相談・紛争事例等より 107

RETIOメルマガ第107号より引用しております。

○ 相談内容 – 申込のキャンセルと契約の成立

月曜日に賃貸物件を見に行き気に入ったが、もう少しほかの物件も見たいので、仲介

業者にその旨を伝えたら「人気物件だからすぐに契約になる可能性が高い」と言われ、

不安になり、重要事項説明を受け、入居申込書を提出しました。契約は土曜日にするこ

とにしました。申込みの際、敷金・前家賃・仲介手数料…等42万円を事前に振り込む

ように言われたので、翌日、振り込みました。ところが、お金を振り込んだ翌日、急に

勤務場所が変更になってしまいました。仲介業者に申込みのキャンセルを伝え、支払っ

た金銭の返還を求めていますが、仲介業者は「貸主は承諾しており、重要事項説明を行

い、契約に必要な金銭の授受も行われているので、契約は成立している。賃料1か月分

と仲介手数料の14万円は返金できない」といいます。返してもらえないのでしょうか。

 

・事例の考え方

契約は、当事者間の意思の合致により成立するのが民法の原則です(諾成契約)。確

かに、実務において、書面による契約の締結が完了していない場合でも、形式的に契約

書面への当事者の記名・押印が遅れているだけで、実質的に契約は成立しているといえ

ることがあります。しかし、不動産取引においては、原則として、契約は契約条件を定

めた書面による契約を締結して成立すると考えられています。

東京地裁 平成3・10・24判決は「後日契約書を作成調印することにより契約を締結

することが明確に予定されている場合においては、それに至る過程での当事者の口頭に

よるやり取りは、特段の事情がない限り、交渉の一環であり、契約の申込みまたは承諾

の確定的な意思表示ではないと推定される」と判示し、諾成契約による契約の成立を否

定しています(類似の裁判例は多くあります)。本件においても、申込みの5日後に契約

の締結を予定しているのであり、いまだ契約は成立していないといえます。

相手方が諾成契約を否定している場合、契約の成立を主張する側には「立証責任」が

生じますが、諾成契約による契約の成立を立証することは容易ではありません。

 

・仲介手数料と「預り金」

本件仲介業者は、賃貸借契約が成立しているとはいえませんので、仲介手数料(媒介

報酬)を請求することはできません。また、申込者が仲介業者に支払った42万円は、

宅建業法上「預り金」として取扱われ、宅建業者は、申込みの撤回があった場合、受領

した預り金の返還を拒むことが禁止されています(宅建業法47条の2第3項、施行規則16

条の12第二号)。預り金は、いかなる理由があっても一旦返還すべきであるとされてい

ます(宅建業法の解釈・運用の考え方)。したがって、本件仲介業者は、受領している預

り金の全額を申込者に返還しなければなりません。

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