構に実際に寄せられた相談事例を元に事例の内容、事例の考え方、該

当法令、参考判例をコンパクトに取りまとめた「不動産売買トラブル防止の手引き(苦情・

紛争相談と業者責任の考え方)(仮題)」の二冊を主に宅地建物取引士向けに作成し、その

業務の参考に供したいと考えております。ご期待ください。

 

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